Them magazine

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MOVIE
May 01, 2023
By TORU UKON (Editor in Chief)

極私的映画コレクション  Vol.03 韓国青春暴力映画

血湧き肉躍る。暴力でのしあがる若者たちの韓国映画集

青春バイオレンス映画が好きだ。

邦画ではなんと言っても『けんかえれじい』(1966年、鈴木清順監督、高橋英樹主演)と『ガキ帝国』(1981年、井筒和幸監督、島田紳助主演)、そして『キッズリターン』(1996年、北野武監督、金子賢主演)が自分的にトップ3。もちろん、いつ観ても、何度観ても面白い。単純明快。血が激る。還暦を超えても「男の闘魂」は不滅であることを知る。

韓国にもそんな映画が、もちろんある。

現在、『Them magazine』では韓国特集を発売中。

そこで、本誌では紹介できなかった韓国青春バイオレンス映画の秀作をここに紹介しよう。

『友へ チング』(2001年 監督:クァク・キョンテク 出演:ユ・オソン、チャン・ドンゴン、ほか)

まだ、それほど韓国映画に詳しくない頃に観た『友へ チング』。

1970年代、釜山で暮らすの幼馴染が、不良高校生となり、ヤクザへと暴力で上り詰めていく。その様子をやはり幼馴染(こちらは優等生)がストーリーテラーとなって優しく見つめていく(この構成が、韓国版『スタンド・バイ・ミー』などと評価される)。無邪気な少年時代から、最後は切ない破滅を迎えるが、全編男の生き様が描かれていて、これぞ青春バイオレンス映画の決定版といった作品。

この作品の前後でチャン・ドンゴンが日本でも人気となったが、主演のユ・オソンのギラギラしたキャラクターが強烈な存在感を放っている。また、彼の愛人役を演じるキム・ボギョンの退廃的な魅力も見逃せない。梶芽衣子だって、あんなクールな女子高生は演じられなかっただろう。

小学生の頃、東京でもっとも喧嘩の強い番長(そんな者が存在することを真剣に信じていた)は、白ラン(白い学生服)を着ているという噂を聞いたことがあったが、この映画ではユ・オソンが白ランを着て番長として君臨していた。子供の頃の憧れみたいなものが韓国にもあるのか、と思って、ちょっと嬉しかった。

『息もできない』(2009年 監督:ヤン・イクチェン 出演:ヤン・イクチェン、キム・コッピ、ほか)

こちらはバイオレンスと出世物語というよりは、青春純愛映画に近い。

不良少年少女の純愛映画では『純愛物語』(1957年 今井正監督、江原真二郎、中原ひとみ主演)を超える映画はない、と思っていたが、この韓国映画もそれを凌ぐとも言えそうな名作だ。

『あゝ、荒野』(2017年 岸善幸監督、菅田将暉主演)で日本でもお馴染みになったヤン・イクチェンの長編監督デビュー作。彼が制作、脚本と主演までこなした。制作の途中で資金が足りなくなり、家を売って製作費を工面したという、まさに力作。

早くに母を亡くし、どうしようもない父親の元で育った二人の男女。ヤクザと可憐な女子高生という対照的な二人だが、流れている情は同じ。救いようのない現実を二人はお互いを認め信じて生きていこうとする姿に、心が打たれる。

日本の映画賞では、最高峰と(一部で=筆者も賛同)言われる『2010年キネマ旬報 外国映画ベスト・テン』の第1位を獲得している。当時は韓国映画としての快挙だった。本国での原題は『トンパリ(=クソバエ)』で、ちょっとブルーハーツ的なスタンスだが、そこにも嘘が嫌いな、青春の不器用なピュアさが感じられる。

ヤン・イクチェンは役者としても個性的だが、できることなら彼にお金の苦労なく、制作・監督・脚本を任せた作品を観てみたい。

『新しき世界』(2013年 監督:パク・フンジョン 主演:イ・ジェンジエ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、ほか)

青春映画、というにはちょっとトウが立っているが、実は青春バイオレンス映画、というオチが隠されている。

ハリウッドでもリメイクされた暴力団組織への囮捜査に挑むクライムストーリーだが、非情なまでのアクションシーンの連続にぐいぐいと引き込まれる。

脚本もパク監督が手がけているが、このオリジナル脚本が素晴らしい。闇の権力闘争と卑劣な犯罪捜査が何度も交差し、次の展開がどうなるのか、ラストまで予測不能だ。この作品だけでも、韓国映画のエンターテイメント性の高さが十分納得できる。おそらく、世界中のどの都市でも大ヒットするであろう作品だ。

特に華僑のボスを演じるファン・ジョンミンの味のある演技が楽しい。『仁義なき戦い 広島死闘編』(1973年 深作欣二監督、北大路欣也主演)の千葉真一を彷彿させる曲者ぶり。顔が貴乃花そっくりなジョンミンだが、演技の幅が広く、本誌でも紹介した『国際市場で逢いましょう』(2014年 ユン・ジェギュン監督)での熱演ぶりは、『新しき世界』と同じ役者とは思えないほどだ。他の作品では体重を何十キロも増減させたりと、まさに役者魂の塊のような人。この人が出る作品は自ずと期待感が高まる。

 

『なもなき野良犬の輪舞(ロンド)』(2017年 監督:ビョン・ソンヒョン 出演:ソル・ギョング、イム・シワン、ほか)

こちらの作品は未見。GW中に観る予定。

主演が韓国の“カメレオン俳優”と異名をとるソル・ギョング。ボーイズグループZE:Aのイム・シワンが共演。バイオレンスの成り上がりストーリー、と今回のテーマにふさわしい作品。男の友情には裏切りという背反したテーマが存在するが、同時に日本の時代劇で言うところの「衆道」の色も滲む。“男が男に惚れる”作品は、ほとんど女性(あるいは腐女子)から見ると、“そっち”の映画として観られるようだが、どんな観方をしようが、観るひとの自由であることに、間違いはない。

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