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MOVIE
Nov 20, 2020
By THEM MAGAZINE

Go See a Movie : 映画館へ行こう!『ホモ・サピエンスの涙』

「無限について」と題された動く絵画

その唯一無二の映画表現で、多くのムービーファンを唸らしてきたスウェーデンの巨匠、ロイ・アンダーソン。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞獲得した前作『さよなら、人類』から5年の時を経て、最新作『ホモ・サピエンスの涙』が完成した。

本作品では、この世に絶望し信じるものを失った牧師や戦禍に見舞われた街を上空から眺めるカップル、これから愛に出会う青年、陽気な音楽にあわせて踊るティーンエイジャーなど、悲しみと喜びを繰り返す多様な人類の姿が、冷静沈着な視点ながらユーモアと希望を持って映し出される。

今作でも、ロイ・アンダーソン節はもちろん炸裂。カメラは常に定点に固定され、すべてワンシーンワンカットというストイックぶりだ。被写界深度が深く、情報量の多い広い画角でありながらカメラが動かないゆえに、観客は画面のあちこちで起こる役者たちの細かい挙動を能動的に観察しなくてはならない。またこのCG全盛期の時代に、ミニチュアの建物セットや背景画などを駆使し、全33カット中の32カットがスタジオ内にセットをつくりあげての撮影というのだから驚きだ。しかしだからこそ、どこか画家エドワード・ホッパーを思わせる侘しさや歪な空気感が漂っており、それは監督自身のプロダクション会社“Studio 24”によって支えられている。

 

綿密に構成された絵画のような構図に、シャガールやククルニクスイからの直接的引用もあり(元ネタとなる作品を知っているなら、劇中でほくそ笑むことになるだろう)、まるでロイ監督による美術展に迷い込んだようだ。シーン一つひとつを印象深く彩る、情緒豊かな人々の掛け合いもなんとも魅力的。ロイ・アンダーソンにしか成し得ない、圧巻のアート・フィルムに仕上がった。

 

ホモ・サピエンスの涙

2019年/スウェーデン=ドイツ=ノルウェー/76分
TERM 11月20日~
SCREEN ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
URL bitters.co.jp/homosapi

ROY ANDERSSON

ロイ・アンダーソン 1943年、スウェーデン・ヨーテボリ生まれ。スウェーデン・フィルム・インスティチュートで文学と映画の学位を取得し、69年に卒業。翌年、初の長編映画『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』がベルリン国際映画祭で4つの賞を受賞。81年、自身のプロダクション“Studio 24”をストックホルムに設立。前作『さよなら、人類』は、14年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞獲得。

 

(C)Studio 24

Edit_Ko Ueoka.

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