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CULTURE
May 22, 2025
By THEM MAGAZINE

名画座へ行こう Vol.4 下高井戸シネマ

東京都杉並区に位置する下高井戸は、東急世田谷線の始発・終着駅があり、京王線も乗り入れる住み良い街だ。この活気ある駅のほど近く、線路沿いの白いタイル張りのマンションの2階に、ひっそりと佇む下高井戸シネマ。その歴史は古く、1950年代後半に木造平屋建ての東映の封切館「京王下高井戸東映」として産声を上げた。そして1980年代に名画座へと転向し、「下高井戸京王」に名称を変更。1985年のリニューアルで現在の建物となり、1988年に「下高井戸シネマ」と名称を改めた。1990年代後半に閉館危機を迎えたが、地元住民の尽力で再興。現在は都心大型館の終映作品を上映する二番館として、地域の人々と映画ファンに愛されながら、数々の作品を上映している。

 

 

地域に根ざす下高井戸シネマは、時間帯によって表情が変わる。

チケットは当日券・窓口販売のみ。朝1回目の作品上映20分前から開館、チケットを購入できる。全席自由席、各回入替制。
入ってすぐ目に入るのは、壁に貼られた上映予定作品のフライヤー。
手書きの劇場案内図。座席は126席。

マンションの階段を登って2階へ上がると、チケット窓口とガラス張りの引き戸が目に入る。住宅街の中、この土地に馴染むように存在する下高井戸シネマは和やかな雰囲気を醸し、中へ入ると「今後の上映予定作品」のフライヤーが張り出されている壁が登場する。館内でお客様に「お久しぶりです。この後の作品を鑑賞されるんですか?」とにこやかに声をかけるのは、館を運営する有限会社シネマ・アベニュー取締役の木下陽香さん。そんな木下さんに、上映作品のセレクト方法や上映中のおすすめ作品、二番館としての魅力について話を伺った。

 

ジャンルや年代を問わず多様な作品を上映する下高井戸シネマは、何らかの特色を持つ作品群をメインに上映する一般的な名画座とは異なり、幅広いニーズに対応しながら、できるだけ多くの人が楽しめるようバランスの取れた作品選びを重視している。「住宅街にあるので、お客様の層が本当に幅広いんです。そこが他の名画座さんとは違うところかもしれません」と木下さんは語る。

 

そして下高井戸シネマが上映する映画のカラーは、時間帯によって異なる。平日の日中は近隣に住む中高年が多く来場するが、夕方から夜にかけて増えるのは、仕事帰りの人やコアな映画ファン。「中高年の方に好まれる作品は日中に上映します。夕方以降に上映するのは、ちょっと尖った作品や実験映画など、コアな映画ファンの方にも喜んでいただけそうなものを選んでいます。監督特集などの企画上映は、社会情勢や賞の受賞、生誕などの周年から企画を考えて上映することが多いです」。

 

 

2025年5月のおすすめ上映作品

5・6月の上映スケジュール。各月発行で、すべてスタッフで役割分担して作成している。
上映スケジュールの中身。

上映作品は週ごとに変わり、2ヶ月ごとにラインナップが組まれる。この作品セレクトを一手に担っているのが、長年務めているベテランスタッフの山口さんだ。そんな山口さんに、下高井戸シネマで上映中のおすすめ作品を聞いた(2025年5月22日時点)。

 

 

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』 2025年6月25日(水)ブルーレイ+DVDセット、4K UHD+ブルーレイ セット発売発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング デジタル配信中(購入/レンタル) 発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン © 2025 Searchlight Pictures.

2025年2月にロードショー公開された作品の二番館上映で、5月24日〜5月30日(11:30〜13:55)、5月31日〜6月6日(17:55〜20:20)上映。若き日のボブ・ディランを描いた伝記映画。物語と音楽の展開が秀逸で、1960年代アメリカの雰囲気と、映画ならではの世界観を体験でき、ディランを知らない世代も楽しめる。豪華俳優陣の演技も素晴らしく、特にティモシー・シャラメの歌と役作りは特筆もの。音楽好きにはたまらない見どころ満載の作品だ。

 

 

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』 配給:トランスフォーマー Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した話題作。こちらも2025年2月にロードショー公開された作品の二番館上映で、5月31日〜6月6日(14:20〜16:00)に下高井戸シネマで上映する。パレスチナ人とイスラエル人の二人の若きジャーナリストの“命懸けの友情”を描きながら、過酷なパレスチナの現状を映し出す。ニュースでは知りえない現実を未来に残し、伝えるための記録映画だ。社会派作品好きはぜひ観てほしい。

 

 

編集部が選ぶ、気になる映画  『バッドランズ』

『バッドランズ』 キングレコード提供 コピアポア・フィルム配給 ©︎2025 WBEI

1950年代末、アメリカで11人を殺害した十代の連続殺人犯チャールズ・スタークウェザーとその恋人の事件を基に、テレンス・マリックが脚本・製作・監督したデビュー作『バッドランズ』(1973年)。少女の目を通して美しくも残酷な恋の逃避行が描かれる本作は、アメリカ中西部の失われた風景を記録したロードムービーとしても傑出しているという。少年少女が繰り返す無意味な殺生は“夢の中”のようで、ロマンティックさも持ち合わせている。ヒロインを演じるシシー・スペイセクの演技も必見!下高井戸シネマでは6月7日〜6月13日(20:25〜22:04)上映。

 

 

“ふらっと来て良い映画に出合える”⎯⎯名画座の魅力

現代の映画鑑賞スタイルについて、木下さんは「サブスクは、自分の鑑賞履歴に基づいてAIがおすすめ作品を提示してくれます。それはそれで便利なのですが、自発的に選ぶことのなかった作品との偶然の出合いは、やはり映画館ならではの醍醐味だと思うんです」と語る。

 

木下さんは下高井戸シネマに勤め始めたばかりの2019年、当時下高井戸シネマで上映していた『ハワーズ・エンド』(1992年、監督:ジェームズ・アイヴォリー)をスタッフに勧められて鑑賞し、その素晴らしさに驚いたという。「名作をひっそりと上映し、近隣客が静かに楽しんでいる様子を見て、“ふらっと来て良い映画に出合えること”の良さを感じました。私が体験した感動をお客様にも味わってほしいと思っています」。

 

事前に綿密な計画を立てなくても、「ちょっと時間が空いたから、何か面白い映画でも観てみようかな」と気軽に足を運んだ先に、思わぬ傑作との出会いが待っているかもしれない。“ふらっと来て良い映画に出合える”この場所で、感情を動かす作品を見つけてほしい。

 

 

 

【問い合わせ先】
下高井戸シネマ
TEL. 03-3328-1008

 

【映画館詳細】
住所:〒156-0043 東京都世田谷区松原3-27-26-2F
一般:1700円
大学・専門:1300円
シニア(60才以上):1100円
小・中・高:1000円
会員:900円
幼児(3才以上):800円
毎週火曜&毎月1日:1100円
12/1(映画の日):1000円
どちらか50才以上のペア:ふたりで2400円
障害者手帳をお持ちの方:1000円
InstagramまたはXのフォロー画面提示:100円引き(1100円以下の割引はなし)

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