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LIFESTYLE
Aug 07, 2023
By THEM MAGAZINE

Wear, Repair, and Wear vol.1 KNIGHTSBRIDGE Shoe Repair(後編)

靴修理店「KNIGHTSBRIDGE Shoe Repair」の鬼塚氏にお話を伺った。前編は氏の修理スタイルについて。後編ではその高度な修理を支える、厳選されたモノたちにフォーカスする。

 

適材適所の修理部材

鬼塚氏がオールソール交換の際に扱うソールは主に3種類。一つ目はイギリスのタンナー「ベイカー」によるオークバーク。樫の樹皮のタンニンで鞣され、原皮の状態から完成まで12カ月以上もの時間をかけて仕上げられる。しっかりと目が詰まっていて耐久性が高く、硬いが足馴染みは抜群。《エドワードグリーン(Edward Green)》や《ガジアーノアンドガーリング(Gaziano & Girling)》、《アンソニークレバリー(Anthony Cleverley)》などの既成靴にも純正で採用されている最上級の素材である。二つ目はドイツ製のオークバーク。スイスやアルプス山嶺で放牧された牛の皮を使っており、こちらも耐久性が高い。やはり良い環境で育てられた牛の原皮は上質な革を生むそうだ。最後はイタリア製のクロム鞣。こちらは前の2つよりも質感や耐久性で劣るものの、リーズナブルな選択肢となっている。

右から「ベイカー」、ドイツ製オークバーク、イタリア製クロム鞣。天然の鞣は色むらが出るが、仕上げの際に美しい飴色に磨かれる。
ドイツ製オークバークを使った《チャーチ(Church's)》は底面の縫いに沿って目付けを再現。サイズ表記も押されている。
「ベイカー」を使用した《サンダース(SANDERS)》の刻印は箔押し。細かい点もブランドの特徴を拾うこだわり。

他にこの店への頻度の高いオーダーとしては、トゥスチールがある。「ヴィンテージスチール」と「トライアンフ」の2種類を用意し、「トライアンフ」の方が少し厚く重厚な靴に向くそうだ。「洗練さを感じる見た目からトゥスチールは人気がありますが、つま先の補強はスチール以外にも種類があります。新品のときはソールの返りが悪いのでつま先が削れやすく、強度の高いスチールを入れるのがおすすめですが、返りが付いてきたらゴムや革でも十分です。特にローファーなどで柔らかい素材の靴には革が良いと思います。ちなみに、スチールを交換する際は、ソールに一度開けたネジ山に木片を埋めて再度ネジが切れるようにするので繰り返しの交換も心配ないですよ」

細かな修理部材にもこだわりがある。「トライアンフ」用のネジは、イギリスから取り寄せた真鍮製マイナスネジ。日本で多く展開されているプラスネジよりも欧州らしい雰囲気が出る。ネジ頭の大きさが日本製のネジより一回り小さく、収まりが良いのもポイントとのこと。

「トライアンフ」を装着した靴。ネジの向きも揃えられ、気持ちの良い仕上がり。
「ヴィンテージスチール」はサイズ展開が多い。よく使うのは6種だが、全部で9種生産されている。

鬼塚氏の店では、さらに人気のイギリス製部材に「UKダブテイル」と呼ばれるトップリフトを使ったリペアも多く持ちこまれる。接着面が全ゴムではなくレザーと組み合わせられているので、高級感が損なわれない。細部であるが全体の印象を左右する、イギリス靴には欠かせない部材だ。

また、いわゆる本格靴に限らず、《ドクターマーチン(Dr.Martens)》の修理も可能。《ソロヴェアー(SOLOVAIR)》のエアーソールと、そのソールのサイドに施された特徴的なウェーブを切るためのカッターを仕入れている。《ドクターマーチン》をここまでオリジナルに近づけて修理できる店は少ない。

「UKダブテイル」。左が接地面で、右が接着面。右の接着面が全ゴムだとヒールを横から見た時にゴムの層が悪目立ちしてチープな印象になってしまう。
「UKダブテイル」がついたヒール。接地面から2番目の層が全ゴムにならずに高級感が保たれている。
ソロヴェアーのソールと、ウェーブ用のカッター。

「機械はドイツに限ります」

ショップの裏には工房があり、各種機械が置かれている。アッパーを縫う八方ミシンはドイツの《クラエス(CLAES)》。強度と精度が他のメーカーより一段優れ、ピッチや針の太さを変えて正確に縫えるそうだ。このミシンで縫われたカウンターライニングの修理例を見ると、元の縫い目から一目も外さずに仕上げられている。

切削機はドイツの《ゴッツ(GOTZ)》。革を研磨して整えたりする機械で、削ったチリの吸塵力が強い。前述の《ドクターマーチン》用のカッターはこの機械に取り付けて使う。

圧着プレス機はドイツの《パワー(Power)》でその名の通りパワフル。靴の形に合わせて型を使い分け、ハーフラバーや踵の圧着に使う。

お気づきかもしれないが、選ばれているのはドイツ製の機械。「精度やパワーの面から見ると、工業製品はやっぱりドイツです」

《クラエス》のミシン
修理の跡がわからないほど正確に縫われたカウンター
《ゴッツ》の切削機
《パワー》のプレス機。足型の種類が豊富にある。
新しいソールを取り付ける前に、古いソールを剥がす作業

「お金儲けを目的にはしてはいないので、当然ですが無駄な修理は薦めません。靴好きなお客様が集まりやすいですが、ある程度おまかせでご依頼いただく方も多くいらっしゃいます。部材の種類が多いので、その人とその靴に合ったものをご提案できるのが強みです」

自らの理想を高く持ち探求を極める一方で、一人ひとりに寄り添ってベストな修理を目指す姿勢が信頼感のある鬼塚氏。靴修理店に迷ったら「ナイツブリッジ」をお薦めする。

 

 

【店舗情報】

KNIGHTSBRIDGE Shoe Repair

180-0005 東京都武蔵野市御殿山1-7-7

TEL:0422-26-6233

https://knightsbridge.shop/

knightsbridge.shoerepair

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