Feb 24, 2026
By THEM MAGAZINE
手法主義で描く「ある男」という災い。監督集団「5月」と『災 劇場版』
人の形をした災い
優しさや愛情は人の形をしている。人は人によって優しさを、愛情を感じ、ときに怒りや悲しみを抱く。しかし、災いはどうだ。災いには理由も、形もない。ただ突然降り掛かってくる。もしそれが、人の形をしていたら⎯⎯ 。
そんな恐怖を“新たな手法”で描いた、香川照之主演『災 劇場版』が、2月20日(金)から全国で劇場公開中だ。監督は、昨今の映画シーンで注目を集める監督集団「5月」の関友太郎と平瀬謙太朗。ふたりが監督・脚本・編集を手がけた。本作は「誰も味わったことがない新しい恐怖を作る」という目標のもと制作され、WOWOWの「連続ドラマW」枠で放送されていた全6話のテレビドラマ『災』が劇場版として再編集されたものだ。
本作は時間と舞台が異なる群像劇で、職業や住む場所、年齢や性別が違う主人公が登場する。主人公たちの周辺には「ある男」が現れ、登場人物が次々と悲劇に見舞われる……というストーリーだ。
制作時、決まっていたのは3つの条件だけだった。「同じ男が出てくる」「現れると人が災いに巻き込まれる」「決定的瞬間は見せない」。観客はその男が何者なのか確定できないまま、登場するたびに不安を感じるようになる。
男ははじめから「災いの象徴」として位置付けられていたのではない。脚本を進める中で、「もしかしたら、この男は“災い”という現象の象徴なんじゃないか」という会話から生まれた。さらに同じ条件を反復できるように物語の型を用意し、オムニバス型式の「構造」を立て、ストーリーを肉付けし、完成したのがこの『災』だ。
劇場版とドラマ版はストーリーは同じであるものの、“構造”が大きく違う。劇場版は、連続ドラマの脚本執筆の終盤で、別の形にできそうだとふたりで話し合ったときに出てきたもの。複数の舞台を並行して進む群像劇の形にし、6つの舞台の主人公たちは場所も時間も繋がらないが、どの舞台にも共通して「ある男」が現れる、というアイデアから劇場版を再構成したのだ。
「5月」が行うのは、物語を説明するよりも先に「見せ方の規則を作る」こと。この作り方は、2012年の活動開始に遡る。
彼らは2012年、東京藝術大学大学院映像研究科・佐藤雅彦研究室で生まれた、カンヌを目指す映画制作プロジェクト「c-project」を前身とする。最初の作品『八芳園』(2014年)で早速目標を達成し、黒木華主演『どちらを』(2018年)でカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門に2度の正式招待を果たした。その後長編制作を見据え、佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太朗の3名で2020年に「5月」を設立。香川照之主演『宮松と山下』(2022年)で長編デビューした。
「脳みそが二つある」
彼らの特徴は、彼らが標榜する「テーマが手法を担う」という考えの通り、「物語やテーマよりも先に、手法を作る」という制作スタイル。「作り方が新しければ、出来上がるものも新しい」という考えのもと、手法とその見せ方を起点に作品が構築されている。
関はアイデアを「器のようなもの」と表現する。物語を先に用意し、それに合う演出を当てるのではなく、先に器(見せ方)を決め、その器に最も適した設定や物語を注ぎ入れる。この順序の逆転によって、新たな作品が生み出されているのだ。
複数人で監督・脚本・編集まで担うことには、全員が納得できるまで次に進めることができないため、「時間がかかる」という明確なデメリットがある。しかしその分、精度は高くなるという見方もある。
メリットについて聞くと、「最終決定権を持つ人間が複数いることで、同じ立場で意見をぶつけ合い、検証できる」と平瀬。その状態を彼らは「脳みそが二つある」と表現する。「アイデアは、頭の中にあるだけでは良し悪しがわからない。口に出して、相手の反応を見て初めて判断できる」と関は語った。
ふたりは今作のように時間や順序を操作する映像手法への関心は一貫しており、今後は「時間の概念そのものをさらに崩す」ことにも取り組みたいと語った。
『災 劇場版』で描かれる“新しい恐怖”
使用されている映像のほとんどはドラマ撮影時の素材で、新規撮影は1シーンのみ。サン・セバスティアン国際映画祭で上映された際、その画の強さと美しさに自分たちでも驚いたという。関はヨルゴス・ランティモスの影響を挙げ、本作では『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017年)の不穏なトーンを意識したと語る。
最後に見どころについて聞くと、関は「複雑な構造が一点に収束する瞬間に、恐怖とは別の知的な面白さが立ち上がってくる」と話す。平瀬は「遺体の美しさにこだわって撮影した。その美しさにも注目してほしい」と続けた。構造と画。ふたりの答えは、作品のどこが怖いのかではなく、どう見せようとしているのかに寄っていた。
『災 劇場版』が示す恐怖は、驚かせるためのものではない。観客は理由がわからない恐怖を受け入れるしかないのだ。香川照之が全く異なる6役を演じ分けることで同じ人物として捉えられなくなり、観客は男が何者かを掴めないまま、登場を待つことになる。
鑑賞後に残るのは解釈ではなく、確認に近い。「今自分が無事でいるのは、たまたま、災いが起きていないだけだ」。その不安定さを、劇場という環境で確かめてほしい。
2026/日本/カラー/DCP/5.1ch/128分/PG12
FILMDISTRIBUTION ビターズ・エンド
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