Them magazine

SHARE
FASHION
Apr 06, 2020
By THEM MAGAZINE

Interview with PUGMENT『写真とファッション 90年代以降の関係性を探る』より

 2014年にブランドを立ち上げてから現在に至るまで、自らの生活する社会や文化、環境と相対し、ファッションを通して自身の視点をアウトプットする《パグメント》。今回、東京都写真美術館にて開催予定の「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」への参加と2020年秋冬コレクション「Never Lonely」の発表に合わせ、《パグメント》のデザイナーである大谷将弘と今福華凜に、作品制作のプロセスや現在行っている取り組み、日本におけるファッションシーンへの考察を訊ねた。

「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展示風景

ブランド立ち上げより定期的にプロジェクトを行い、2017年からはコレクションの発表を開始。路上に落ちた服を作品に落とし込みそのストーリーを探るプロジェクト「MAGNETIC DRESS」や、福島第一原発事故と明治維新以降の日本洋服文化を見据え、将来のファッションを反映させたコレクション「1XXX-2018-2XXX」など、《パグメント》はその度ファッションを軸に、それを囲む社会や文化、環境を複合させ、作品をストイックに発表してきた。そんな彼らの一種のインターメディア性を兼ね備え、どこか親近感を持つクリエイティブ性に溢れた作品は、ファッション界の枠を超えアート界にも注目され、昨年の東京都現代美術館展覧会「MOTアニュアル2019」では、インスタレーションを展示。それをもとに発表された2020年春夏コレクション「Purple Plant」が多くの観客へアートに通ずるファッションの可能性を見出したことは記憶に新しい。そのような経験を経て彼らは、今回の展覧会、そしてコレクションにどのようなビジョンを持って取り組んだのだろうか。
「自分たちの中ではアートとファッションは対象とするコンテクストが異なるものだと思っています。前回の東京都現代美術館ではアート作品としてインスタレーションを発表し、展示の期間中、作品自体が『よくわからない』という意見をもらうことが多かった事が発見で、自分たちとしては読み込んでいけば作品のストーリーがわかるよう、所謂制作のレシピをキャプションや作品に散りばめていたのですが、それだけではなかなか伝わらないことに直面しました。というのも、自分たちの作品には制作プロセスも重要なので、みる人にはそのプロセスを頭の中で追体験してもらった上で主題の中から『よくわからない』と言ってほしい。そういった経験から今回の東京都写真美術館での展覧会では、過去制作した作品のレシピを過去作と合わせて展示することで、制作プロセスを追体験してもらい、いろいろな解釈が生まれてくればと考えました」

 

 

展示室の中でも《パグメント》の展示エリアに踏み込むと様々な情報が入り混じっていることがわかる。ファッション、コラージュ、写真、映像、テキストなど、カラフルに様々な要素が混在する空間はまるで東京の都心文化を思わせ、壁面には彼らの過去行ってきたプロジェクトのレシピが提示される。『写真とファッション 90年代以降の関係性を探る』というタイトルの中での彼らの展示空間は、1990年に生まれた2人の誕生から現在までのファッションに対する関わり方、考え方が誠実に反映されているようにもみえる。
「普段ファッションを通して表現をしている私たちにとって、写真は重要な要素として考えていて、それは国内のファッションの歴史を考えたときにも同じようにいえると思っています。ファッションと写真が強い関係を持つ理由として挙げられるものに雑誌がありますが、日本のファッション雑誌文化は他の国にはみられない部分があると思います。国内の洋服文化の発端は明治維新の時代、それまで着物を着ていた日本人の元へ海外から急に洋服がやってきて、それと向き合うため、洋裁学校を立てはじめたところからスタートしているといわれています。そこでは洋服についての教科書が使われていたのですが、そのスタイルが日本のファッション雑誌の特徴と似ていて、なんだかマニュアルやレシピっぽい。例えば、『こういう風にコーディネートしましょう』みたいな。
というのも自分たちが思うに、海外のハイファッションというものは元々非日常を体験する、貴族がパーティーに行くためのドレスアップなどを目的としてつくられてきましたが、日本はそのような習慣もないし、常に日常着が日本ファッションの中心にあります。それは雑誌にもいえて、根源として身体の美をファッションフォトで写す海外のファッション雑誌とは異なり、日常でどのように服を着るのかが日本にとっては大切なのことだと思う。だから、さまざまなスタイリングがレシピとして雑誌に載っていて、それは流行を除いて他の国にはみられない特有の習慣だと考えました」

 

確かに、ファッション雑誌を手にとり参考にして洋服を買うことが、現代では当たり前なこととしてあるが、そのパターンが日本が持つ時代の混沌により生まれ、それがひとつの文化として成長、現在も我々の無意識のうちに続いている事実は確かにここにはある。それに注目し再確認する着眼点は、彼らの制作スタイルだからこそ生まれる視点ではないだろうか。では、そのように物事の背景に注目し、制作を行う彼らのスタイルはどのような過程で生まれたのか。
「元々アーティストになりたくて、自分たちの制作の核やアイデンティティは何かを探していたのですが、一向に見つける事ができませんでした。ただ、ファッションを通して憧れの誰かになりたくて服装でキャラ設定をする自分がいることに気づき、ファッションを軸に作品制作をしはじめました。そして、制作していく中で自分の状況について考え調べていると、自分のアイデンティティがなく他の真似をする、何かになろうとするという事が、日本の戦後の状況と重なるのではないかと言う考えに至ったんです。戦後になってから日本人は服装においてもアメリカやヨーロッパなどいろいろな国々の真似をしていて、その混在が東京だったりするんじゃないかって。それを受け入れて、ファッションと深く関係性を築くにはどうすれば良いかを考えたとき、自分たちの作品にファッションを通して社会や歴史に関わっていけるような側面があればもっと長く、近くでファッションに関わることができるのではないかと思いました」

「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展示風景

彼らの生活と社会や歴史を紐付け表現を行うエッセンスは現在でも一貫している。今回の展示作品群の一部、写真家ホンマタカシと共に制作された新作もそのひとつだ。沖縄へ足を運びSNSでスカウトしたという、現地のミリタリーウェアを着た若者達の姿を写した写真作品は、初々しさを感じる反面どこか緊迫感も漂わせている。
「ホンマタカシさんと一緒に作品をつくるのは今回が初めてのことでした。元々、数年前から同じコンセプトのプロジェクトを行っていて、前回プロジェクトを始めた当時は安保法案可決に対する反対運動が起きていた時期でした。自分はもちろん戦争反対だけれど、その事に対しどう関わればいいのか分からなくて。そんな時、持っていた古着のミリタリーウェアに穴が空いているのに気がついて、その穴が過去の戦場の銃痕かもしれないと思ったとき、急に戦争が自分の生活に近づいた気がしました。その時に軍服をファッションとして着ることに対して見方の変化が起きたことから『Image』という名前でコレクションを発表しました。そこから発展したプロジェクトとして沖縄で撮影する事に意味があると考え、今回の作品を撮影することになりました」

 

また、今回の展覧会も含め、彼らの過去作品をみていると《パグメント》の制作開始時から通ずると思われる、プロジェクトやショーに対する膨大なリサーチとロジカルに構成されたテーマにも注目したい。
「そもそもものづくりにおいて、何となくでつくることが出来ない。ふわっと足場がない状態で制作を行っていると自分たちの予想の範囲内でしかつくれないと思っていて、けれどしっかりと足場を組んでつくっていけば自分たちでも予想しなかったようなイレギュラーな要素も作品に取り入れることができる。プロセスについては、作品をつくろうとしてテーマが出るというよりは、普段自分が服を着ている状況やその服自体から出る疑問を掘り下げて、それが自然とリサーチになっていき作品になる。例えば、アメリカの古着Tシャツはにカッコイイという漠然とした意識があったのですが、何故そう思うのかはわからない。そのカッコイイという意識はアメリカ人と日本人では異なる感覚だと思うし、自分にとって何故そう思うようになったのかと考えるところから制作が始まります」

イメージを広げる上でそれを構成する背景や歴史は重要な要素であり、それをリサーチで深める工程で今までにないものが生み出されることは、今回彼らの今までの作品や展示された制作レシピを通し多くの人が改めて実感するだろう。
「今回のレシピの展示もそうなのですが、自分たちは制作過程も見てもらいたいと思っているので、《パグメント》の一番最初のファッションショーはまさにショーの構造やつくり方を表にして見せることもテーマにしていました。東京都写真美術館での展示では、レシピを見て制作プロセスを追うことで、頭の中で再制作ができるような構造になっています。服を買って着るだけではなくて、能動的な視点を提供したい。それは、スタイリングに近い感覚でもあると思います。日本のファッションでは、街にいるお洒落な人たちのスタイリングに見られる消費者的な感覚にクリエイティブを感じます」

Photography_Kei Murata

最後に、最新の2020年秋冬コレクション「Never Lonely」について訊ねた。
「今までも自分たちが考えてきたことにあったような、日本のファッション誌におけるコーディネートの歴史をベースとしつつ、世界中に由来する要素が繋がることで日本の洋服が出来ていることに注目しました。元々海外で生まれたものが、ほかの地で別のものと繋がることで新しいアイデンティティを生む姿は、移民によって生まれる文化にも重なると考え、今回のコレクションを制作しました」

 

ジャンルを問わない様々な要素を取り込んで成長する姿を持ち、ファッションにおけるクリエイティビティーを独自の視点で拡張し続けている《パグメント》。東京を拠点とするクリエイターとして、そしてファッションブランドとして今後も我々に驚きの仕掛けを用意してくれるだろう。

 

 

 

TEXT_DAIKI TAJIRI

PUGMENT

パグメント 2014年に東京で創設されたファッション・レーベル。人間の営みにおいて衣服の価値や意味が変容していくプロセスを観察し、衣服の制作工程に組み込む。ファッションにまつわるイメージと人との関係性に着目し、すでにある価値・環境・情報について別の視点を持つための衣服を発表している。主な発表として「1XXX‒2018‒2XXX」(KAYOKOYUKI / Utrecht / n id a deux、2018年)、「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(東京都現代美術館、2019-20年)など。

【展覧会情報】
『写真とファッション 90年代以降の関係性を探る』
TERM : – 5月10日(日) *現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から休館中
PLACE : 東京都写真美術館 2階展示室
ADDRESS : 〒153-0062 東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
OPENING HOURS
10:00~18:00(木・金曜は20:00まで)※入館は閉館時間の30分前まで
毎週月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は開館し、翌平日休館) 、臨時休館
TEL 03-3280-0099
URL https://topmuseum.jp/
※最新情報は同館の公式ホームぺージでご確認ください。

SHARE