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CULTURE
Jul 02, 2025
By THEM MAGAZINE

エレクトリックな夢を見ようぜ ⎯ 「吊り橋ピュン」の店主さとるの世界(前編)

スタイリストの視点で選ばれたグッド・ヴィンテージストア

 

2025年6月24日発売の『Them magazine』8月号はスタイリスト特集。特集内のAtoZ企画では、スタイリストにまつわる26のトピックスを紹介している。その中で、「V」は「VINTAGE SHOP」をテーマとし、数人のスタイリストたちが推薦する店を取り上げた。

 

その中でも異彩を放つのが「吊り橋ピュン」。名前も品揃えも独特だ。「もっと知りたい」。そう思いすぐ取材に向かった。

 

 

野方駅を下車、野方文化マーケットへ

野方文化マーケットの入り口の1つ。テイクアウト、イートイン可能なインドカレー店とテイクアウト専門のインドカレー店に挟まれている。
マーケット入り口に置かれた「吊り橋ピュン」の看板トルソー。被せられたマスクは定期的に変わるようで、現在のバージョンは地元の小学生が小突いたり写真を撮ったりして遊んでいるようだ。

西武新宿線、野方駅南口を出て2分ほど歩くと、右手に「野方文化マーケット」のアーケードが登場。入り口には、「吊り橋ピュン OPEN」と書かれたTシャツを着たトルソーが置かれている。すべてが気になる。そう思いながら野方文化マーケットの中へ足を踏み入れた。

 

通路は直線ではなく「U字型」。左右には、どこか懐かしさを覚えるような店舗がひしめき合っている。「吊り橋ピュン」はその突き当たりにある。

 

 

「吊り橋効果ってあるよね」 “吊り橋”ピュン、店名の由来

吊り橋ピュンの店前。既に大量のTシャツが並べられている。他に、草彅琢仁による漫画作品『上海丐人賊』や『ときめきメモリアル forever with you』のポスター、松浦亜弥の『桃色片想い』の告知ポスターも置かれていた。
入り口の上、右側のオレンジの看板は、店主とその友人による合作。上部には「盛況御礼」と書かれている。

店主は千葉県出身のさとるさん。この不思議な店名は「由来はなく、響きで決めた」という。しかし、エピソードはあるようだ。

 

「友人らと3人でタイを歩いていたら、車に轢かれそうになったんです。でも“伊藤さん”が助けてくれて。『好きになっちゃう』と言っていたら、『吊り橋効果ってあるよね』という話になりました。その流れで『吊り橋三兄弟を作ろう』となり、長女・吊り橋イクヨ、長男・吊り橋ワタル、次男・吊り橋ピュンの三兄弟が生まれまして。私は吊り橋ワタルだったんですけど、お店の名前を決めるとき、“吊り橋ピュン”の響きが良いなとずっと頭に残っていたので、店名にしました」

 

“伊藤さん”というのは野方文化マーケットからそう遠くない、中野ブロードウェイの地下1階にある「中野ロープウェイ」の店主だ。数年前からさとるさんと親交があり、買い付けにもよく同行している。そして、さとるさんが古着店を開業するきっかけとなった人物だ。さとるさんが古着店を始めたきっかけは何だったのか。

 

 

アイドルにハマって人生が狂った

以前看板に使っていたマスク。さとるさんによると「定期的に変えているんですが、これは怖すぎたので変えました」。
店内の雑貨コーナーには、パチモノのキャラクターフィギュアやストラップにワッペン、昭和から平成初期に活躍したアイドルやタレントのカードやステッカーなどが雑多にまとめられている。
ラック、壁、天井、ソファにまで、大量に置かれたTシャツ。

さとるさんは、アニメやゲーム、ロックが好きで、自身でも絵を描くなど、サブカルチャーに囲まれて育ってきた。特に2006年に活動休止してしまったバンド、ザ・マッド・カプセル・マーケッツが好きで、ずっと聴き続けているという。

 

彼の人生が変わるきっかけは2014年。ザ・マッド・カプセル・マーケッツのメンバーでありソロプロジェクトのAA=としても活動している上田剛士が、アイドルグループBiSがその年の1月22日にリリースした楽曲『STUPiG』をプロデュースしていると知った。迷わずCDを買ったところ、ライブに行ける特典券が封入されていたそうだ。「試しに行ってみるか」と思いライブに行った結果、見事にハマり、彼の“オタ活”がスタート。しかし、BiSはその年に解散してしまった。

 

その後はBELLRING少女ハートにハマったものの、当時、火曜定休の実家の食堂を手伝っていた彼は、土日に開催されるライブに参加することが難しく、蟠っていった。そこで、実家の食堂を畳み、土日休みの会社に転職することを決意。そこからはライブへの“参戦”など、オタ活に励んだ。

 

アイドルを推していると知り合いも増えるそうで、中野ロープウェイの伊藤さんもそのひとりだ。推しの変遷もある彼は、「一度に愛せるのはひとりだけ」と語る。SAKA -SAMAの水野たまごさんを推していたときは、その愛と感謝を伝えるために、Egg master さとるん with 好き好きアピールズというバンドを組んだこともあるそうだ。

さとるさんがハマった、BELLRING少女ハートのポスター。天井に貼られている。
サブカルチャーに囲まれて育ったさとるさんが、実家から持ってきたという漫画や写真集。自由に読んでよいとのことで、店内の本棚にぎっしりと置かれている。さとるさん曰く「『なるたる』(鬼頭莫宏)はバイブル」。
『ザ・ワールド・イズ・マイン』(新井英樹)もお気に入りだそう。一番好きな映画を聞くと、『太陽を盗んだ男』(1979年、長谷川和彦監督)だと教えてくれた。
おニャン子クラブに所属していた高井麻巳子と岩井由紀子のアイドルユニット、うしろゆびさされ組の写真集。「ゆうゆが可愛い。この写真集は最初と最後のギャップが楽しめるのでおすすめです」(さとるさん)

伊藤さんと話す中で「好きなことをやった方がいい」と背中を押され、古着店に舵を切ったさとるさん。タイでの買い付けなどに同行し、2020年4月に「吊り橋ピュン」を開店。だんだんと品揃えを増やし、今の形になっていったという。

 

大量の雑貨とTシャツがひしめき合う店内。Tシャツはタレントやアイドル、バンド、アニメ、ゲーム、犬・猫などのグラフィティ、吊り橋ピュンオリジナルのものなど、約1000枚が揃う。「どれもお気に入りです」と話すさとるさんに、何枚かピックアップして紹介してもらった。

 

後編に続く。

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