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CULTURE
Sep 06, 2022
By THEM MAGAZINE

名画座へ行こう vol.1 早稲田松竹

70年以上の歴史を誇る高田馬場の名画座

 

サブスクの台頭で、どこでも手軽に映画を楽しめるようになった。しかし、本来ならスクリーンで観ることを想定してつくられた映画をテレビやスマホの画面だけで楽しむのは少々味気ない。今こそ映画館に行ってみよう。そこにはきっと「何か特別なもの」があるはずだし、新たな感動に触れられるかもしれない。都内にはたくさんの名画座がある。そこでは今日も「名画」が上映されている。今この瞬間にも映画に関わる多くの人々が「名画」を守り、継承しようと日々努力している。

東京は新宿区、高田馬場。飲食店が林立する早稲田通りを歩いていくと「豪華ラインアップ」というやや擦れ文字の掲示板が視界の先に現れる。そのまま進むと右手には、約70年前の外観を受け継ぐ老舗の名画座「早稲田松竹」が全貌を現す。

「早稲田松竹」は、1951年に松竹系列の封切館として開館。1975年以降に現在のような名画座形式をもって2本立て上映をしている。スタッフの退職により2002年3月31日に一時休館。その後、新たなスタッフを再編成し、2002年12月から営業を再開した。休館の際には、早稲田大学の学生らによる署名運動などが展開され、再開を望む声が多く寄せられた。そんな学生にも愛される老舗の名画座は現在、アルバイトを含め13名のスタッフによって運営されている。

「外観に関しましては、基本的な建物の構造は70年前と一緒です」そう話すのは、「早稲田松竹」で支配人を務める平野大介さん。劇場ロビーに貼られた開館70周年を記念するポスターには、開館当時の「早稲田松竹」の姿が収められている。外装の壁の塗装などは変わっているが、確かに開館当時の面影を留めている。「中は当時とはガラッと変わっております。内装ですと、153席の客席があります。この広さの割には客席が少ないと思いますが、客席の間を広げることで、足も窮屈にならずに結構ゆったりご覧いただけるようになっています」。間隔にゆとりのある作りが名画座ならではの「こだわり」といえる。休憩時間があるとはいえ、合計4時間以上、座席に座ることもある2本立ての名画座には、この快適さが映画を鑑賞する上で重要になってくる。

35mmの映写機とデジタルの映写機が並ぶ映写室

「設備に関しては、最新とまでは申しませんが、デジタル設備も入っていますし、35mm映写機も残っていますので、デジタルでもフィルムでも上映が可能です」と支配人は言う。35mm映写機しかなかった時代には、アルバイトのスタッフ全員にフィルムの映写機の扱い方を教えていた。現在では、5名のスタッフのみが35mm映写機を扱う。デジタルの映写機に関しては、半自動の作業になりフィルムよりも簡単に扱うことができるため、作業量は減る。映写技師が減りつつある現状に、「映写機を扱うことができる現在のスタッフが退職した場合は、フィルム上映ができなくなってしまうという心配があります。それと同時に、映写機自体も製造が中止されているので、今使っているものと、メーカーにある中古のパーツがなくなってしまうと、直せなくなってしまいます。そうなったときが潮時になる可能性があります」と映写技師の問題のみならず、いずれは機械そのものが確保できなくなることが懸念される。フィルムをデジタルに変換する作業もコストと時間がかかる。その中でデジタル化されず失われていく映画も当然増えてくるのが昨今の映画界における深刻な問題といえる。

 

テクノロジーの発展と共にレーザーディスク、VHS、DVDが台頭し、その都度、映画産業には変革がもたらされてきた。映画を観られるメディアが増えることで、名画座の観客動員数にどれほどの影響が出るだろうか。「ちょうどコロナのタイミングでサブスクなんかも増えてきたと思います。ですから、コロナによるものなのか、それともサブスクなどの台頭によるものなのか、どちらの影響かというのは、正直今の段階ではわかっていませんが、新しいお客様、初めてご利用いただく方も少なくはないと思います。ただ顧客の方というのはコロナ以降もサブスクの台頭以降も、毎週のようにお越しいただいています。これから影響が出てくるか、まだわかりません」。70年以上の歴史を誇る「早稲田松竹」だが、客層に関しては、今も昔も大きく変わらない。「基本的には、シニア層の方というのは、ほぼ毎週変わらないぐらいのペースでお越しいただいております。あとは作品によって、学生さんが増えたり、あるいは20代、30代の方が増えたりします。毎週番組も変わるので、そのあたりの変動はあります」。VHSやDVDが台頭しても、映画好きは足繁く名画座に通ってきた。

 

上映作品を毎週変えるところに、その「名画座」の特色があると言っても過言ではない。それほど名画座にとって番組選定は生命線だ。「早稲田松竹」は、「番組選定に強いこだわりがない、というのがこだわりですね。(笑)基本的になんでもという感じです。1カ月、例えば5週間でしたら(土曜日から金曜日までを区切りに、ひと月に5つの番組)アジア、欧米、ヨーロッパ、新旧問わず、もうバラバラで5週揃えられるのが我々の理想といえます。ひと月のうちで、一つぐらいは気になってもらえる番組があって、お越しいただければという考えでやってはおりますね。また、例えば4月、5月あたり、早稲田大学が近いので、新入生の学生さんが上京するタイミングで、クラシックなもの、タイトルは知っているけれど観たことがない作品などをあえて上映しています。その際は、早稲田大学の学生のみならず、都内近郊の学生さんまでも反応してくださる印象でした」。

過去に最も動員数が多かった作品について尋ねてみた。「昔に比べて客席数を減らしたため、端的に比較することはできないのですが、近年で毎回満席が続いたようなものですと、アニメの監督の今敏さん(※1)が亡くなられた時の追悼の上映。亡くなられて10年経たれた時に、上映した時は、両方全回満席でした。そのほかには特別上映の『ゴッドファーザー』(※2)を3本一挙に上映した時です。その時は、3本で9時間以上の番組なので朝一回お客様を入れたらそれっきりになってしまうんですけど、それが連日満席になりまして、劇場の前ズラーっと、制御できないぐらいになってしまいまして、お入りいただけないようなお客様もたくさんいらしたのが印象的でしたね」。また、不定期に行っているトークショーやイベントなどに関しても印象に残っているものが多いそうだ。「小栗康平監督(※3)をお招きしたときは、お客様もいろんな年齢層、男女も問わず、たくさんの方にお越し頂き、トークショーも盛り上がりました。あとは、若松孝二監督(※4)にもお越しいただいて、とにかく場内を盛り上げていただきました。上映が終わってからもご自身でここ(ロビー)に立たれて、パンフレットを販売されて、サインしていただいて、上映中も毎日のようにこちらに電話いただいて、『どうだ?入ってるか?』って。映画館のことを本当によく考えてくださっている監督で、非常に印象的な上映イベントでした」と振り返った。

 

「サブスクなどが一般的になっているなかで、わざわざ、電車に乗って、映画館まで時間を作って来ていただいている。これは大変なことだと思うので、なんとか、なんとか頑張って営業を続けて参ります」と支配人の平野さんは語った。

「早稲田松竹」では、ホームページのビジュアル面なども担当している男性スタッフが映画の中の印象的なイメージをもとに、オリジナルのフライヤーを作成している。また、会員に向けて毎週配信されるメールマガジンでは、上映作品やイベント情報に加えて、スタッフ全員が交代で書くスタッフコラム(ウェブサイトでも閲覧可能)も掲載される。映画から食レポに至るまで各々のテーマに沿ったコラムを展開している。ロビーには上映作品のフライヤーが置かれているほか「早稲田松竹」のオリジナルTシャツとトートバッグも販売されている。

 

最後に平野さんにお気に入りの映画を伺ったところ、「一番映画館で回数を観たなというのは、『STOP MAKING SENSE』(※5)ですね」と回答いただいた。

 

「早稲田松竹」は1週間ごとにジャンルを問わず番組が入れ替わる。時間が空いた時にふらりと寄ってみたら、思わぬ佳作に出会えるかもしれない。そんな偶然の幸せを実感できる数少ない場所だ。新旧問わず様々な映画を届けている「早稲田松竹」に是非足を運んでいただきたい。

9月の上映作品

【問い合わせ先】

早稲田松竹映画劇場

TEL. 03-3200-8968

 

【映画館詳細】
住所:〒169-0075 新宿区高田馬場1-5-16
一般:1300円
学生:1100円
シニア・小学生(60歳以上および小学生):900円
特別レイトショー/モーニングショー:1000円
ラスト一本割引:800円
映画サービスでー:800円
障害者割引:900円
夫婦50割引:2000円
高校生友情プライス:800円

 

※1今敏(こんさとし)
北海道出身。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。大学在学中の1984年に『虜-とりこ-』で第10回ちばてつや賞優秀新人賞を受賞。翌1985年に『カーヴ』で漫画家としてデビュー。1997年に劇場用アニメ『PERFECT BLUE』で監督デビュー。オリジナルアニメーション『千年女優』(2001)、『東京ゴッドファーザー』(2003)を手掛けた。筒井康隆原作の『パプリカ』(2006)は、ベネチア国際映画祭で上映され、国内外での高井評価を得た。2010年8月24日、すい臓がんのため46歳で逝去。

 

※2『ゴッドファーザー』
フランシス・フォード・コッポラ監督によるマフィア映画の金字塔。『ゴッドファーザー』(1972)、『ゴッドファーザー PartⅡ』(1974)、『ゴッドファーザー PartⅢ』(1990)の三部作。

 

※3小栗康平(おぐりこうへい)
群馬県出身。早稲田大学第二文学部卒業後、ピンク映画の世界に入る。その後、フリーの助監督として、大林宣彦、篠田正浩らの助監督を務めた。1981年に『泥の河』でキネマ旬報ベスト・テン第1位に選出され、第5回日本アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞した。

 

※4若松孝二(わかまつこうじ)
宮城県出身。農業高校を中退して上京。TVドラマの助監督を経て、ピンク映画「甘い罠」で映画監督デビュー。若松プロダクションを設立。新宿を中心に反体制的な主張を込めた作品を数多く残した。『壁の中の秘事』(1965)がベルリン国際映画祭に出品され、議論を巻き起こす。大島渚監督作『愛のコリーダ』(1976)では制作を務めた。2012年10月12日に東京都内で交通事故に遭い、10月17日に逝去。2013年公開予定だった『千年の愉楽』が遺作となった。

 

※5『STOP MAKING SENSE』
1985年8月3日公開。ジョナサン・デミ監督・脚本のトーキングヘッズのドキュメンタリー映画。デヴィット・バーンの哲学的な詩、パフォーマンスは、多くのクリエイターに影響を与えている。ファッション業界においても、彼の洗練されたスーツの着こなしやヘアスタイルはアイコン的な存在であり、中でもかのデカスーツが世に与えた衝撃は計り知れない。

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