Mar 24, 2021
By THEM MAGAZINE
KOICHIRO IWAMOTO | Self Harm
未来にそびえ立つ過去の記憶
「創造は自分の内側からやってくる」と誰が言ったか。アーティストにはいつか、自分自身と真摯に向きあわなくてはいけないときが来る。簡単に移ろいゆく世や人の心を他所に、真にピュアだと信じられるのは、イメージや言葉にすらなっていないような、自分の心の底にある朧げな感覚だけかもしれない。それを具体のアウトプットに昇華するために、深層心理へとダイブする。ではその手がかりとは?
青春時代を山小屋で過ごした写真家・岩本幸一郎は、記憶に残る当時の風景にそれを求めた。人格は、体験してきた過去からつくられるゆえに、過去に目を向けることは自身を掘り下げることである。過去と再会し、何を思ったのか。岩本は、改めて撮り下ろしたネガフィルムのシートに直接傷をつけた。それは当時の心情を具体化させるため。過去への現在形の自傷によって、彼の背負った過去は浄化され、救いへと変わるのだろうか。写真に刻まれた生傷は痛々しく映るかもしれないが、きっとそれはネガティブなものではない。岩本と同郷のミュージシャン、小山田壮平がこうツイートしていた。“昔の曲を、あの頃のままの気持ちで歌えるわけない でも君が望んでくれるなら、それはもう、高らかに歌うよ。”と。
本展会場の音楽はnaomi paris tokyo が担当し、写真に合わせて制作した新作音源が披露される。作品を観賞後、目をつむり音楽に耳を傾ければ、自分の過去も蘇ってくることだろう。それが苦々しい思い出だとしても、向き合うことには意味がある。
TERM 3月25日~4月7日
PLACE AL
ADDRESS 東京都渋谷区恵比寿南3-7-17
OPENING HOURS 12:00-19:00
URL al-tokyo.jp
いわもとこういちろう 1992 年、福岡県生まれ。2015 年から「平間写真館TOKYO」 でインターンをしたのち、文化出版局写真部を経て18 年に独立。20 年よりKiKi inc.に所属。ポートレイトやファッションを中心に活躍。代表作に、19 年発表の『isolation』や、19 年に森山未來らと手がけたインスタレーション&パフォーマンス『VERTIGO』など。
Text_KO UEOKA(Righters).
Photo ©KOICHIRO IWAMOTO