Them magazine

SHARE
ART
Jul 05, 2017
By THEM MAGAZINE

【インタビュー】《SHOWstudio》『Moving Kate』in The Mass

【インタビュー】《SHOWstudio》『Moving Kate』in The Mass


7月30日まで、表参道にあるギャラリー「The Mass」にて、《SHOWstudio》手掛ける企画展『Moving Kate』が開催されている。

Photography by Mariko Kurose (IN FOCUS)

ファッション写真界のレジェンド、ニック・ナイトが2000年に立ち上げたウェブメディア《SHOWstudio》。インターネット上でファッション界のコミュニケーションの可能性を押し広げる傍ら、ロンドンにてギャラリーも運営し、そこで人気を博した企画展『Moving Kate』がこのたび日本に巡回する。名実共に世界最高峰のモデルであるケイト・モスのランウェイでの姿を、30人の著名ファッションイラストレーターがドローイングした作品が展示される。一人の人間に対してのその多彩な描写と解釈が、人を惹きつけ続ける彼女の個性と魅力の根源をあぶり出す。

 

オープニングに併せ、《SHOWstudio》のギャラリー・マネージャーであるベックス・キャシーとエミリー・ナイト (ニック・ナイトの娘)が来日。今回のエキシビションについて話をうかがった。

———まず、あなたがたの《SHOWstudio》での役職を教えてもらえますか?

 

ベックス・キャシー(以下 ベックス)  私は、《SHOWstudio》のギャラリー・マネージャーとアーティストとの連絡係をしています。エキシビションに関して、ニック・ナイトとディスカッションやブレインストーミングを行ったり、アーティストに仕事を依頼したりしています。また、私自身もファッションイラストレーターとしても活動していて、今回の展示にも出品しています。

 

エミリー・ナイト(以下 エミリー)  私は、ロンドンにあるギャラリー、そして《SHOWstudio》のウェブサイトの管理などを担当しています。その一方で、私たちはたくさんのファッションイラストレーターと仕事をしているので、エージェントとしてそれらの作品をギャラリー外に持ち出して、ビッグブランドとも仕事をしています。

 

———ロンドンにある《SHOWstudio》のギャラリーは、いつからあるのでしょうか?

 

ベックス  会社が、去年の9月にヴィクトリア駅近くのイーブリーストリートにある新しいスペースに引っ越したので、同じスペースにファッションイラストレーションに特化したギャラリーをオープンしました。今年の1月から、すでに3つのエキシビションを行っています。ファッションイラストレーターとは、毎シーズンのコレクションの時期に一緒に仕事をしていて、ランウェイの最新モデルを描いてもらっています。それらは私たちのtumblrやウェブサイトでチェックできます。ギャラリーを持ったことで、エキシビション向けて一緒に仕事ができるようになりました。

 

———なぜ写真ではなく、ファッションイラストレーションにフォーカスするのでしょうか?

 

ベックス 《SHOWstudio》のディレクターであるニック・ナイトはいつも新しい表現方法を模索しています。《SHOWstudio》の目的として、ファッションを多角的に観察するというものがあります。そのために、ファッション写真、ファッションフィルム、ファッションジャーナリズム、ランウェイを批評するライブ・パネルディスカッションなど幅広いコンテンツを用意しています。そして、ファッションイラストレーションはそのうちの重要なひとつなので、もっとサポートできたらいいと思っています。ファッションイラストレーションの歴史は、ファッション写真より早く始まっていて、当時のファッションイラストレーションは、ランウェイを歩くモデルを正確にドローイングして、人に伝えるための手段でした。しかし現在では写真という代替手段があるので、ファッションイラストレーションはもっと自由にファッションを表現できるようになったのです。ですので、私たちと新しく関わることになったアーティストには、ただ上手にルックをコピーするのではなく、ショールックに対するあなたのエモーショナルな反応を素直に表現して欲しいと伝えます。写真は、えてしてショールックそのままを捉えるけど、イラストレーションはそれを解釈しなおすことができる。写真が表現できないことが表現できるという意味でも、非常に重要な表現方法だと思っています。

 

エミリー  加えて、私たちはイラストレーションに関しては常にオリジナルのものを展示し、プリントを作りません。もし誰かがドローイングを買えば、ひとつとして同じものがないものを買ったことになります。いまでは、法外なプライスだったりして、オリジナルのアートワークを買うことは難しい。そういった“バリア”を壊し、アートワークを誰もがアクセスできるようなものにするということも、《SHOWstudio》の役割のひとつだと思っています。例えば、過去にアレキサンダー・マックイーンのファッションショーで、史上初めてファッションショーのライブストリームを試みたのも、ファッションショーが招待された人のものだけでないようにしたかったため。また、ニック・ナイトは、いつも自身のシューティング・プロセスを撮影してみんなに公開していて、人はそこから、ニック・ナイトという写真家がどのようにイメージを創っているかを知ることができます。同じ理念のもと、私たちが展示するファッションイラストレーションは、入手可能な値段に設定されています。プライスは85ポンドからスタートです。

 

※今回の「The Mass」でのエキシビションでも、展示物を実際に購入することができる。

———一緒に仕事をするアーティストはどのように選びますか?

 

ベックス  私たちはいつもinstagramやtumblrをチェックして、新しいアーティストを捜しています。一方で、私たちにはサブミッションページがあるので、アーティストから直接ポートフォリオが送られてくることもあります。作品を見て、もし私たちが気に入ったら、仕事をお願いします。一つのコレクションを選んで描いてもらうようにしていて、毎回違う人にお願いしています。今回のエキシビションは、すでに私たちと仕事をしたことがある人たちにお願いしましたね。

 

———《SHOWstudio》が主催するエキシビションが海外へと巡回するのは今回が初めてでしょうか?

 

エミリー  そうですね!いつも機会は探していて、これからどんどん増やしていこうと思っています。

 

———海外のギャラリーに巡回するにあたって、展示内容をローカライズすることはありますか?

 

ベックス  特別ローカライズすることはありませんが、日本の人々がこの展示を見てどのような反応をするのかはとても気になっています。なぜなら、ケイト・モスは世界的にも有名ですが、ロンドンでは、彼女の出身地ということもあって特に知られています。みんなが彼女を知っていて、好きだから、ロンドンでのエキシビションは大いに盛り上がりました。しかし、東京はロンドンとは違った状況です。そして、東京において、ファッションイラストレーションがどれほど大きな存在なのかわからない。ですので、ファッションイラストレーションが新しいアートの形として受け取られるのかなと思ったりもしています。また、今回はロンドンでは展示しなかった新しいアートワークも展示しているので、それも楽しみですね。

 

———展示では様々なケイト・モスを見る視点が示されていますが、あなた方自身は、ケイト・モスをどう捉えていますか?

 

ベックス  私は、プロジェクトを通じてアーティストと関わってきましたが、みんながケイト・モスをアイコニックな存在として捉えていることが分かりました。とても有名で明確な存在なので、そんな彼女を描くのはチャレンジのようだと思います。そして、イラストレーションと彼女との類似性にたいするプレッシャーも感じたと思います。そのなかで、彼女を具体的に描くアーティストもいれば、抽象的に描くアーティストもいて、そういった人それぞれの彼女の捉え方を一同に見られるのはとても素敵なことだと思います。

 

エミリー  私は、ケイト・モスは複雑な存在だと思っています。アイコニックなスーパーモデルである一方で、すごく親しみやすい人なのです。その両面性が、彼女をスーパーモデルたらしめ、同時にみんなから好かれている一因だと思っています。

 

———最後の質問になりますが、新しいスペースに移転し、新しいギャラリーを拵えた《SHOWstudio》の次のステップはなんでしょうか?

 

ベックス  まずは、ギャラリーがどんどん成熟していくことを願っています。ファッションイラストレーションは、ファッション写真が始まってから衰退してしまっています。ファッション写真は、ファッションをドキュメントするには、より早くて容易な手法ですからね。そしていま、私たちがまた新しい形でファッションイラストレーション・シーンを押し進めています。イギリスで、一番クリエイティブなファッションイラストレーションのプラットフォームを作りあげています。そして、ギャラリーを通じてその素晴らしさと美しさを人々に広げていきたいと思います。一方で、エージェントとして外に出てブランドと働くことで、VMDやパッケージなどにもファッションイラストレーションをもっと広めていきたいですね。また、今回のように他国にエキシビションを巡回させ、世界におけるファッションイラストレーションに対する理解を深めていきたいです。

Photography by Mariko Kurose (IN FOCUS)

「The Mass」でのエキシビションは3つのセクションに分かれ、1Fのメインスペースでは「Moving Kate」、2Fでは「Nick Knight Rose Portfolio」「SHOWstudio 01」が展示されている。

 

2Fで展示されている「Nick Knight Rose Portfolio」では、ニック・ナイトが自身の庭から摘み取ったバラを自宅のテーブルにて撮影した12枚の写真が展示。使用機材はなんと“i Phone 5”。自然光で撮ったという。世界で10しかないエディションのうちの一つがここで展示され、実際に販売もしている。

 

同じく2F部分で展示されている「SHOWstudio 01」は、《SHOWstudio》が2001年に作ったタイムカプセル。封をした2001年当時の重要なアーティストの作品などが詰まっていた。残念ながら“02”、“03”……は存在しないが、ニック・ナイトが今展示の素晴らしさに感動し、次回作を作る意欲も見せているという。

 

《SHOWstudio》が贈る、イメージへの問いかけは終わることがない。

(展覧会情報)

Moving Kate

TERM 6月30日〜7月30日

PLACE The Mass

ADDRESS東京都渋谷区神宮前5-11-1

OPENING HOURS 12:00-19:00 (木〜月)

URL themass.jp

 

 

Edit_KO UEOKA

SHARE