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FASHION
Apr 09, 2021
By THEM MAGAZINE

Interview with KRIS VAN ASSCHE

202148日、 《ベルルッティ》が2021年ウィンターコレクションを発表。パリではデジタル、上海では観客を伴ったパフォーマンスアートのインスタレーション形式で披露されたコレクションでは、クリエイティブ・ディレクターのクリス・ヴァン・アッシュが時代を取り巻く制約に立ち向かう衝動に駆り立てられたことで、ビデオ・ディレクターのアントワーヌ・アセラフとクリエティブ・コンサルタントのヨアン・ヌモワンヌと協力し、ボーダーを超えることを象徴的に表現したバーチャルショーの体験を作り出した。

 

ソーシャルディスタンスを示すフロアサインを舞台美術に取り入れたプレゼンテーションには、現代アーティストであるレブ・ケージンとのコラボレーションによって制作したコレクションが登場。作品から取り入れたモチーフや色彩、テクスチャーは、脱構築的な柔らかくリラックスしたテーラリングシルエットに反映された。ダブルフェースのカシミアをふんだんに用いることで作り上げた新しいスーチングが、フォーマルウエアの伝統的なドレスコードにワークウエアやスポーツウエアのエッセンスを融合させている。パティーヌを進化させ、手作業による染めと色落ち加工で仕上げたレザージャケットや、レブの作品のプリントをそのまま取り入れたスーツも登場。ノルウェイジャンステッチをアウターやスーツに採用し、ステッチそのものが模様としてデザインされている。

 

《ベルルッティ》の伝統的なクラフツマンシップを、現代的な要素を取り入れアップデートした今シーズンはコロナ禍におけるクリス・ヴァン・アッシュのマインドをダイレクトに表現したコレクションとして結実した。今回、このコレクションに込めた思いをクリス本人の口から語ってもらう機会がThem magazineに与えられた。この時代における《ベルルッティ》のクリエイションとは?彼の言葉に耳を傾けたい。

 

 

 

 

―今回発表したコレクションのテーマ、コンセプトを教えてください。

今回のコレクションでは、現代アーティストのレブ・ケージンとコラボレーションをしました。彼はシリコンを用いて層を何層にも重ねることによって、立体的で彫刻のような絵画を制作するのですが、さまざまなテクスチャーや色の絵具を使うことで生まれるコントラストが、《ベルルッティ》のパティーヌと通じるところがあると思います。伝統的なクラフツマンシップとは相反する現代アーティストにもかかわらず、ブランドと共通する色使いやビジョンを持っているところに惹かれ、今回のコラボレーションを実現するに至りました。

 

―レブ・ケージンのことは、以前から知っていたのでしょうか?コラボレーションにふさわしいアーティストを探すうえで、彼のことを知ったのでしょうか?

私はつねに本やアートギャラリー、SNSなどを通じて魅力的なアーティストを探しています。彼のアートワークに出会ってすぐに、《ベルルッティ》のクラフツマンシップやビジュアルと共通するものを感じました。コラボレーションする相手として、必然的とも言える選択だったと感じています。

《ベルルッティ》は伝統的なクラフツマンシップで知られていますが、「伝統的なクラフツマンシップ」というものはときとして「伝統的すぎる」ことで、少しずつ時代遅れになってしまうこともあります。現代を生きるアーティストを迎えることで刺激を受け、ブランドに新しい可能性を導いてくれます。

 

―今回のコレクションでは、レブ・ケージン以外ではどのような人が関わっているのでしょうか?

グラフィック面ではレブ・ケージン一人とのコラボレーションですが、それ以外の部分ではこれまでのファッションショーでいつも関わってくれているお馴染みのメンバーです。ムービーはアントワープ・アセラフで、コレオグラファーとしてオリヴィエ・カサマヨウが入ってくれました。音楽はフレデリック・サンチェスが担当しています。今回はただのオンラインプレゼンテーションではなく、実際のファッションショーのような、ダイナミックな演出をしたいと思っていました。なのでアーティスティックなプロジェクトにするため、彼らと一緒に作り上げました。

 

―コレクションを制作するにあたり、コラボレーションの相手やスタッフとどのようなコミュニケーションを取りながら進めていったのでしょうか?

コロナ禍でそれまで通りのやり方が急に通用しなくなった前回と比べると、もう少しスムーズに進行できるようになったと思います。前回は2カ月オフィスに訪れることも叶わず、工場もストップするなど、厳しい状況にありました。それに比べると今季はアジェンダがしっかりしていました。例えばある日は、一人のメンバーと直接会って打ち合わせをして、翌日はオンラインでそれぞれオフィスと自宅にいる異なるスタッフと話すなど、密を避けながらコミュニケーションをとっていました。(前回と)一番異なる点は、たえずコンスタントに会話をしていたことですね。

 

―コロナ禍の前後で、あなたの中でクリエーションや考え方に変化はあったのでしょうか?

変化は確実にあったと思います。今は物事がすべて複雑で時間も制限され、新しい環境の中でコレクションを作るのは大変なことですが、コロナの影響で、「何が必要で、エッセンシャルか」を深く考えさせられました。私はもともとしっかりと仕立てられたシルエットが好きなのですが、このパンデミックを経て、よりカジュアルで着心地の良いシルエットを好むようになりました。

―そうした変化によって制作した、コレクションのプロダクトについて説明いただけますか?

一番象徴的なもので言えば、ジャケットですね。構築的というよりかは、流れるようなシルエットが特徴ですが、エレガントな要素も兼ね備えています。フォーマルスーツのように見えるジャケットも、クラシックでエレガントなシルエットを作り出していますが、ソフトな生地を使用しているので、スケーターシャツのように着ることができます。

 

―パンツにもそのような意匠が反映されているのでしょうか?

はい。スポーティーな要素と機能性を意識しました。スーツジャケット同様、クラシックなテーラード素材を使用しながらも、足首には絞りをいれ、トラックパンツのようなデザインに仕上げています。

 

―《ベルルッティ》のアイコンでもあるシューズについてはどのような提案をしているですか?

今回のコレクションでは、クラシックなシューズとスニーカーの両方を採用しています。特徴的なプロダクトでいうと、例えば伝統的なアッパーに、とても大きなソールを合わせたもの。チャンキーなデザインが、より都会的な印象をもたらして、ダイナミックでスポーティ、若々しくありながら、トラディショナルな要素を兼ね備えた仕上がりになっています。また、ソール部分にハンドステッチを施し、異なる三層を組み合わせたシューズもあります。伝統的なシューズ作りに用いられるノルウェイジャンステッチ製法ですが、このステッチはウェアで披露したジャケットにも採用しました。

 

―では、同じくアイコニックなレザー使いについてはどうでしょうか?

レザージャケットにも同様に、ノルウェイジャンステッチを施しています。しなやなで柔らかいレザーを使用したスポーツジャケットがあるのですが、これはレブ・ケージンの色使いにインスピレーションを受けたものです。新しいパティーヌの技術を採用し、ひとつのアイテムにさまざまな色を取り入れています。

 

―以前手掛けていたメゾンでは、アーカイブを参照してデザインしていたと仰っていましたが、《ベルルッティ》ではよりプロダクトそのものにフォーカスしているように見受けられます。ブランドが持つパティーヌといった技法などを、さまざまな形で表現していると思いますが、コレクションに取り掛かるとき、まずはどのようなことを考え、スタートするのでしょうか?

どうすれば、伝統的な作品に現代的な要素を取り入れられるか?というのを考えます。《ベルルッティ》の靴作りに関してはとても伝統的でありクラシックなため、ときとして若い世代には響かないことも考えられます。先ほども言った通り、「伝統的」というものの危険な部分です。私のスタートポイントとして、この「伝統」をどうやって新しい方向やテリトリーに持っていけるかを考えることです。私が現代アーティストと一緒に仕事をするのが好きなのはこのためです。一つはクラフツマンシップ、もう一つは現代アートという、両極端にあるものを融合することによって、互いに刺激を与えあい、イノベーションが生まれるのだと思います。

 

―《ベルルッティ》のクラフツマンシップを現代的にアレンジすることで、新しいエネルギーをもたらしていると思いますが、このような時代において洋服を作ることで、人々にどのようなことを伝えたいのでしょうか?

伝統はモダンであり、カジュアルな姿勢を持ちながらもエレガントであることができます。そしてラグジュアリーであり、着心地の良さもあります。働き方やユニフォームなど、以前に比べるとリラックスしたムードになっていると思いますが、だからと言ってみなジャージを着てればよいというわけではありません。ラグジュアリーでありながら、リラックスや着心地のよさを私なりに追求することが大事だと思っています。

 

 

 

Photography_LOUIS CANADAS
クリス・ヴァン・アッシュ

ベルギーのロンデルゼール生まれ。18歳にアントワープ王立芸術アカデミーに入学。1998年に
卒業しパリに移住。2000年にエディ・スリマンによる《ディオール オム》で仕事を始める。2004年にディオールを去り、シグネチャーブランドである《クリス・ヴァン・アッシュ》を立ち上げる。2007年にエディ・スリマンの《ディオール オム》退任に伴い、その後を引き継いでクリエイティブのトップに就任する。2018年に退任し、《ベルルッティ》のクリエイティブ・ディレクターに就任。

 

 

Berluti

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