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CULTURE
May 16, 2025
By THEM MAGAZINE

COMING UP Vol.01_04 『炒飯狙撃手 弐 第3の銃弾』by 張 國立

台湾の凄腕スナイパーによる人気アクション・ミステリ、第2弾。

M-1グランプリに登場するお笑いコンビ名のようなタイトルだが、この小説の主人公は、中華料理の料理人であり、凄腕のスナイパー。つまり、最も単純明快なタイトルというわけだ。しかも、本書は日本で2024年3月に出版された第1弾の続編となるだけではなく、すでに本国台湾ではシリーズ第3作も刊行されている。不動の人気を誇るアクション・ミステリシリーズなのである。普段は中華鍋を振るう小艾(がい)は軍隊で射撃の訓練を積んできた一流スナイパー。第1作では、ローマで台湾の高官を暗殺し、その後追いつ追われつでハンガリー、チェコなどに移動しながら、サスペンスは深まっていったが、続編の本書でも、前作同様、台湾の元刑事(老伍)やその上司(蛋頭)が登場し、小艾(がい)と強い絆で結ばれながらも、ますます事件は混迷を来す。今回は2004年3月19日、台湾の総統選挙期間中に実際に起きた「三一九槍撃案」をベースにしている。再選を目指す総統と副総統は、襲撃から死亡は免れたものの、この事件によって不利といわれていた選挙に同情票が集まり、再選を果たす。襲撃した犯人は選挙後に死亡しており、多くの謎を残したまま、今日まで“真相”は明らかになっていない。雑誌編集者時代に、この事件に対して不満を募らせていた著者は、本書を“自己治癒方法”として執筆したそうだ。小説は総統選挙投票の7日前に、総統を狙った2発の銃弾から始まる。しかし、現場に残された薬莢と弾が適合しない。さらに襲撃を受けたはずの総統候補の脇腹には、僅かな擦過傷だけが残るだけ。すぐに退院し、選挙戦に復活する。この胡散臭い事件の現場に、小艾がいた。何者かに呼び出されて。彼は何者かによって犯人に仕立て上げられたのだ。前作では炒飯に腕を振るった小艾は、今作では龍珠(いかとんび)を炒める。お玉を使わず、両腕だけで鍋を振るのだが、総統候補襲撃事件によりいったん鍋を置き、ひたすら真犯人を追う。前作ではヨーロッパを中心に動き回った小艾は、今作では日本、高野山を望む熊野古道で、バディである佐々木と激しい銃撃戦を繰り広げる。最初は読み慣れない(かつ、原稿のタイピングにも苦労する)人名や土地、料理名の漢字につまずくのだが、読み進むにつれて気にならなくなる。それほど展開がスピーディでスリリングだ。指名手配されている人物がこれほど自由に動き回れるのは不思議な気もするが、各チャプターの冒頭で語られる教官の“教え”などから、スナイパーは過酷な訓練を受け、並外れた能力の備わったものだけが生き残れる職業なのだろう、と納得する。読んでいる最中、中華料理が無性に食べたくなるので、空腹時に読むのはお勧めできない。

 

『炒飯狙撃手 弐 第3の銃弾』
AUTHOR _張 國立
TRANSLATOR_玉田 誠
PUBLISHER_ハーパーBOOKS

張 國立

ちょう・こくりつ 輔仁大学日本語文学科卒業。『時報週刊』元編集長兼社長。数カ国語に通じ、歴史、軍事、各種兵器、スポーツ、美食文化、旅行、小説など幅広い分野に精通している。コミック『海龍改改 消えたサルタヒコノ目』(KADOKAWA)の原作小説“海龍 改改”をはじめこれまでに刊行した著作は60作近くにのぼる。時報文学賞、皇冠大衆小説賞など受賞歴多数。

玉田 誠

たまだ・まこと 神奈川県生まれ。青山学院大学法学部卒業。台湾において日本ミステリの紹介や台湾ミステリの評論を行っている。主な訳書に張國立『炒飯狙撃手』(ハーパーBOOKS)、王元『君のために鐘は鳴る』、陳浩基『網内人』(以上、文藝春秋)などがある。

 

Photography_TORU OSHIMA.
Text_TORU UKON(Righters).

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