Them magazine

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MUSIC
Oct 09, 2020
By TORU UKON (Editor in Chief)

ないものねだりの子守唄 Vol.04 古井戸『ステーションホテル』

今はどうしても手に入れられないモノを嘆き愚痴り、過ぎさりし昔を美化しては懐かしむおっさんブログ、第4段は1970年代のフォーク歌手のシングル盤。

昨今はYouTubeやApple Musicなどのおかげで、昔の曲でもほとんどが一瞬で耳にすることができる。そんな世の中だから、どうしてもオリジナルが聴けない曲があると、もう意地になって検索しまくり、1時間ほど手を尽くしたのちに、「なんらかの理由でアップされてない」ことをやっと認め、徒労に終わる。ひょっとしたら、検索の掛け方でヒットするかもしれない。もし、そんな方法があったら教えてほしい。それが、1975年10月1日にリリースされた古井戸の「ステーションホテル」。

古井戸はRCサクセションで忌野清志郎の片腕だった(その後もマブダチ)仲井戸麗一(チャボ)と、北海道が産んだ孤高のヴォーカリスト、加奈崎芳太郎のフォーク・デュオ。1971年エレック・レコードからデビュー。翌年リリースした「さなえちゃん」が僕が初めて聞いた古井戸だった。デビューシングルだったこの曲はコミカルタッチでそこそこ売れた。半年後に出したセカンドシングルのB面が彼らの最大のヒット曲で名曲の「ポスターカラー」。チャボの超写実的な詩に加え、加奈崎の圧倒的な声量にも心を鷲掴みにされてしまう。

僕は上京した1977年のゴールデンウィークに日比谷野外音楽堂で開催された「唄の市」というライブで、古井戸を生で観た。そのライブには泉谷しげるやなぎら健壱、佐藤公彦、そしてRCサクセションも登場し、1組3曲くらい歌ったと思う。

左がチャボ(かっこいい!) 右が加奈崎芳太郎。おそらく日比谷野音だと思われます。

北海道の高校生のころから古井戸のファンだった僕は初めて生で聴く加奈崎の歌声に完全に魅せられた。その時に聴いたのが「ステーションホテル」だったと記憶している。古井戸はエレックを離れ、CBSソニーに移籍して3枚目のシングル「ステーションホテル」をリリースした。エレック時代の「さなえちゃん」「ポスターカラー」「ちどりあし」は、今でもApple Musicなどで簡単にヒットできるのだが、「ステーションホテル」や同じアルバム『酔醒』に収められている「黄昏マリー」はなかなか聴くことができないのだ。できれば、YouTubeでこれを歌っている姿が見たい。1975年のラジオの公開放送の会場で生で歌う音源は一部YouTubeで聴けるのだが(ジャズの山本剛トリオとのライブもかなり渋いのだが)。

「ステーションホテル」「黄昏マリー」は、もう70年代フォークの枠から完全に超越して、ほとんどブルース。チャボの感性と加奈崎のヴォーカルは今聞いてもちっとも古さを感じさせない、スタンダードとも言える曲だ。なぜ他のヴォーカリストたちが50年近くもカバーしないのか、不思議なほどだ。

加奈崎は古井戸解散後も、ソロとして活躍していたようだが、僕は古井戸以降はほとんど聞いていない。キース・リチャードのいないミック・ジャガーのソロアルバムは聴くに耐えないのと同じように。

このアルバムは持っているのですが、レコードなので、プレーヤーがないと今は聴けません(涙)
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