Them magazine

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MUSIC
May 07, 2021
By THEM MAGAZINE

Interview with INDIA JORDAN

PHOTOGRAPHY_ RENATE ARIADNE.

 

パンデミックが深刻化して数ヶ月たった20205月。気分が晴れることのない「ステイホーム」生活に、ロンドン拠点のDJ/プロデューサー、インディア・ジョーダンによるEPFor You』のリリースは一筋の光明となった。祝祭感あふれるクラブバンガーなサウンドに自然と身体は動き出し、一時だけ自宅をダンスフロアに変えて陰鬱なムードを吹き飛ばしてくれる。そして何より、この楽曲をクラブで聴くという明るい未来を想像させてくれた(ヘッドフォンもいいが、クラブのサブウーファーで、みんなで聴くほうが絶対にいい)。そして、EP タイトルにもなった曲「For You」は、Resident Advisor2020年トラック・オブ・ザ・イヤーに輝くこととなる。インディアの音楽にある独特の音抜けやバランスには確かなインテリジェンスが感じられるが、それは2019年の暮れにInstagramを通じて告白した、ノンバイナリーであることも関係あるだろう。今年5月7日に、レーベルを<Ninja Tune>に移籍してから初となる3rd EP『Watch Out!』の発表を控えるインディアに、よりアップテンポでハードダンスを志向する新作について聞いた。

——イングランド中北部のサウス・ヨークシャー州にある町、ドンカスターの生まれとのことですが、どのような音楽を聴いて育ちましたか?

「私はシングルマザーのもとに生まれ育った一人っ子で、母からの影響が第一にある。プリンスやフィル・コリンズ、スティングといった母が好んだギターロックを聴いていたな。ちゃんと音楽を始めたのは10歳のころで、16歳まではインディロックにハマっていた。その後はドラムンベースに没頭することになるんだけど……。親の影響って大きいね」

 

——だからでしょうか。あなたのサウンドは、どこか懐かしい気持ちを思い起こさせます。過去へのノスタルジアみたいなものはありますか?

「わかるよ。私が好きになる音楽は、ハッピーな時間を思い起こさせてくれるような、ノスタルジックなバイブスがある場合が多いから。またそういった曲からサンプリングをしているからかもね」

 

——ダンスミュージックはいつごろから聴き始めましたか?

16歳くらいかな。当時CDを買う余裕はなかったから、中古のカセットテープを買っていた。ハル(*イングランド北東部の都市)にある大学に通い始めてからは、DJプレイに興味を持つように。ドラムンベースにのめり込んで、パーティーに通い詰めた」

 

——レーベル<New Atlantis>を主宰し、アンビエントをやっているのはなぜでしょうか? あなたのつくる速いBPM の、クラブで盛り上がるような音楽とは対極にありますよね。

「アンビエントはサイドプロジェクト的な位置づけかな。ドラムンベースから距離をおいた時期があって、そのタイミングでロンドンに引っ越してきてからは、アンビエントがかかるこぢんまりとしたパーティーに行くようになった。同時期に瞑想を始めたこともあり、<New Atlantis>はハイエナジーな音楽からひと呼吸をおくための、もう一つのアウトプットだった」

 

——さて、3rd EPとなる最新作『Watch Out!』のテーマについて教えてください。

「メインコンセプトは、ムーブメント。この言葉には多様な意味が込められていて、そのひとつは、私が作曲する場所は電車の中が大半だというプロダクションへの言及。具体的には、横断歩道の音のサンプリングを取り入れたりしている。また、ステイホームによる肉体の動き、そして移動の少なかった昨今のことでもある。私自身はメンタルヘルスケアのためにサイクリングをするようになり、ロンドン中をぐるぐる回るようになったけど。そして、私のアイデンティティの動きを指してもいる。2019年にノンバイナリーであることを告白し、昨年は自分のジェンダーについて理解し移行するための期間でもあったわけ」

 

——なるほど。なぜ、電車は音楽をつくる環境に適しているのでしょうか?

「電車での移動中だけが、制作可能な時間だったんだよね(笑)。日中は音楽とは別の仕事をし、夜はクラブでプレイしていたから。ラップトップとヘッドフォンがあればいいから手軽で、電車では他にすることもないから集中もできるし」

 

——前回のEPFor You』には落ち着いたトラックもありましたが、今作は全曲アップテンポですね。

「そう。外に出て、自転車を飛ばしたくなるようなアルバムにしたかった。前作の続編みたいなところはあるけれど、BPMは速くして、新しいことにチャレンジしている」

 

——今作の制作ペースはどのようなものでしたか?

「曲によってまちまちかな。半分くらいは、パンデミックになる前にデモをつくり終えていた。『And Groove』と『Feierabend』は、パンデミック後に作曲したね。『And Groove』はデモの段階から行ったり来たりな感じだったから、数ヶ月と時間がかかった。逆に『Watch Out!』や『Feierabend』は1日でできた。昨年にDance Systemと共作していたとき、彼ができるだけ素早く曲をつくることについて話していて、『Feierabend』ではその方法を実践してみたんだけど、うまくいった気がする」

 

——前作に引き続き、今作『Watch Out!』の一曲目「Only Said Enough」や「And Groove」でも印象的なボーカルの取り入れ方をしていますね。あなたにとってボーカルの重要性とはなんでしょうか?

「これまであまりボーカルは意識してこなかったんだけど、直近2作のEPでやっとその良さがわかってきたんだ。インストゥルメンタル的に扱えつつも、他では出せないインパクトがある。『Only Said Enough』で使用した叫び声は強力なフックになっていて、それなしではただのドラムとベースだけの音になってしまう。今はサンプリングだけど、今後はシンガーとコラボして新しい領域にチャレンジしたい」

 

 

——2019年にノンバイナリーであることを告白されましたが、音楽やアーティストとしての振る舞いへの影響はありますか?

「ノンバイナリーであることで、常に変化する自分を受け入れることができる。ひとつのジェンダーに捉われないという感覚は、ジャンルに執着せず音楽と関わる意識に繋がっている。ジェンダー・フリュイドであること、人生において流動的な状態であることは、自己表現としての私の音楽に確実に結びついている」

 

——では、あなたが日中に働いているキングス・カレッジ・ロンドンでの仕事内容からの影響はありますか?
「うん。私がいるのは『Equality, Diversity & Inclusion office』というLGBTQ+や身体障害者などのサポートを行う部署。そこで働くことで、いかに不平等な世界で生きているかを実感できて、音楽の世界にも蔓延る大きな差別や差異に目がいくようになった。特にイギリスの音楽界では、女性は男性より、黒人は白人よりもギャラが低い。誰も仲間はずれにしてはいけないし、賃金も正当に払われなきゃいけず、人々が安心して暮らせる社会じゃなきゃいけない。是正しなければならないことの多さに、より自覚的になれるんだ。だから一日の中で異なった2つの仕事をこなし、異なった知見を得られるのはいいことだと思う」

 

——イギリスでは6月までにワクチン接種が完了し、夏にはフェスやライブが可能になるというニュースがありました。うまくいけば、あなたの作品をやっとダンスフロアで聴けるようになります。率直に、どのようなお気持ちでしょうか?

「もちろん待ち遠しかったよ。気づけば、もう1年くらいプレイしていないしね。パンデミックの最中、イギリスではレイヴが盛んに起こっていたけど、私は無責任なことだと思って参加していなかったから。徐々に年末イベントのブッキングが来始めている」

 

——3作のEPを発表し、ファーストアルバムへの準備もしていますか?

「新曲制作やリミックスは続けているけど、アルバムについてはまだわからないね。Finnとの共作プロジェクトも進行していて、今年の暮れまでにはそっちのアルバムを発表できたらと思っている。ソロも、遠くない未来にはきっと!」

 

 

 

Watch Out!

India Jordan

(Ninja Tune)

INDIA JORDAN

インディア・ジョーダン イギリス・ドンカスター出身、現在はロンドンを拠点とするDJ/プロデューサー。2019年に初EP『DNT STP MY LV』、20年に2ndEP『For You』をリリース。レーベルをに移籍し、3作目となるEP『Watch Out!』 を21年5月7日にリリース予定。ノンバイナリーのアーティストとしても知られる。

 

Edit_ KO UEOKA (Righters).

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