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LIFESTYLE
Aug 01, 2023
By THEM MAGAZINE

Wear, Repair, and Wear vol.1 KNIGHTSBRIDGE Shoe Repair(前編)

お気に入りの服を末永く愛用するためには、修理は避けられない。新品を購入するより値が張ることもあるが、それでも同じ物を使い続ける覚悟を持ち、修理の道を選ぶ人のためのリペアショップガイド。近年オープンした修理店の中から、安心して預けられる信頼のショップを紹介する。第一弾は、吉祥寺通りに、2021年オープンした「KNIGHTSBRIDGE Shoe Repair」。

 

イギリスをルーツに持つ誇り高き店づくり

井の頭公園沿いの並木を歩いてゆくと、ブリティッシュグリーンのテントに木枠のドアが見えてきた。金文字で「KNIGHTSBRIDGE SHOE REPAIR」と書かれた扉を開けると大きなユニオンジャックが目に入る。店頭には、半生に渡りイギリスへの情熱を燃やしてきた店主の鬼塚氏が立つ。

鬼塚氏は学生のころからイギリスとヨーロッパ古着が好きで、20代の時にはバックパックを背負い、古着を探しにイギリスを拠点として欧州を旅した。その後は古着屋や帽子屋などを点々と渡り歩いていたが、2006年に靴修理の雄「ユニオンワークス」の門を叩く。二子新地の工場に未経験で入り「ユニオンワークス」流の修理を学んだ。それは、細かなディテールを含めた全体を元の製品と同じ状態に近づけることをモットーとするもので、鬼塚氏は現在もその理想を追い求めている。

「ユニオンワークス」は、店舗で注文を受けたほとんどの修理を工場に持ち込んで分業制で仕上げるというスタイル。作業ごとに担当者が決まっているため、一つひとつの作業のクオリティは非常に高く、技術の上達も望めるが、独立を見据えるとその特殊なシステムは個人が真似できるものではない。多くの高級靴を丸ごと一人で修理する経験が必要と判断した鬼塚氏は、百貨店などに出店しているクイック修理チェーンに転職した。

 

その後、引っ越しを機に吉祥寺で独立し、チェロ教室だった店舗を借りた。「テナントの雰囲気に一目惚れしました。床はインドネシアで一番硬い木を使ったものだそうです。赤みを帯びた深いブラウンの重厚なムードに合わせて、ショーケースは高級感のある英国アンティークを選びました」

店内を見渡すと植物が多く飾られていることに気が付く。これらをアレンジしているのは、鬼塚氏と同様に若くからイギリスに魅せられてきた奥様だ。「《マノロブラニク(Manolo Blahnik)》のデザイン画には、その靴のイメージに合った植物のモチーフが描き込まれているんです。そのコンセプトを取り込んで植物を置くことにしました」

ショーケースに向かう鬼塚氏
植物がバランスよく配されている
念入りにセレクトされたケア用品とユニオンジャック
《マノロブラニク》の靴とデザイン画

店名である「ナイツブリッジ」はロンドンの地区名に由来する。ハロッズなどの百貨店や高級ブティックが軒を並べる銀座のような地区だ。「ロンドンのナイツブリッジに通っているような目の肥えたお客様もしっかり安心して預けられる、実際にナイツブリッジにあっても遜色ない店にしたいという思いから名前をもらいました。ここは井の頭公園に面していますが、ロンドンのナイツブリッジもハイドパークの隣に位置しているという意外な共通点もあります」

 

オリジナルの製品に近づけることを本懐とする修理

鬼塚氏の修理への姿勢は「ユニオンワークス」時代に身についたもの。しかし仕上げの完成度に対する向上心は留まるところを知らない。元の製品に近づけることが理想であることは前述の通りだが、それはシンプルな目標に見えて奥深い。「元の製品に近づけると一口で言っても、『ここをこうすればよい』という分かりやすい正解が見える訳ではなく、その靴が持つ雰囲気を理解しなければなりません。英国、アメリカ、イタリア、日本など、靴の生産国ごと、さらにはブランドごとに、国民性やブランドの思想が靴の仕上がりに反映されます。例えばアメリカ靴を英国靴のように修理したら全体がチグハグな印象になってしまいますし、逆も然りです。言葉では簡単に表せない雰囲気を汲み取って、その機微を宿らせることを心がけて修理しています。そうした醍醐味を最も強く感じるのが、グッドイヤーウェルテッドのオールソール交換です。同じブランドの靴でも修理のたびに毎回新しい発見があるので、奥が深くて面白さは尽きません」

 

グッドイヤーウェルテッドのオールソール交換は修理の中でも高価な部類に入る。依頼する際は慎重に判断したいところだ。「基本的にはソールに穴が開いたりペコペコしてきたりしたら交換時期です。そもそもソール修理の根本の目的は、穴を塞ぐことではなく、厚みを戻す、すなわち元の状態に近づけるということです。その意味ではオールソール交換が理想ですが、ハーフレザーでも対応できます。ただ、うちのハーフレザーは上から貼るのではなく、踵だけ残るようにソール前面のみ元のソールを剥がして新しいソールを縫い直します。新品のソールは5ミリくらいの厚みがあり、そこまで厚みを戻すのが目的ですが、実は一般的なハーフラバーだと2ミリほど、ハーフレザーは3ミリほどの厚みしかなく、すり減ったソールに貼るだけでは地面を近く感じてしまいます。ソールの上に貼るタイプのものはすり減る前に取り付けることで、元のソールの減りを防ぐ目的で使うのがよいと思います」

オリジナルの製品に近づけるという前提のもとで、ベストな修理法がはじき出されている。

 

(後編に続く)

 

【店舗情報】

KNIGHTSBRIDGE Shoe Repair

180-0005 東京都武蔵野市御殿山1-7-7

TEL:0422-26-6233

https://knightsbridge.shop/

@knightsbridge.shoerepair

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