Oct 20, 2025
By NONOKA FUJIWARA
「日本の素材を残し続けるために」⎯⎯ 尾州発《コルニエ》の服づくりと目指す世界
かつては日本のファッションを底辺でしっかりと支えてきたのだが、「時代の流れ」という無責任な理由で静かに消えていった素晴らしい生地たちが、無数にある。中には「日本の職人がたったひとりで作っていた」というものも多かった。世界で通用するレベルのものでありながら、日本の生地生産を取り巻く現実は今、さらに厳しい。
そんな現実を直視し、打破しようとするブランドがある。西村林太郎によるファッションブランド《コルニエ》だ。ブランドにあるのは「世界で戦える素材や技術を次の世代に残していきたい」という想い。代々木上原駅から徒歩5分ほど、東京ジャーミイの向かいにある終了日未定のポップアップストアを訪れ、西村の想いの核について聞いた。
「綺麗なストーリーだけでは絶対に誰も救えない」
西村は学生時代に独学で服作りを学び、ギャラリーを借りて販売を行った。大学卒業後は繊維商社やテキスタイルメーカーで経験を積んだ。その中で彼は、生地屋や職人を取り巻く現実を知る。
「日本には世界でもトップクラスの素材がたくさん作られているが、そこに従事している人たちの生活は厳しく、後継者も雇えず、設備も更新していけない」
生地を作る現場で若手とされる年齢は、60代から70代だ。良いものを作っても、海外で使用されるときに値段交渉をされ、トップブランドに行くまでに何社も間に入り、その結果、一番下流にいる職人や生地屋が割を食う。儲けが少なければ、後継者を雇えずに廃れていく。
「もったいないことだと思うんです。トップクラスのものを作る素地があるのに、それを維持できない」。この状況のまま、誰かが何かをしなければ、レベルの高い日本の素材は絶対に消えていく。「それに、工程が属人化されすぎて、『この人がいなくなったら生地や技術が終わってしまう』という現状が日本中にあるんです。廃れゆく生地屋さんをなんとかするために、誰かが手入れをしていかないといけない」
ファッションの世界で、表舞台に出るのは華やかな面ばかり。生地屋や職人を取り巻く現実は、日の目を見ることはない。「その人たちと面白いものや唯一のものを作る、みたいな、綺麗なストーリーだけでは絶対に誰も救えない」。西村は何ができるかを考えたときに、「ラグジュアリー向けの上質で高級な素材を大量に作る」ことを思いつく。そして、「より多くの消費者に最高級の素材をより気軽に楽しんでほしい」と考え、その両立が実現可能なブランドとして、《コルニエ》を2022年春夏シーズンにスタートさせた。
生産者から消費者まで、「すべての人が幸せでいる世界」を目指す
《コルニエ》は「上質」「本物」「透明性」「思いやり」を重要な価値観として掲げている。多くのアパレルブランドの原価率が約2〜3割の中で、彼らが手がけるアイテムの原価率は約5〜6割。ハイブランドでも使われるトップレベルの素材を作る生産者に適正な対価を支払うため、素材の価格交渉は一切行なっていない。仲介を挟まず直接取引で中間コストを生産者に戻し、原価率を引き上げつつも、手に取りやすい価格で長く着れるアイテムを提案することで、生産者からアイテムを着る人まで、「すべての人が幸せでいる世界」を目指している。
ブランドの拠点は、世界三大毛織物産地のひとつである尾州、愛知県一宮市。「僕らは常に本物を作っていかないといけないし、そのためには産地にいることが大事です。産地にいればすべてがスピーディーにできるし、みんながいちばん良いものを知っている。共通の感覚はものづくりをする上ですごく重要なんです」
「採用する素材や原料は、織や規格設計のすべてにおいて、世界トップクラスのものじゃないといけない。お客様も良いものを知っている方がすごく多いので、小手先のテクニックは絶対に通用しない。長く愛し続けてもらうためにものづくりを行いたい。そうすれば、工場も職人もお客様も僕らも、みんなが幸せになれる」
日本の一大産業だった紡績業。アパレルの衰退や工場の海外移転とともに、数多くあった紡績工場や織物工場は閉鎖されていき、跡地には大型ショッピングモールが立ち並ぶ。20代やそれ以下の世代の多くは、先人たちが紡いできたものを知らない。知られなければ、ただの歴史の一行にもならない。西村は現実を直視し、ただ真摯に素材に向き合い続ける。「メイド・イン・ジャパン」の生地が、世界のトップクラスであることを願って。
住所:東京都渋谷区大山町36-6 TERRANOVA House
営業時間:13:00〜20:00(月〜金)12:00〜20:00(土日祝)
※この店舗は期限未定のポップアップストアです。
にしむらりんたろう 岡山県倉敷市出身。ベルリンのファッションシーンに影響を受け、独学で服作りを学ぶ。繊維商社やテキスタイルメーカーを経て、2022年に《コルニエ》を立ち上げた。2カ月に1度は海外へ足を運び、原料の産地を視察。