Them magazine

SHARE
FASHION
Aug 24, 2016
By TORU UKON (Editor in Chief)

ファッション雑誌講座 第8回 「なぜ欧文タイトルなのか」

どの雑誌の企画にもタイトルがあります。

 

中には大見出し、またはメインキャッチ(コピー)いう編集部もあるかもしれません。

 

『Them magazine』だと、「Nocturne」とか「Beat to Beat」となります。

 

女性誌の実売誌だと、「愛されるブランド、7つの秘密」とか「着回しがきく秋色ブルゾン」となります。

 

こちらは企画の内容がとてもわかりやすい。一方「Nocturne」になると、何がなにやら……。

 

質問:なぜ欧文タイトルなのか

 

そう、欧文タイトルの意味は何なのでしょうか?

 

海外の雑誌を真似した、ただのかっこつけ、なのでしょうか。

 

いいえ、違います。

 

答え:ストーリーの題名だから

 

同じファッション雑誌と言っても、実売誌とモード誌では、企画の考え方がまったく違います。

 

ともに、編集会議で、どんなページを作るかを議論するのですが、実売誌では、ブランドやアイテムの選択、コーディネイトまで、読者の購買意欲を訴求する企画が考えられます。従って自ずとタイトルは、企画内容がどんな人にもわかりやすく、簡潔で、キャッチーな日本語となります。これから始まる数ページを一言で読者に伝えるのが、実売誌のタイトルの使命です。

 

一方、『Them magazine』のような欧文タイトルをつけるファッション雑誌では、どんなファッションストーリーにするかが企画の考え方です。男一人のストーリーなのか、恋人同士のストーリーなのか。男はアーティストなのか、スポーツマンなのか。ストリート(ロケ)が舞台なのか、部屋なのか、それともスタジオでポートレイト風に撮るのか。もちろん、ブランドやアイテムも同時に考えますが、どんなストーリーにするかが、一番重要です。

 

そのストーリーが完成した時点で、最後にタイトルをつけます。

 

ひょっとしたら、作家が小説を書き上げた後で、題名をつけるのと似ているかもしれません。

 

小説や映画じゃないから、タイトルなどなくてもいいんじゃない? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、タイトルがないと、やはり不便でわかりにくいものになります。

 

もちろん、かっこいいタイトルをつけたほうがデザイン的にも収まりが良い=ページの見栄えがする、という理由もあります。

 

しかし、「Nocturne」の代わりに、「夜会のための艶っぽいドレス」などといった日本語のタイトルがまずあって、そうしたストーリーになっているわけではないのです。

 

欧文でなく、日本語の場合(例えば「夜想曲」とかになったり)もごくまれにありますが、考え方は同じです。

 

僕がアシスタントだったころは、メインタイトルが「Nocturne」、サブタイトルが「夜会のための艶っぽいドレス」、さらにリードで「パーティーなどの集まりが多くなる季節。それは同時に多くの視線が集まる季節。今年のドレスの主流はワインカラー。いつもよりグラマラスな夜のためにーー」などと書いたものですが、今はやめました。理由は、写真やスタイリングを壊すから。せっかく、クールな写真に仕上がったのに、慣例というだけで過剰な説明文がその写真を汚すのはどうか、と。それよりも、気の利いたタイトルをつけることのほうが、ファッション雑誌のクオリティーを上げると考えたからです。

 

ただ、かっこつけだけの欧文タイトルにならないよう、分かりやすい単語や語句で、しかもストーリーの一言で表すようなタイトル、独りよがりにならないように考えるのも、編集者の大切な仕事だと思います。

SHARE