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BOOK
Mar 30, 2017
By THEM MAGAZINE

【vol.1】INTERVIEW about「Styling Edition」 by UNITED ARROWS

なぜUNITED ARROWSはユニークな“カタログ”を作り続けるのか?

 

《UNITED ARROWS》のカタログ「Styling Edition」(以下U.A.S.E)をご存知だろうか。毎号判型を変えて発行されているシーズンカタログである。しかし、それを見てすぐにカタログだと思う人は少ないかもしれない。なぜなら、僕らが見慣れている“カタログ”の常識からあまりにもかけ離れているからだ。ブックを開いてみても、まだこれが“何”なのかわからないが、ページをめくる手は止まることを知らない。“面白い印刷物”ということだけははっきりとわかるのだ。
「これはカタログなのか?」「どのような目的で作られているのか?」
その意図を探るべく、制作を担当する《UNITED ARROWS》のチーフプレス渡辺健文さんにお話を聞いてみた。

WebやSNSがある現代に、あえて印刷にこだわる理由とは?

 

Q 渡辺さんは、U.A.S.E.の制作にどのような役割として関わっていますか?

 

まずこのカタログは、クリエイティブディレクターに山本康一郎さん、アートディレクターに平林奈緒美さんを迎え、フォトグラファー、編集、スタイリストなど、さまざまな人たちの力でつくられています。今回でいうとカメラは岡本充男さん、編集には川島拓人さん(kontakt™)、加藤直子さん、スタイリストには高橋ラムダさんです。ほかにもたくさんの方に協力いただきました。基本的にはそれぞれのスタッフがそれぞれの役割で動いていき、自分はUNITED ARROWS(以下UA)を代表してこのカタログに携わっていて、クライアントということになるんですが、「プレスだから、クライアントだからこういう仕事をする」という役割は正直そこまで考えたことはないんですよね。ただ、UAのカタログなので、「どういったカタログをつくりたいか」という部分や「ありか、なしか」などの判断はもちろんします。でも具体的に自分の役割を決めつけるより、自分がやれることはやるというスタンスですかね。海外ロケの際には自分でカルネ(*洋服などの通関手帳)を作りますし、人手が足りなければ洋服にアイロンをかけたり、撮影準備をしたり、モデルハントをしたこともありました。プロの人たちが集まって、役割の垣根を越えて意見を出し合ったり、協力し合っている現場に触れて、そう思うようになりましたね。

 

Q それではU.A.S.E.の狙いは何でしょうか?

 

一番の狙いは、お客様に楽しんでいただくことです。現在U.A.S.E.は顧客の方へ郵送させていただいているのと、店頭で配布をしています。現状UAに足を運んでくださっているお客さまには、これからも末永いお付き合いをしてもらいたい、UAを好きで居続けてもらいたいという気持ちと、今までUAと接点がなかったお客さまにもUAを好きになってもらいたいという気持ちを込めてカタログを作っています。

 

特に今の時代だと、物を買っていただくためのプロモーションが必ずしも印刷物である必要はないですよね。WebやSNSがありますから。極端にいうと、メディアがあって、さらに自社のwebやSNSでイメージや情報を発信できるなかで、印刷費や紙代などのコストをかけてまでお客さまに伝えたいことがない限りは作る必要はないですよね。そういう意味で、ただ「これがオススメですので買ってください」と売り文句を並べるのではなく、時代がどの方向を向いていて、人々の生活と洋服がどのように関わり合っているのかなど、洋服を通した「今のUAの視点」を編集してお伝えすることを大事にしています。その上で、読んでくださったお客さまにとって日々の洋服を着る上でのヒントになったり、純粋に写真やスタイリングがカッコイイなと感じてくださるだけでもすごく嬉しいです。商品を買ってもらう一歩手前のお店に足を運んで頂きたいという点を強く意識しています。

 

Q U.A.S.E.はファッションへの視点やその捉え方、スタイリングなど、カタログ的なものよりもファッションの楽しさそのものを表現していると考えていますか?

 

そうですね、その方向性が強いですね。便宜上“カタログ”という言い方をしますが、存在としてはカタログっぽくはないかもしれませんね。

Q 毎号U.A.S.E.はどのようにスタートしますか?

 

基本的にはシーズンカタログとしてU.A.S.E.を発行しているというスタンスは毎号変わりません。そのシーズンに買い付けた洋服があり、さらに今の社会情勢やトレンドの中で今シーズンはこういうものを打ち出していくというUA全体の大枠のディレクションがあります。それを製作スタッフのみなさんにご説明して、キックオフオリエンテーションをします。そこから、「だったら、こういうのはどうだろう」とアイデアを皆さんに頂きながら進めていくというのが基本的なスタートですね。

 

Q UAのシーズンテーマは言葉としてあるものなのですか?

 

厳密に「今シーズンのテーマはこれです!」みたいなものはないんですよ。社内向けにはUAのクリエイティブディレクターである鴨志田(康人さん)が、バイヤーが商品を買い付けにいく前、企画者が商品を製作する前に、「このシーズンはこういう方向性で行きましょう」というディレクションを出します。ただ、UAはセレクトショップなので、「今シーズンはこうです」みたいな一つのテーマでは言い切れない部分があります。それでも全体の方向性はあるので、U.A.S.E.のスタッフにはそれをすべて開示しながらつくっていきますが、そのUAのディレクションを膨らましていくというよりは、もっと根本的な部分を大事にしています。洋服屋だから出来ることとか、伝えられることとか。

 

Q すこし話が逸れますが、UAではまず会社としてのディレクションがあって、それを社内で共有してからバイヤーが買い付けにいくという仕組みになっているのでしょうか?

 

そうですね。カタログの話とは逸れちゃいますが、まずシーズンが始まる1年か1年半前に、栗野(宏文さん)が、社内ではソーシャルストリームと呼んでいる、会社全体の方向性を打ち出します。洋服と社会情勢とは大きく関わりあっているので、今の社会情勢や消費者の動向、政治経済なども含めて、「今の世の中がこうなっているので、来年はこういうことが大事です」というディレクションです。そして、ユナイテッドアローズ、ビューティーアンドユース、グリーンレーベルなど社内のそれぞれの業態が栗野のそれを受けて「自分たちの業態はこういう方向性でいこう」という各々のディレクションを打ち出します。それをふまえて、ものづくりをしたり買い付けしたりしていくわけです。しかし、そういったディレクションはあくまで今の時代傾向なので、買い付けなどの根本にあるのはUAとしての姿勢です。すべてがディレクションで変わっていくのではなく、UAとしての根本的な姿勢に毎シーズンにディレクションという形でスパイスを加えながら、シーズンの気分を反映させていくということですね。そのUAの土台となっている姿勢のことを、社内ではトラッドマインドと呼んでいます。
UAでは、一つのトレンドでお客さまに商品を勧めるよりは、もっとお客さま一人一人のパーソナルな部分、その人のスタイルや趣味嗜好に合わせて提案させて頂くことを大事にしています。そして、そうしたスタイルをパーソナルトラッドと呼んでいます。
UAにおけるディレクションというのはそのようなありかたで、U.A.S.E.に関しても同じことが言えます。シーズンのトレンドや社会潮流をみながら、今季のUAの視点を、スタイリングを通して紹介していく形ですね。

 

(vol.2に続く…)

vol.3はこちらからどうぞ。

 

渡辺健文

UNITED ARROWS チーフプレス

1979年生まれ。文化服装学院を卒業し、2002年にユナイテッドアローズにアルバイト入社。2006年よりプレス担当となり、2016年からプレスチーフに就任。

 

 

Edit_KO UEOKA

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