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Oct 24, 2022
By THEM MAGAZINE

名画座へ行こう vol.3 神保町シアター

“本の街”神保町にある日本映画に特化した名画座

 

130店もの書店が存在し、世界一の“本の街”と呼ばれる神田神保町。現在、多くの出版社、編集プロダクション、印刷所などが集まるこの街は、明治以降から戦前までは、映画館や劇場が多数存在する芝居小屋の街でもあった。戦後は、それらの施設が徐々に姿を消し、芝居小屋の街の活気は失われていった。そんな神保町に、かつてのような活気を取り戻したいという思いで2007年にオープンしたのが「神保町シアター」である。「神保町の街自体が盛り上がりに欠けていた時期に、賑わいを取り戻そうという意味合いもあり、人がたくさん集まる商業施設をつくろうということで、吉本興業が運営する劇場と、小学館が運営する映画館が同じビルに入り、オープンしました」と語るのは、現在「神保町シアター」で支配人を務める佐藤奈穂子さん。

2007年にオープンした「神保町シアタービル」。開館当時、ともに神保町に本社を構えていた小学館と吉本興業が街の賑わいを取り戻したいという思いで意気投合し設立。1階はチケットカウンターとロビー。地下に小学館が運営する「神保町シアター」、2階には吉本興業が運営する劇場が入っている。

特徴的な外観が目を引く「神保町シアタービル」。“遊び心のある建物から面白いものが生まれる”という思いを込めて建てられた半球体のビルは、「卵」が割れて新しいものが生まれてくる様子を表現している。

「卵」が割れて新しいものが生まれるというデザインは、外装のみならず、1階と地下の映画館を繋ぐ階段にも窺える。

神保町にちなんだプログラム作り

 

日本の旧作映画に特化したプログラムを上映する「神保町シアター」には、支配人の佐藤さんを含め、12名のスタッフと4名の映写技師が所属している。プログラム作りについて「普段からスタッフと、ざっくばらんに上映したい映画について話しています。また、『あの作品が観たい』というお客様の声も含めて最終的に私の方で、企画立案をしています。その後、小学館で月に一度行われる運営会議でプレゼンテーションを行い、最終的なプログラムが決定します」と佐藤さんは語った。小学館での運営会議で、企画が通らないことも時々あるそうだ。
映画館の特徴を決定するプログラム作りだが、「神保町シアター」では、どのようなこだわりを持って上映する作品を選んでいるのだろうか。「“本の街”神保町なので、原作物が好まれるという傾向があります。神保町に集まる方々は、映画館があるなしに関係なく、“本の街“神保町に集まってきているという意識がはっきりと強いので、そういうところに集まってくる方たちが喜んでくださるだろうというものを考えて、開館当初から現在に至るまで、原作物を中心に選ぶことを心がけています」と“本の街”にちなんだ作品選びをしていることを教えてくれた。
作品を選ぶ過程で、上映したいけれど、上映できない作品はあるのだろうかという問いには、具体的な作品名は挙げられないとしつつ「映画会社さんの都合で結構上映できない作品があったりはします。『神保町シアター』では、30代、40代の若い世代のお客様を呼ぶために、80年代、90年代の映画を結構掘り起こしているのですが、このころの作品には、製作委員会や映画会社が現在ではなくなってしまっていて、作品の版権や素材がどこにいってしまったかわからないことが結構あります。これを上映できたらきっと話題になるだろうなと思うことも多々あります」と佐藤さんは語った。

たくさんの書店や飲食店に囲まれている「神保町シアター」は、どのような客層だろうか。「シニアの方がメインです。レコード屋さんか古本屋さんを回ったついでに、うちに寄ってくださる方が多いですね」と佐藤さんはいう。「ただ、シニアの方が、コロナ以降はだいぶ減ってしまっているので、シニアではない世代の方にも来ていただかないと、どうにもならないということで、あの手この手で頑張っています」とも語る。「神保町シアター」では若い世代に情報を届けるためにTwitterに絞って告知を行っている。

神保町といえば芦川いづみ

 

日本の旧作映画に特化した数少ない名画座の「神保町シアター」。過去に最も動員数が多かった特集について、佐藤さんに伺うと「この15年間で最も動員した特集は、『小津安二郎監督の生誕110周年特集』(※1)を6週間にわたって上映したときです」と小津安二郎監督の生誕110周年没後50周年にあたる2013年の特集上映を挙げた。また、一番反響が大きかった特集について伺うと「芦川いづみ特集」(※2)を挙げ、「芦川いづみさんの特集の際には、ファンレターがうちの劇場に届くこともありました。(笑)とにかく、熱気がすごかったです。結果的に2年間で3回の特集を組ませていただき、『神保町といえば、芦川いづみ』と言っていただくぐらいに反響がありました」と語った。

「神保町シアター」は、旧作映画を上映するため、俳優や監督が登壇してのトークショーを実施できないことが多く、イベントはあまり開催していない。現在は、淡々と作品を上映するスタイルをとっているが、支配人の佐藤さんには個人的に思い入れのあるイベントがあるという。「鈴木清順監督(※3)が亡くなる前にやらせていただいたイベントが思い出深いです。トークショーにお呼びするには、体調がよろしくない状態だったのですが、出演者によるイベント当日に、急遽今日は体調が良いからということで、ご本人にも来ていただきました。お客様の前でお話していただくことはできなかったのですが、お顔だけは見ていただくことができました」と語った。また、近年、力を入れているイベントとして、サイレント映画にピアノの生伴奏をつけて上映する「サイレント映画特集」について語った。「1つの作品を必ず2名以上のピアニストの方に弾いていただきます。ピアニストの方とその作品の相性などもあり、同じ作品でも印象が全然違います。その違いなどを発見するのも面白いです」。「サイレント映画特集」は好評で、コロナ前までは年に2回ほど開催していたそうだ。「2020年以降は、まだ開催できていないので、そろそろやりたいです」と佐藤さんは語った。

現在上映中のプログラム「大映の女優たち」
来月から始まる「辛口喜劇のススメ」
来月から始まる「辛口喜劇のススメ」

開館以来「神保町シアター」のチラシは、2色刷りで作成している。4色使用するよりも2色のみを使用した方が、昔ながらの雰囲気が出せるという。「チラシに使用する映画のスチールが白黒のことが多いので、白黒を活かすという意味でも2色で作成を始めました。また、他の劇場のチラシと違って、神保町っぽいと言われることが多くなり、そこを強みとして2色でやり続けています」。「神保町シアター」はそのチラシを近隣の書店など100軒以上に配布している。「街や書店でポスターやチラシを見て来館していただくこともあるので、本当に街のお店の方にも感謝もしております。この街に根付いているなっていう感じで、嬉しく思っています」と佐藤さんは語る。また、希望するお客さんのもとにもチラシを送っている。現在では、その数1200通以上にもなっている。

鑑賞料金は、15年間で1回だけ値上げを行い、現在は一般が1300円、学生が900円と良心的な価格設定。そして、5回観ると1回無料で鑑賞できるポイントカードも発行している。街の活性化、映画界の活性化のための重要な場所となっている「神保町シアター」。佐藤さんは、「35ミリのフィルムは、2、3年前は上映できたのに、もう今年は上映できないというぐらいに、どんどん劣化し、上映できないプリントが続々と増えています。有名な監督の作品でも、実はもう観られなくなっている作品もたくさんある状況です。フィルムがなくなる前に、1人でも多くの人に、フィルム映画を体験していただきたいと思っています」と語った。

街の活性化のため、日本映画の継承のため、1人でも多くの人に映画館で映画を観てほしいという思いで「神保町シアター」は今日も映画を上映している。本を探しに、そして昔の映画を観に、さあ神保町へ!

(※1)小津安二郎
1903年〜1963年。日本を代表する映画監督、脚本家。『お茶漬けの味』(1952)『東京物語』(1953)『秋刀魚の味』(1962)など多くの名画を世に送り出した。没後60年経っても、ヴィム・ヴェンダースなど、世界中の映画人から熱いリスペクトを受ける。

 

(※2)芦川いづみ
1935年生まれ。
松竹歌劇団から日活へ入社。日活黄金期を代表する女優として知られる。主な作品に『幕末太陽傳』(1957)『硝子のジョニー 野獣のように見えて』(1962)など。

 

(※3)鈴木清順
1923年〜2017年。日本の映画監督、俳優。『けんかえれじい』(1966)『関東無宿(1963)『東京流れ者』(1966)など、日活では「活劇の清順」と人気を博す。そのほかに『ツィゴイネルワイゼン』(1980)『陽炎座』(1981)『夢二』(1991)の三部作などを監督した。独特の映像表現は日本の映画界のみならず、世界の映画監督やアーティストに衝撃を与えた。

 

【問い合わせ先】
神保町シアター
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-23
TEL.03-5281-5132

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