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FASHION
Sep 06, 2018
By THEM MAGAZINE

【インタビュー】MARINA YEE《M.Y.project》at LAILA TOKIO

【インタビュー】MARINA YEE《M.Y.project》at LAILA TOKIO


東京・渋谷にあるコンセプトショップ「LAILA TOKIO」にて、アントワープを拠点に活動するデザイナー Marina Yee(マリナ・イー) による世界初公開の《M.Y.project》ファーストコレクションの発売、および自身のキュレーションによるインスタレーションが9月9日(日)まで開催されている。

 

マリナ・イーは、今や伝説となった「アントワープ・シックス」のひとり。これまでメディアへの露出がほとんどなかったため、メンバーの中で最も謎に包まれた人物だと言える。今回、コレクション発表のために来日したマリナへのインタビューが実現。「ここまで公に話すのは初めてだ」と語るマリナが、長らく閉ざされていた口を開き、彼女の知られざる過去から現在までの軌跡、そして始動した《M.Y.project》について語る。

——まず、マリナさん自身のこれまでの経歴について教えてください。既存ファッションシステムとの相違を理由に、1988年に「アントワープ・シックス」を脱退されました。以降はどのような生活をされていたのでしょうか?

 

「アントワープ・シックス」脱退後、私はベルギーを離れてパリに向かい、2年間マルタン・マルジェラと一緒に住んでいました。しかし、彼は自分のブランドを始めていて、逆に私はファッションシステム内での活動を終えていた。私はパリを離れることを決心し、出発した直後に妊娠することになったのです。息子が生まれて母になったことで生活は大きく変わり、ファッション雑誌を買うこともなくなり、ファッションの世界から隔離された平穏な日々が訪れました。衣服に関わることといえば、子供のための服を作るのみ。この期間はとてもエモーショナルで、妊娠を機に私は「一人の女性」になったのです。何年か後に、私はまた舞台衣装の制作をスタートさせ、コーヒーショップの運営、他のブランドのために服を製作するなど、さまざまなことに取り組み始めました。常に新しいことに挑戦し、まるで自分をテストしているようでもありました。有名になることに興味はなく、目立たないけれど熱心に忙しく働きました。2000年ごろからはペインティングに没入し、試行錯誤しながら表現を模索するようになりました。また、彫刻や家具の制作、アートスクールでの教師なども行なうようになりました。

 

 

——それでは、「LAILA TOKIO」にてファーストシーズンのコレクションを披露した新プロジェクト《M.Y.project》について教えてください。

 

私はファッションシステムの蚊帳の外で活動を続けてきましたが、コレクションのドローイングは毎シーズンのように行なっていたのです。実際に服を作ることはなかったのですが。2014年ごろに、デザイナーとしての私、そして私の現在の生活に寄り添ったかたちで機能するコンセプトを思いつきました。私は毎朝6時に起き、19時には仕事を終えてディナーを作り始めます。ファッションシステムの奴隷になることなく、よく眠りよく食べることの継続できる生活がしたい。ですので、マスマーケットに向けたものではなく、ファストやハイプとも関係のない、スロウでウエアラブルなブランドを作りたかったのです。ファーストシーズンである今回のコレクションは、コートとシャツのみの4型、そして2サイズのみの展開。メガブランドのように何百のピースを作るわけではありません。

 

 

——コレクション制作にあたって、どのアイテムから取り掛かりましたか?

 

まず作りたいと思ったのはコートです。コートはTシャツと違ってより長く着用できるアイテムです。私が思い描いたのは、《バーバリー》のようなコート。《バーバリー》のクラシックなトレンチコートは、20年前と今を比べてもまったく変わりません。服にフィロソフィーがあるから、結果として長い命を持つアイテムになっています。私はまず好きなコートの型をいくつか選びました。トレンチコート、セーラーコート、パーカーのようなミリタリーコート。それらの原型に対し、ラペルをアシンメトリーにし、ハンドステッチを加えるなどアーティザナルな方法を用いてツイストを加えていきました。アーティザナルな方法を用いることで貴重性が高まるのが大好きで、生産する人は嫌がるけれど「やらなくてはいけない」といつも説得しています(笑) スリーブのデザインは特徴的で、アームホールが肩線の中央あたりの内側にくるほどに設計しました。私はファストファッションのシステムに対して批判的で、なぜ6ヶ月ごとに新しい服を大量に買わなければいけないのか疑問で仕方がありません。私はもう1シーズンや1年着るためだけの服をデザインしたくないのです。実はコレクションを作るときに、《リーバイス》の501も思い浮かべていました。501の詳しい歴史は知らないけれど、ずっと昔から存在し、今でも多くの人が着用している。私のトレンチコートも同じようになればいいと思っています。なので、素材や色を変えて、毎シーズン同じコートを発表していくつもりです。

「LAILA TOKIO」でのインスタレーションの一部。アーカイヴ作品も展示されている

——コレクションには、コート以外に白シャツもありますね。

 

シャツは、今回たった一つだけデザインしました。次のシーズンには2つ目のデザインを出すつもりです。コレクションを重ねるごとに、一つずつアイテムを追加していくのです。服だけに限らず、眼鏡や香水の展開も考えています。ユニセックスのバッグコレクションも作ってみたいですね。

 

 

——《M.Y.project》ではブランドタグとしてリボンを採用し、取り外しができるようになっていますね。この仕様にはどのような意味が込められているのでしょうか?

 

他のブランドと同じ形でタグをつけたくはなく、あまりコンセプチュアルに考えたくはないのですが、やはりブランドを表す“タグ的なもの”は必要です。そこで私はオスカー・ワイルドのことを考えました。彼はファッショナブルでロマンティックな肖像を持ち、詩や著作もダンディーでロマンティック。私は彼のことがとても素敵だと思います。そこから発想したのが、黒のリボンに黒のネームを施し、襟のサイドに結びつけることで表に少しだけ出てくる仕様です。リボンはタグの役割を果たしつつ、服にダンディズムやロマンティシズムを加えています。もし着る人がタグを嫌がるなら、リボンを取り外して他の何かに使用することもできます。

 

 

——《M.Y.project》は今回がファーストコレクションとのことですが、資料によると一度2000年にスタートしていますよね?

 

2000年の《M.Y.project》は、コンセプトプロジェクトです。プロトタイプは作りましたが、コンセプトを具現化したのみなので販売はしていません。当時は資金もなく、市場に出したいとも思いませんでしたね。クリエイティブワークの一つという位置付けです。

 

 

——では、今回が初めて《M.Y.project》を世に出す機会となっているわけですね。ではなぜこのタイミングで「LAILA」と協働し、ブランドを始めることになったのでしょうか?

 

3、4年前に私と「LAILA」の共通の友人が、「LAILA」が私を探していると教えてくれました。何しろ私は自身のウェブサイトを持っていなく、インターネットにも情報がほとんどない“どこで何をしているかわからない人”ですから。私たちは顔をあわせることとなり、彼らは《M.Y.project》をオーダーしてくれることになりました。加えて、同じ価値観を持ち、既存のファッションシステムに関して懐疑的な点も共通しているので一緒に何かをやりたいと言ってくれました。

「LAILA TOKIO」でのインスタレーションの一部。左奥の作品は、今回のために制作されたという『E. SHE』。

——「LAILA TOKIO」で開催された、マリナさんの製作したアートワークやアーカイヴ服を使用したインスタレーションについて教えてください。

 

まず、このように多くのアートワークを公開するのは生まれて初めての経験です。さて、私のアートワークにはサスティナビリティという特徴があります。段ボールや端材などリサイクル素材やセカンドハンドショップで手に入るような安い素材を使用し、それらを結合して美しいものに仕上げています。人々は作品を鑑賞した後に素材について知ると、いつも驚いた顔をするので、とても楽しく思います(笑) 人を感動させるというのもコンセプトの一つです。ペインティングで使ったキャンバスの廃材を、《グッチ》のサングラスBOXと組み合わせるのは、驚きでしょう? 「Re-Use, Re-Creation」がマインドセットなのです。

 

 

——そのマインドは、このインスタレーションのために制作された、東京滞在中に生まれたレシートやゴミなどを組み合わせて作られた作品『E. SHE』にも繋がっているのでしょうか?

 

もちろん、その通りです。この作品は、展示にユーモアを加えるものでもあります。まったくシリアスな作品ではなく、みんなが好きになってくれるような楽しくて美しい作品です。使用しているのは東京滞在中の私の部屋にあった数々の物。それらを素早くアートワークに貼り付けていきました。偽ることなく、即興性と偶発性を重視したシンプルな喜びの表現であり、「心のアート」と言えます。子供のころは、小さなプラスチックの塊だけで楽しく遊ぶことができました。その感覚を大人になった私たちは忘れてしまっています。子どもはブランドものであるとか、高価だとかを気にしません。これは一種の健康的な状態です。ファッションやアートの世界が失いつつある純粋な楽しみが表現された、驚きのある作品になっていると思います。

 

 

ファッションシステムへの懐疑、そしてユーモアをもって楽しむこと……語る彼女の口調は終始穏やかであったが、その言葉の端々からは長きにわたって純粋にファッションを追求してきた重みが滲む。
《M.Y.project》のコレクションは、ユニセックスで着用することができる。インスタレーションの目撃を逃した人も、「LAILA TOKIO」に足を運べば、コレクションを見ることができる。マリナの魅せるピュアなクリエイションをぜひ堪能してほしい。

 

 

 

LAILA TOKIO

ADDRESS 東京都渋谷区渋谷1-5-11
OPENING HOURS 12:00 – 20:00
TEL 03-6427-6325
WEB laila-tokio.com

 

 

Edit_Ko Ueoka

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