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ART
Nov 22, 2020
By JUNICHI ARAI

Interview with KANAKO SASAKI for WAVE 2020

数多くのコマーシャルワークを手がけながら、個展やグループ展、海外のアートフェアへの出展など幅広いフィールドで活動するペイントアーティスト・イラストレーターの佐々木香菜子氏。人物の躍動感から植物の静謐さまでを自由自在に描いた水彩画は、広告や商品パッケージ、雑誌媒体などさまざまなジャンルで目にすることができる。近年では、《ナイキ》のエアフォースワンとのコラボレーションが記憶に新しい。作品として発表する抽象画のシリーズなど、さまざまなジャンルで活躍する佐々木氏を訪れた。

 

本格的なイラストレーションへの目覚めは、大学時代にさかのぼる。「母親がイラストレーターだったんです。当時の家庭にはなかったパソコンやコピー機などがうちにはあり、見ているうちに自然と私も絵を描くようになりました。何かを作ることに憧れを持ち始め、ディスプレイデザイナーを目指し地元の宮城県にある工業大学に入ったのですが、数字が苦手だということに気付いて。それから私には何ができるかを考えるようになって、一からまた絵を描くようになったんです」。卒業制作の傍ら、作品展への出展にも取り組むなど、イラストレーションに対する情熱が強く湧き上がるようになる。「当時はモード誌の勢いが盛んで、そこへの憧れから卒業後はとりあえず東京に行かないとダメだなと思って東京の会社を探しました。在学中から作品をまとめたポートフォリオをさまざまなところに送っていたこともあって、最終的にとあるグラフィックデザインの会社の目に留まって、そこに就職したんです」。1年半が経ち、デザイン会社が解散するタイミングでイラストレーターとして独立。グラフィックアーティストのコンサルティング・コーディネイトや広告の企画・制作を手がけるマネージメント事務所に所属し、本格的にイラストレーターとしての活動がスタートした。

SISE 2014S/S
SISE 2014S/S Artwork
SISE 2016S/S
SISE 2018-19F/W "MOON LIGHT"Artwork

「渋谷西武」や「阪急百貨店」のウィンドウディスプレイや、「スターバックス」アークヒルズ店のオープンビジュアルを担当し、『ヴォーグ』や『ハーパーズ バザー』、『エル』といったモード誌にイラストを提供。長年にわたりコラボレーションを行っている《シセ》ではシーズン毎のグラフィックやアートワークを手掛けている。さまざまなブランドやアーティストとのコラボレーションを行い、クライアントを挙げれば枚挙に遑がない。着実にイラストレーターとしての実績を積み重ねながらも、次第にアーティストとしての自己表現に向き合おうとするようになる。「事務所に所属するようになって、たくさんの仕事を経験していくうちに、自分の中に自由な作品を描きたいと思う気持ちが強くなっていて、描けば良いのになぜか我慢していたと気付いたんです。マネージメント事務所から独立したあたりから自分の心のままに好きなものも描き始めました。コマーシャルワークの合間でそのときの自分が感じるものを描いていくというバランスが良いんです」

「妄想植物図鑑」

独立してからは作家性を追求するための、頭の中でイメージした植物を描いた「妄想植物図鑑」や、人物の抽象的なポートレイト「Draw the Line」など、抽象表現を取り入れた作品を発表している。「オリジナルの作品では、人の感情や精神・感覚のような、目に見えず、触ることのできないようなものを描いています。見る人によって、また私自身もそのときの気分によってまったく別のものに見えたり感じたりするような。常にテーマやモチーフはありますが、人それぞれの感情やタイミングによって、作品の捉え方が変化していくところに、抽象画の面白さを感じています」

「妄想植物図鑑」

2回目の参加となる「WAVE2020」展では、新作「reborn2」を発表する。「細胞分裂や再生というものに興味が湧いたのがきっかけです。最近、生きるということや生命力というものを考えることがあり、そこから心や感情・精神の生まれ変わりを表現したいと思いました。絵具を伸ばしたときに生まれる気泡の凹凸やまだらの細部全てに、音をたてながら分裂し増殖する様子を想い描きました。先立って別の展示で1作目となる「reborn」を発表していますが、このシリーズでは、エネルギッシュであることを意識しました」。その力強さは、作品のサイズにも現れている。「昨年は1303×1303mmの作品を出展しましたが、今年はそれよりもひとまわり以上大きいS100号(1620×1620mm)で制作しました。グラフィックをプリントしない、実際に描いたものの中ではこれまでで一番大きい作品です。そこにインテリアデザイナーである山﨑哲生氏による特注のスチール製の額縁を装丁しています」

 

「『WAVE』は制約がない、それぞれのアーティストがチャレンジできる場だと思います。私は次のステップアップのための作品作りを目指しました」
ペイントアーティストとして、新しい表現を追求し続ける佐々木氏の今を、作品の迫力をもって実際に感じてほしい。

佐々木香菜子

1983年宮城県生まれ。ペイントアーティスト・イラストレーターとして、ファッションを主軸に 広告、商品パッケージ、企業とのコラボレーションなどを幅広く手掛ける。抽象画の作品作りも 精力的に行い、個展やグループ展、アートフェアなどに参加。2016年より写真家の植村忠透氏とともにアートユニット「CAT BUNNY CLUB」を主宰する。
WAVE展には、29日AM11:00〜PM6:00在廊予定。

Text_JUNICHI ARAI

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