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FASHION
Sep 05, 2018
By THEM MAGAZINE

【インタビュー】JULIA MAH as BANANATIME

快適なシルクウエアに込められた揺るぎなき信念

 

シルクには、その優美な質感は魅力的だが、素材の繊細さゆえに扱いが難しい印象がある。そんなイメージを、アムステルダムのブランド《バナナタイム》は大きく覆してくれる。《バナナタイム》の用いるシルクは、その上質さを保ちつつも洗濯機で洗えるほど頑丈。そして端正なパターンメイキングで作られるウエアは決して飽きることなく、部屋の中から街中までどんなシチュエーションでも着たくなるほどだ。

 

《バナナタイム》は、オリジナルプリントのシルクを中心としたリラックスウエアを展開するブランドだ。カナダ出身のジュリア・マー氏と日本出身の川口尚代氏、この2人の女性によって2014年に立ち上げられ、オランダ・アムステルダムを拠点に活動している。ジュリア氏は、ブランド設立前に長年《リーバイス》でキャリアを積んできた人物だ。母国カナダの《リーバイス》で働き、その能力を買われブリュッセル支社へ異動、ブランドの中で最高ランクとも言える部門「リーバイス・ダブル・エックス」のMD責任者として働いた。河口氏はアメリカの大学を卒業後、イスラエルとドイツの大学院に進学し繊維・テキスタイルを学び、そのままドイツにとどまって《アディダス》のMDとして勤務した。《リーバイス》といえばタフなコットンデニム、《アディダス》は化学繊維や革といった素材を中心に使用するブランドだが、そのキャリアを持ってしてなぜ《バナナタイム》ではシルクにたどり着いたのだろうか。今回来日したジュリア氏に話を伺い、《バナナタイム》について紐解いていきたい。

2018 -19 F/W LOOK

2人の出会いの地は、当時の両氏の異動先であり、現在も拠点としているアムステルダム。共通の友人の紹介で知り合った2人はすぐに親しくなり、忙しい日々に休みを見つけては一緒に休暇に出かけるほどの仲になった。MDという職業柄、2人は世界中を飛行機で飛び回る生活を送っていたというが、その「旅行」という共通の経験から《バナナタイム》が生まれることとなる。

 

「《バナナタイム》を始めようという話になったのは、バカンスに出かけた先にあったバーでお酒を飲みながら、コンパクトで心地よい、旅に最適なウエアを作れないかと話し合っていたときです。会話の中で、その履き心地の良さから、お互いがボーイフレンドのボクサーショーツを借りていることに気がついたのです。それをヒントに、《バナナタイム》初のウエアであるシルクのボクサーショーツが誕生しました」

 

 

旅先でのウエアを作るのに、なぜシルクという素材を用いるのだろうか? シルクは滑らかな肌触りはもちろんのこと、手早くコンパクトに畳め、スーツケースの中でも場所を取らない。そのうえ熱伝導率が低く、夏は涼しく冬は暖かい。旅行に最適なウエアを作るのに、シルクはまさに売ってつけの素材だったのだ。しかしその繊細さゆえ、自宅で気軽に洗えないものがほとんどだが、《バナナタイム》は特有の繊細なクオリティは保ちつつ、自宅で洗うことができるほど頑丈なシルクのみを使用している。洗濯機の使用も推奨し、製品には洗濯用ネットが付属するほどだ。

 

「シルクにはサテンとツイルの組成がありますが、サテン特有の“下着っぽい”印象を避けるため、《バナナタイム》では厚いツイルシルクのみを使っています。ツイルシルクは特に扱いが難しいので、プリント行程まで含めてシルクを上手に扱えるサプライヤーを見つけるのには骨が折れました。しかし、洗濯機で洗えるほど強くクオリティのあるシルクを求めて妥協は一切せず、適切な厚みや繊維構造を何度も試しました。世の中にあるほとんどのシルクはかかるコストの関係で薄いものが多いのですが、私たちはクオリティを第一に考えているので、多少値が張っても厚みがあって強いシルクを選んでいます。家でも旅先でも、簡単に洗濯して乾かせればとても楽でしょう?」

 

2018 -19 F/W LOOK

素材の質感だけでなく、生活の中での利便性も追求する《バナナタイム》。加えて、着る喜びを増幅させてくれる、遊び心溢れるオリジナルプリントにも注目したい。旅や本からインスピレーションを受けて作られるという、鮮やかな色使いとユーモアが特徴的だ。

 

「テキスタイルのリサーチでは、大好きなヴィンテージウエアを参考にすることも多いですね。私がヴィンテージを好きなのは、長い年月を《リーバイス》で過ごしたことも影響しています。シルクには素材特有の光沢があることもあり、パントーンで見たときの色味とシルクにプリントしたときの色味は違ってきてしまうので、狙った色を出すのはなかなか難しいですね。納得した色になるまで何度もやり直しています」

 

 

さて、《バナナタイム》という一風変わったブランド名は、1959年にアメリカの社会学者ドナルド・フランシス・ロイによって発表された論文「バナナタイム」に由来するそうだ。ロイ氏は、現在ではワークライフバランスと呼ばれる考えを最初に提唱した人物で、仕事の合間にちょっとしたブレイクを入れることによって気分転換を図り、リフレッシュすることで仕事の効率が上がるというのが彼の論だ。論文「バナナタイム」は、バナナをオフィスのどこかに隠し、それを見つけた人が食べられるというゲームで、単純労働の現場ではゲームによって労働者のやる気が高まり仕事効率が上がったという。ジュリア氏と川口氏は、そのカジュアルで現代的な態度とレトロな感性を保つという意味と、着る人にささやかなホッとするひと時を提供したいという思いを込めてブランド名に採用した。

2人はデザインから事務作業までブランド内での作業を分担することなく、「他にスタッフがいないので、どちらかが休んでも大丈夫なように(笑)」と平等に同じタスクをこなすようにしているとのこと。そんな《バナナタイム》は現在もアムステルダムを拠点にブランドを運営している。それぞれの国籍とは異なる地を拠点にする理由とは?

 

「私は北アメリカやヨーロッパを中心に数多くの都市を旅して周りましたが、中でもアムステルダムには特別なシンパシーを感じました。アムステルダムにはダイバーシティがあり、大きな都市のようだが実際はどこにでも自転車で行けるほどコンパクト。クリエイティブな人々も集まり、エナジーが凝縮されているのです」

 

 

そんな国際都市アムステルダムは、環境問題に積極的に取り組むエシカルな都市としても知られている。ジュリア氏はそんなアムステルダムに共感を覚えるという。

 

「アムステルダムと《バナナタイム》には、近い感覚があると思いますね。アムステルダムの住人と同じように、私たちもクオリティを大事にしています。ファストファッションのように、購入して1シーズン着たら捨ててしまうような服を作りません。どこにいても長く着られるように、クールでシンプルなシルエットを心がけています」

 

 

こだわった上質な素材と、その良さを存分に引き立てるパターンを兼ね備える《バナナタイム》。2018-19 F/Wシーズンは、壁紙や日本の着物からも着想を得たオリジナルプリントを施したシルクのワードローブの他に、100%カシミアのニットウエアなど着心地と肌触りにこだわったアイテムも揃う。着る人の生活に寄り添ってくれる上質なウエアを、ぜひ店頭にて体感してみてほしい。

 

 

《バナナタイム》のコレクションは「J.S. Homestead」「JOURNAL STANDARD relume」「EDIFICE」「UNITED ARROWS」「STRASBURGO」「SUPER A MARKET」「LOFTMAN COMPANY」などで取り扱い予定。

 

 

 

 

Edit_Ko Ueoka

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