Mar 06, 2025
By THEM MAGAZINE
小木“POGGY”基史『Poggy Style: Dressing for Work and Play』

集大成となる一冊
小木“POGGY”基史氏が『Poggy Style: Dressing for Work and Play』をRizzoli社から2025年3月11日に発売する。「リカー,ウーマン&ティアーズ」や「ユナイテッドアローズ&サンズ」のショップディレクションを手がけ、現在はファッションキュレーターやブランドディレクターとして活動する、小木“POGGY”基史氏。日本を代表するファッションアイコンである氏のスタイルを象徴するかの如く、テーラードジャケットにバスケットボールジャージ、つばが広いハットを合わせたスタイリングのアートワークが表紙を飾っている。この油絵は現在高校生の彼の息子が描いたものだという。写真やイラストが多く用いられるスタイルブックで、油絵を採用するところに、さまざまなスタイルを自由にミックスするPOGGY氏のスタイルが反映されているようにも見える。さまざまなカルチャーと真摯に向き合い、追求してきた彼の初めてとなるスタイルブックにはどのようなメッセージが込められているのだろうか。
「人にとってはガラクタのようなものでも自分にとっては“ラグジュアリー”なものをコーディネイトして表現したかったんです。自分が好きなものを追求することが一番のラグジュアリーだと思っていて、それをミックスして紹介しています」。スーツやハット、ヴィンテージなど彼のエッセンシャルアイテムの紹介や、90~00年代に大きく影響を受けた裏原やストリートカルチャーをジャンルごとに詳しく解説している。《アンダーカバー》の高橋盾氏のインタビューや、デーヴィッド・マークスが書き下ろした90年代を総括するコラムなど、彼のスタイルを形成したファッションアイコンにフィーチャーした企画も多く含まれている。「ベルベルジン」の藤原裕氏や、『東京スニーカー史』著者のライター小澤匡行氏らにフォーカスした古着やスニーカー紹介のページもあり、ヴィンテージ、デザイナーズ、トラッド、ストリートといった彼の持つスタイルのすべての要素を紐解いて克明に映し出している。
ストリートとトラッドファッションをミックスしたスタイルは、2000年代に「リカー,ウーマン&ティアーズ」を手掛けたころから完成されていた。カニエ・ウェストやアンドレ・3000といったヒップホップアーティストのトラッドな着こなしに影響を受け、まだ日本ではストリートとセレクトショップの結びつきがなかった時代に誰よりも早くミックススタイルを提案した。ラスベガスで開催される、いわばヒップホップの総本山の展示会であるマジックと、ピッティ・ウオモを出張で行き来するような人物は当時ほとんどいなかった。「《リヴェラーノ&リヴェラーノ》のスーツを着て、《グローブ・トロッター》のトランクに《シュプリーム》のステッカーを貼って移動する」スタイルはかくしてできあがった。
「“ハレ”と“ケ”という概念があり、前者は儀礼や祭、年中行事などの“非日常”、後者は普段の生活である“日常”を表しています。人々は“ケ”の生活だけでは精神が枯渇してしまうため、“ハレ“の瞬間が必要であり、それにふさわしい装いがともないます。仕事と遊び、フォーマルな場とインフォーマルな場の両方に対応する服装が必要だと感じています」その言葉を体現するように、《シュプリーム》のテーラードジャケットに《ベン・デイビス》のワークシャツ、ワークパンツ、《ジェイエムウエストン》のサイドゴアブーツ、《KAR/L’ART DE L’AUTOMOBILE》のキャップという異なるルーツのつながりを結びつける着こなしで取材に訪れたPOGGY氏。
「『ユナイテッドアローズ』時代に学んだことがすべてのベースになっていると感じます。基本を一から勉強し直したいという思いで、ドレスチームに入りました。セレクトショップにはワークやミリタリー、エスニックといったカテゴリーのミックスに始まり、カルチャーや年代など、とにかくミックスを行う文化があります。また、東京には今でもたくさんのファッション誌があるように、ブリティッシュ特集、アメカジ特集などのHow to本で自分達は育ってきました。いろいろな国のファッションをベースにミックス、レイヤードするスタイルは東京ならではな気がします」。
彼は守破離という武道における考え方を大切にしているという。「この言葉は『ユナイテッドアローズ』の名誉会長の重松さんからある時教えてもらいました。まずは師匠の教えを守ることによって型を身につけて、そこから自分らしさを表現して少しずつ師匠の教えから離れていく。型がなければただの型無しだけど、型があるから型破りができることを学びました。自分の好きなカルチャーがどういった形で生まれて、どのように発展を遂げてきたのかという歴史を自分なりに伝えることができたら、それは素敵なことです」。
また、本書では過去にストリートフォトグラファーがシャッターを下ろしたPOGGY氏のスナップ写真も多く掲載されている。「《トム・ブラウン》のスーツを着て、ゴールドチェーンを重ねてファッションショーに行ったりしていたので、最初はなんだこいつは、という興味だけで写真を撮ってもらっていました。それがスナップサイトやブログなどで掲載されるようになり、デザイナーのムードボードに載ったりするようにもなりました。ストリートのフォトグラファーのおかげで認知され始めたことがきっかけで、今の自分があるんです」。
さまざまな服装流儀の源流を辿りながら、POGGYスタイルを網羅した本書は必読の内容となっている。