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FASHION
Aug 20, 2016
By TORU UKON (Editor in Chief)

ファッション雑誌講座 第6回 「なぜスタッフクレジットがあるのか?」

ファッション雑誌に限らず、雑誌にはよくフォトグラファーやスタイリスト、ヘアメイクさんたちの名前が表記されています。それをスタッフクレジットと呼びます。

 

質問:なぜスタッフクレジットがあるのか?

 

確かに、どの企画にもいちいちスタッフの名前が記載されているページもあれば、そうでないページもあります。
どうしてなんでしょう?

 

答え:宣伝のため

 

フォトグラファーやスタイリスト、ヘアメイクの方々のギャランティ(報酬)は、コマーシャルと雑誌ではかなり開きがあります。
もちろん、雑誌の仕事のほうがかなりお安い。
仕事の質や量はそんなに変わらなくても、コマーシャルのほうが雑誌よりも稼げるというのが、一般的です。

 

しかし、雑誌でもコマーシャルで活躍している方に、お仕事をお願いしたい。
そこで、ギャラは安いけれど、名前を公にすることで、「この写真は〇〇さんが撮影しました」
「このスタイリングは××さんが担当しました」とお知らせして
安いギャラでも納得して仕事をしていただく、というわけです。
そうすることによって、その紙面を見たクライアントから、「次のキャンペーンはこのカメラマンにお願いしよう」
という発注が寄せられるかもしれません。
このカメラマンで写真集を作ろう、という出版社が現れるとも限りません。
そうしたクライアントからの仕事のための、広告宣伝活動。そのためにスタッフクレジットがあるのです。
(逆に言えば、コマーシャルの仕事にはスタッフクレジットがないことが一般的です。
近年は、情報が発達して、有名なキャンペーンに携わったスタッフ名はすぐに公になりますが)

 

雑誌の仕事は、広告の仕事よりもはるかにクリエイティブスタッフの自由度が高い。
そこで、クリエイターたちが雑誌の紙面を使い、自分たちの才能を遺憾なく発揮することで、コマーシャルなどのクライアントへアピールする。
ファッション雑誌はそのための場所でもあるのです。

 

つまり、ファッション雑誌がなくなり、カタログ雑誌ばかりになると、
フォトグラファーやスタリストたちの活躍の場が少なくなり、
コマーシャル界を含めて、日本のクリエイティビティ自体が低下していくのではないか、
僭越ながら、そうした自負を抱きながら、ファッション雑誌を作っているのです。

 

しかし、ここに大きな問題があります。

 

本来、多額の報酬を支払うはずのコマーシャルが、予算の締め付けや予算削減のために、
十分な報酬を支払うことができない。
ならば、雑誌の安いギャランティを利用して、なんとかコマーシャルを作ることができないか?
そんなことを考える、とても頭のいい人が現れました。

 

雑誌の紙面を、そのままコマーシャルに二次使用しよう、という発想です。
これで、潤うのはクライアントで、泣くのはカメラマンやスタイリストなどのクリエイターです。
雑誌はと言うと、クライアントが編集協力費を出してくれれば、通常自前のバジェットを
抑えられるので、相乗りすることもあるのが悲しい実情です。
でも、このやり方はどこかおかしいと思います。

 

二次使用という問題は、ネットが発達してさらに深刻化しています。
豊かな才能と、自由な発想、少ないバジェットで創った紙面を、
第三者が「こちらの考えとマッチするから」という理由だけで、
「いいじゃん。だって、そこにもうデータがあるんだから。
そのままにしておいても一銭にもならないけど、
二次使用すればお金が入るのだから」という一方的な理由だけで、
二次使用する風潮に、どうしたら歯止めがかかるか、それが僕らに与えられた
もう一つの使命かもしれません。

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