Apr 12, 2017
By TORU UKON (Editor in Chief)
アメリカから2ブランド休止の悲報
4月に入ってアメリカから悲しい知らせがふたつ届いた。
ひとつは《フッド・バイ・エア(HBA)》のブランドビジネスの休止。そして、もうひとつは《マーク ジェイコブス》のメンズ終了。どうやらともに原因はセールスの不調のようだ。業界の宿命とはいえ、ともに影響力のあるブランドであり、ファンも多かっただけに残念でならない。
アメリカのモード界はここしばらく明るい話題がなかったが、昨年、ラフ・シモンズが《カルバン クライン》のチーフクリエイティブオフィサーに就任。ニューヨークで彼のシグニチャーブランドとともにショーを披露して、アメリカモード界を大いに盛り上げた。
しかし、春になってみたら「落ちる」ニュースが続いた。《HBA》は《ヘルムートラング》のカプセルコレクションに、《マーク ジェイコブス》もウィメンズに、ともに集中していきたいと発表している。このふたつのブランドを同じレベルで語るのはどうかとも思うが、このニュースから察するに、アメリカではメンズファッションが低調なのが現実なのかもしれない。
数年前、アメリカを中心に「ノームコア」というスタイルが流行した。モードとは真逆のベクトルを持つこのトレンドに対して、強い危機感を抱いた。
僕自身、それほどモードなスタイルではなく、人に言わせれば「あんたがいちばんノームコア!」に思えるかもしれない。しかし、自分の意識としては「アンチ・ノームコア」を貫いているつもりだ。
ファッションの起点は「かっこつける」ことだと思う。動機はなんだっていい。異性からモテたい。同性からも認められたい。単なる自己満足…、なんだっていい。ただし、それが表層だと決めつけるのは間違いである。ファッションは上っ面だけではない。その人の人間性であり、美学であり哲学であり、アイデンティティである。
ノームコアはそれを否定するトレンドだと思う。「かっこつける」ことの否定。だから、ファッションシーンにいる者、モードの世界で生きる者にとっては、とても危険なトレンドなのだ。ノームコアの風潮がどんどん広がってしまうと、ファッションは廃れていくに違いない。
推測の域を出ないが、今回のふたつの「落ちる」ニュースはノームコアの影響が少なからずあるのではないか。ファッションに興味のある人がどんどん減っていき、モードはごくごく一握りの人(悪く言えば、変わり者たち)の対象でしかなくなってきている。ファストファッションの巨大なる力もこうした状況に大きくのしかかっている。どうしたら、この流れに歯止めをかけられるだろうか。いちファッション雑誌は矮小で無力である。しかし、それでもノームコアに抗い、モードを高らかに謳いあげるのだ。一人でも多くの人にこの声が届くと信じて。
そんな思いを新たにした、ふたつのニュースでした。