Them magazine

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MUSIC
Feb 04, 2021
By THEM MAGAZINE

Interview with BLACK COUNTRY, NEW ROAD

昨今、次世代のホープを輩出し続けているロンドンから、また新たな7人組バンドが現れた。ブラック・カントリー・ニュー・ロードという変わったネームの彼らはポストロックをベースにしつつ、他のバンドとは一線を画した唯一無二のサウンドを鳴らす。その一因にはシュプレヒゲザングと呼ばれる、歌と語りの中間に位置するアイザック・ウッド(vo)の“話すように歌う”ボーカルワークがありつつ、それ以上にサックスやヴァイオリン、クラシック志向なキーボードの存在が大きいだろう。こういった楽器がアレンジとしてバンド曲に花を添えるケースは多くあるが、ブラック・カントリー・ニュー・ロードではむしろバンドの中枢に君臨し、アイデンティティの核を形成していると言ってもいい。7人の絶妙な差し引きから生まれる綱渡りのような緊張感の中で、サウンドはカオスとコスモスを自在に行き来する。ロックダウンの最中行われた今回のZOOMインタビューでは、ルイス・エヴァンス(sax)とメイ・カーショウ(key)を迎え、バンドについて語ってもらった。

——7人のメンバーはどのように出会ったのでしょうか?

ルイス・エヴァンス(以下、L) 「メンバーのほとんどは同じ高校に通い、ケンブリッジの大学でも一緒だったんだ。そこはクリエイティブな人々が多くいる大学で、僕らは広い友人の輪の中にいた。で、好きな音楽のテイストが似ていたから自然と一緒に活動を始めて。元々はNervous Conditionsという名前のバンドだったけど、事件があって一度解散して、その多くのメンバーが集まりブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下、BC,NR)として再スタートしたのが、2018年の4月。やっぱりみんなで演奏するのが好きだったから、またやり直そうとなったんだよね」

 

——BC,NRの音楽性にはロックから逸脱したオリジナリティがあると思いますが、最初から今のスタイルだったのでしょうか?

L 「初めてBC,NRで書かれた曲は、ポストロックやマスロックに分類されるような音楽だった。そこにサックスやヴァイオリン、キーボードといった楽器が入ってくることで、新鮮に聴こえるんじゃないかな。ポストロックのバンドで、そういった楽器が常にあるケースはあまりないからね。あと、僕(sax)やジョージア(・エラリー, vn)、メイ(key)の音楽的趣向が積極的に入ってくることで、いわゆるギターバンドとは異なっているんだと思う。僕はバンドをやる前は、ロックをあまり聴いてこなくて、クレズマー音楽などに傾倒していたし」

メイ・カーショウ(以下、M)「私も同じくロックではなく、ポップやエレクトロを聴いていた。今はクラシックが多い」

 

——では、サックス、キーボードプレイヤーとして、ロックバンドサウンドにどのような意識でアプローチしましたか?

L 「自分の役割は、バンドにメロディックな要素を加えることだと思っている。それと、リズムも重要視しているかな。バンドが奏でるリズムの重層のトップで、新しい角度からリズムのアイデアをつけていくようなね。サックスがそれをやるのは、新鮮味があるかと」

M 「私は、最初はあえてモノフォニック(単音)のシンセサイザーを使っていたな。制限が多い分、誤魔化しがきかず、よりクリエイティブにならざるをえない楽器で。モノフォニックを経ていろんなことがよく理解できたから、現在はポリフォニック(和音)に移行したけど」

 

——2021年リリースとなるファースト・アルバム『フォー・ザ・ファースト・タイム』の制作プロセスはどのようなものでしたか?

M 「5曲目の『Track X』以外はすでに何度もライブで演奏してきた曲だから、腰を据えてレコーディングしなおしたって感じかな。方向性としては、ライブの音をそのまま封じ込めるような意識だった。すべての曲がライブで演奏されるために書かれていると思うし、そのサウンドに正直でいたくて」

 

——作曲するときは、ジャムをする?

L 「ほぼしないかな。ジャムは、ライブ中に即興でやるくらい。曲をつくるときも、まず誰かが全体のスケッチを書いて、みんなでその色付けをしていくってプロセスだから」

 

——アルバムが5分以上のインスト曲から始まるのは、ストリーミングを中心とした昨今の流れを考えると挑戦的な選択だと思います。ライブのムードを大切にした結果でしょうか?

L「それもあるね。確かに『Instrumental』は、ライブで最初に演奏することの多い曲。バンギングから始まる、ポップで踊れる楽しい曲からアルバムが始まるのはいいと思って」

 

——アルバム収録曲が6曲というのは少ない方だと思いますが、厳選したのでしょうか?

L「その通り。もちろん他にも曲はあるけど、アルバムに収録するほど本当にいいと思える曲はこの6つだと思ったんだ。今作のコンセプトも、BC,NRが始動してからの1年半をありのままに収録することだったし。実際それぞれの曲は長いから、アルバムを通しで聴いたらボリュームはしっかりあるしね。6曲っていうのは、ちょっと最近のカニエ・ウエストのスタイルに見えるかもしれないけど(笑)」

 

——ビジュアル面でのクリエイティブ・ディレクションを、アーティストのBart Priceが手掛けていますね。彼はアルバムやSNS投稿素材のアートワークから「Science Fair」のMVまで手がけていますが、なぜ起用したのでしょうか?

L 「そもそも彼の作風は、僕らのビジュアルの美学におけるインスピレーションとなってたんだ。結局、アルバムに関するすべてのビジュアル・ディレクションを彼にお願いすることになった。彼のアイデアで、バンドが発表するアートワークには無料のストックフォトサイト『Unsplash』からのフリー素材を使用している。提供者のクレジットが、アルバムカバーの一部になっているのもファニーだよね。MVもフリー素材を編集してつくっているんだ。自分たちの見てくれが主張するより、音楽そのものが評価されてほしいから」

 

——ところで、バンド名の由来は?

L 「アイザック(・ウッド、vo,g)とチャーリー(・ウェイン、ds)が、響きのいいバンド名を探して、ウィキペディアを漁って見つけたワードなんだよね。ワードジェネレーターみたいなもので、特に意味が込められているわけじゃないんだ」*イングランドのウェスト・ミッドランズ州に、同名の道路がある

 

——そうなのですね!「Science Fair」の歌詞に“It’s Black Country out there”とあったので、何か意味があるかと思いました。

M「それはアイザックが、後付けでバンド名に意味を加えていってるんだと思う。最初は特に意味のなかった言葉だったのは確かね」

 

——アー写やステージで派手な格好はせず、いつも普段着のカジュアルな服装ですね。アートワークの趣向とも合致しているようですが、ドラマティックに見られることを避けているのでしょうか?

L 「うん、そうかもしれない。僕らにペルソナなんていらないから、アー写やステージだからといって特に着飾る必要がないかな。自分たちの普段のスタイルに正直でいたいというか」

 

——「正直さ」はバンドを表す言葉のひとつであるようですね。

M 「そうね。重要なのは音楽そのもので、そのために脚色しないようにしている。だからって『すべてに正直でいよう!』っていう意気込みではなく、あくまでもただナチュラルであるだけ。みんな若いころから一緒だから、今さら変えようってのもぎこちないしね(笑)」

 

——アルバムリリース後のプランは?

L「こんな時代だし、決まっていることは特にないよ!早くライブをやれるように、このパンデミックからの回復を祈るだけさ」

 

 

『For the first time』

Black Country, New Road
(Beat Records / Ninja Tune)

 

BALCK COUNTRY, NEW ROAD

ブラック・カントリー・ニュー・ロード 全員がケンブリッジ周辺の出身で、現在はロンドンを拠点に活動する。メンバーは、アイザック・ウッド(ヴォーカル/ギター)、ルイス・エヴァンス(サックス)、メイ・カーショウ(キーボード)、チャーリー・ウェイン(ドラム)、ルーク・マーク(ギター)、タイラー・ハイド(ベース)、ジョージア・エラリー(ヴァイオリン)の7人。2021年2月5日に、ファーストアルバム『フォー・ザ・ファースト・タイム』をリリース。

Photography_ BCNR / Ninja Tune

Edit_ KO UEOKA (Righters).

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