Them magazine

SHARE

Apr 20, 2021
By JUNICHI ARAI

Interview with KIYOTAKA HAMAMURA 『Mars』

小誌をはじめ、雑誌のエディトリアルやブランドビジュアルを手がける濱村健誉氏による個展「MARS」が、IID Gallery世田谷ものづくり学校で420日より開催される。
1961年に人類が初めて宇宙に行ってから半世紀。今また時代は変わりつつある。立ち止まる事も、後退する事も選ばずに、前に進むことを選んだ人間はこの先どこへいくのだろうか。まだ火星に人間が降り立っていないからこそ、我々には自由に未来を想像する余地がある」というステートメントとともに作り上げられた写真には、どのようなメッセージが込められているのだろうか。

 

 

「まずは時間をかけて撮ろうと思ったんです」。ニューヨークから帰国し、日本で作品制作に取り掛かり始めたころを振り返りながら、その経緯について語ってくれた。「コンセプトを決めて、カメラを持ち歩いて撮っていたのですが、手のつけやすいテーマはすぐに飽きてしまうんです。撮っては消してを繰り返し、その中から良いと思ったものから、次につながる題材を考えていきました」。そうした試行錯誤の末に生まれた今回の「MARS」は、とあるきっかけで撮影したアメリカ兵のポートレイトから着想を得た、アメリカ軍の火星移住計画というものに想いを馳せたことからひらめいたと言う。「彼らはどんな場所においても、そこに馴染んだ生活をしようとせず、自国を形成していく精神がある。そこからたとえ彼らが将来火星といった場所で住むことになったとしても、同じように“アメリカ”というものを形成するのではないかと思ったんです。そうした考えを発展させて、『MARS』という作品を作ろうと考えました」

 

「これまでドキュメンタリーを撮っていたので、フィクションの作品を作ろうとは思っていませんでした。ただリアルなものを撮るべきだという考えが自分の中で重みになっていて、今の時代に起こっていることを、自分の作品として撮るのは面白くないと思っていた」。そうした自問自答の末、この“火星”というテーマにたどり着くことになる。「まだ誰も行ったことのないところだから、想像する余地がある。それはフィクションだけど、今後人々が火星に移住する未来を想像して、その過程を辿ることは現実として撮ることができるのではないかと思ったんです。0から生み出すフィクションでなく、これから起こり得ることを今写真に収め形作ることは、ドキュメンタリーとフィクションの中間に位置するのではないかと思いました。僕はストレートフォトが好きなのですが、コンセプチュアルにすればするほど、この時代には合ってくる。でもストレートな表現ができれば、それが自分にとっては一番いい。コンセプチュアルとストレートの間をやっていますが、ゆくゆくは自分の中で納得できるようなストレートな表現ができるようになっていくのが理想だと思っています」

Courtesy of Kiyotaka Hamamura
Courtesy of Kiyotaka Hamamura
Courtesy of Kiyotaka Hamamura
Courtesy of Kiyotaka Hamamura

こうして始まった「MARS」は濱村氏が語るように、現代では想像上でしかない火星への移住計画が、まるですぐ先の未来のような、リアリティのある表現として浮かび上がっている。広大な砂丘は人々が頭の中で描く“火星”そのもので、米軍基地で撮影したハッチから覗く兵士たちの談笑は、まるで移住計画に従事する彼らの束の間の休息を彷彿とさせる。この壮大なテーマを、彼はどのようなアプローチで制作していったのだろうか。「ひとつのプロジェクトとして作品を作っていく上で、まずはイメージボードを作っていき、そこにあるイメージやそこから派生したビジュアルを一枚ずつ作っていきました。全体の要素として欠かせないものを抽出し、リサーチや下準備、撮影に必要な許可取りをしていくので、一枚の写真を撮るだけでも相当な時間がかかります。そうした作業が面倒であればあるほど、他の人はやらない。だからこそ、時間をかける意味がある。そうした面倒な作業を積極的に行うようにしました」

 

作品それぞれの背景に、その一枚に至るまでの入念なリサーチや想像に基づいた必然性が潜んでいる。「最初のイメージとしてはまず、水や土、ガスや電気は撮らないといけないと思いました。火星にも北極と南極があり、そこには地球と同じ氷があるらしい。その氷を水にできれば、人間も火星に住むことができる。だから水はもちろん、火星にあるはずの氷も必要になってくる。例を挙げると、たとえば“What are we?”という作品は、移住のために用いられるであろうAIを表現したものです。大阪大学のロボット研究者である石黒浩教授にコンタクトを取り、研究所にも伺いました。石黒さんが開発したロボットや技術がベースとなって作られるものが多く、世界的に見てもその分野の最先端にいる石黒さんのような人が日本にいたのは幸運でした」。アクリルケースの中に保管された花の作品は、大阪の植物工場研究センター(PFC)へ赴いたときのエピソードが元になっている。「どうやって作物を人工的に栽培するかを調べると、実際アメリカでも同じような研究をしているところもあるそうなのですが、その研究所ではLEDだけで野菜を栽培していることを知ったんです。もしこの先火星への移住が現実のものとなったり、何らかの原因によって植物を土で育てることがなくなったら、花はもともと土で育っていたということを展示として残すことになるんじゃないか。そうした想像から作品としての表現を膨らませていきました」

 

自身を「時間をかけないとダメなタイプ」と語る氏によって作り上げられた「MARS」だが、テーマが決まるまでに2年、そして写真集の完成までに4年を要したという。アメリカでは、ビザの手続きなどで時間をかけられなかったと語る。「アメリカにいるための作業で時間を取られるのが嫌でした。帰国して作品に取り掛かる上で、日本で撮ることは意識しましたが、日本というものを押し出したくはなかった。それは自分の中では大事なことで、これまで海外で評価されているような、日本らしい場所や人に価値を見出すのではないものを作りたかったんです。すべてを日本で撮るけど、あくまで撮った場所が日本なだけであって、世界の中の誰かが撮ったものとして形にしようと思いました」。今回発表する「MARS」は、これからもライフワークのひとつとして続けていくのだと語る。火星という“近くて遠い”星を通じて彼が見つめる未来とは、どのようなものなのだろうか?その始まりを、是非ともその目で感じてほしい。

濱村 健誉

1986年、山口県下関市生まれ。20歳で写真を始め、ロンドンへ渡英。ドキュメンタリーを中心に撮影後、帰国しイイノスタジオで勤務。その後ニューヨークへ渡米。自身のアートワークと「Magnum Photos」でのインターンを経て、帰国。現在は東京をベースに活動中。

【展覧会情報】
『Mars』Kiyotaka Hamamura
TERM :4月20日(火) –25日(日)
PLACE : IID Gallery
ADDRESS : 〒154-0001 東京都世田谷区池尻 2-4-5
IID Gallery 世田谷ものづくり学校
OPENING HOURS:11:00 – 18:00 (無休) ※最終日は17:00まで
*新型コロナウイルス拡大のため、入場には人数制限を設ける場合があります。満員の際には整理券をお配りします。

【写真集情報】

『Mars』

会場ほか、Amazon USでも販売中。

Interview_JUNICHI ARAI(Righters).

SHARE