Them magazine

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Editors Voice
Feb 20, 2025
By TORU UKON (Editor in Chief)

Memory of A Day Vol_04

Vol_04 2025年冬のボウタイ

「あなたに首ったけ」

……なんて想いを込めて、男性にネクタイを送った昭和の女性。

先日、NHKでリメイクされた「1969年 第20回紅白歌合戦」のアーカイブ放送を観た際に、当時20代のアイドル歌手だったいしだあゆみ、小川知子、奥村チヨ(いずれもすんごく可愛い!)の歌を聴きながら、そんなフレーズが浮かんできた。この番組は小学校5年生の時に観たのだが、結構覚えているシーンもあった。登場する歌手の誰もが、歌が上手く、これぞ紅白歌合戦!とつくづく感心した。(それに較べて、今日の紅白の、なんとお粗末なことか)

それを観ていて、ふと気がついたのだが、白組男性歌手はほとんどが蝶ネクタイをしている。演歌もポップスもムード歌謡も、ほぼ全員蝶ネクタイ。歌手の晴れ舞台だからなのか、それとも当時の芸能界の常識だったのか、まさか、「紅白」のドレスコードだったわけではないと思うが。

年末年始のテレビ親父は、井之頭五郎よろしく「蝶ネクタイ、うん。悪くない」と心で呟き、年始すぐのパリコレ行きの荷物の中に蝶ネクタイを3本忍ばせた。

 

こちらは予め結ばれて売られているが、解いて、何度も自分で結ぶ練習をした。一本のボウタイよりも、二本に別れているほうが、断然結びやすい。

さて、蝶ネクタイだが、予め結ばれているタイプと、自分で結ぶタイプがあるのはご存知のとおり。

予め結ばれているほうが断然楽チンなのだが、ここは、ファッション雑誌の編集長。ボウタイくらい自分で結べんでどうする!?

ってことで一念発起したのだが、これがなかなか難しい。蝶々結びってわかっているのものの、靴紐とは違って短く太いため、かなりの練習が必要だ。数分悪戦苦闘していると、イライラを通り越して、なんだか楽しくなってくる。どうにか形になった時の喜びたるや。この歳にして、「ひとりで出来たー!」。久しく味わったことのない達成感! 近年若者が、わざわざ面倒くさい、ヴァイナルに針を落としてターンテーブルで音楽を楽しむ行為に似ているかもしれない。面倒臭いのが楽しい。これからはタイドアップはボウタイだ、と決意。

《シャルべ》のボウタイ。すべて結び目を解いて、自分で最初から結ぶ。8の字タイプの途中が細くなっているほうが結びやすいのだが。

かつて、パリコレに行った際に、自分のお土産として買った《シャルべ》のボウタイ。バンドームのショップに行くと、一階のフロアに圧倒的な数のボウタイがある(もちろんネクタイもすごい量だが)。毎回、一個ずつ買っておいたタイを全部解いて、結ぶ練習に明け暮れる。ボウタイは最後の輪っかを通すのが、最も難しい。通してしまええば、あとは整えるだけなのだが、器用な指先が要求される。確かに、これをススっとこなせれば、男前かもしれない。

自分で結ぶには、細く、ある程度生地の薄いほうが結びやすい。ただ、完成形を見ると、ネクタイの幅が7センチくらいが収まりがよく、生地も厚いほうが立体的に見えてかっこいい。幅がないと、クラシックな感じが強く、9センチ以上だと、ちょっと道化師っぽく見える。俺は7センチ。《シャルべ》も7センチだ。剣先が三角のタイプと垂直なタイプがあるが、自分は垂直なタイプが好みだ。こっちのほうがバタフライっぽいから。

幅が7センチの《トム フォード》のボウタイ。こちらは最初から結ばれているタイプ。

最近は久しく行ってないが、以前はミラノコレクションにもよく足を運んだ。こちらのお土産は《トム フォード》のボウタイ。形としては完璧。厚みのあるシルク生地で、凝ったジャカード織。幅は7センチ。最初から結んであるので、こちらは楽チン。これも今回のパリコレで活躍してくれた。《トム フォード》もボウタイの種類は多かった。デザイナー本人も好んでボウタイをしていた。ここんちのスーツには、不思議とボウタイが似合う。

ボウタイをし始めた理由には、年齢がある。若い時はなんだか気恥ずかしかったが、歳をとると、結構サマになってくる。クラシックなアイテムだから、きっと爺様には似合うように出来ているのだろう。ただ、上手く素早く結べるようになるためには、かなり肩が凝る。五十肩には無理。しかも器用な指先が求められるので、ボケ防止には良いが、ぎゅっと閉めるにはかなり首にも来る。最近、マッチングアプリのカップルたちの間では、首絞めプレイが流行っているそうだが、春を失いつつある爺様には、一人ボウタイ結びプレイのほうがよろしかろう。

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