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MOVIE
Apr 21, 2023
By THEM MAGAZINE

極私的映画コレクション Vol.02イヴ・サンローランが衣装を手がけた名作3本

銀幕に煌々と輝くサンローランスタイル

 

“モードの帝王”ことイヴ・サンローラン。彼が衣装を手掛けた映画や舞台は10作品以上ある。彼の服を纏うことで女優の美しさが引き立ち、作品が華やかなになる。スクリーンに永遠の美しさを刻んだ女優たち。それを堪能できる珠玉の映画3本を独自にセレクトした。

『別離(LA CHAMADE)』1968年 監督:アラン・カバリエ 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピッコリ、ほか

フランス映画界の美しき至宝カトリーヌ・ドヌーヴ。その美貌は今日に至るまで多くの人々を魅了し、映画界のみならずファッションシーンにも多大な影響を与え続けている。イヴ・サンローランも彼女の美しさの虜になった一人である。彼が衣装を手掛けた名作として、まずは『別離』を挙げたい。豪華な衣装の数々が映画に花を添えている。先日公開された今年のカンヌ国際映画祭のメインビジュアルにもこの映画のスチルが採用されている。
数々の作品に出演し、さまざまな役を演じてきたカトリーヌ・ドヌーヴだが、『昼顔』『暗くなるまでこの恋を』そして『別離』しかり、純情な女性というよりも、どこか影のあるファム・ファタルなキャラクターが似合う。上流階級に生きるスキャンダラスな女性を演じさせたら彼女の右に出るものはいないだろう。『別離』でも、快楽を愛する自由奔放な女性を見事に演じている。イヴ・サンローランの代名詞ともいえる丈の短いトレンチコートをはじめ、トリコロールのワンピース、ピンクのドレス、さらにはブラックのスパンコール×シースルーのドレスなどのラグジュアリーなアイテムを着こなし、卓越したパリジャンの姿を完璧に体現している。劇中に彼女がベッドでシャンパンを浴びるシーンは短いながら印象的。パトロン役のミシェル・ピッコリもいい味を出している。いわゆる二枚目というわけではないが、女性にモテる役が多い彼。本作でも知的で柔和な雰囲気を発し大人の色気を感じさせる。

2023年のカンヌ国際映画祭のポスターには『別離』のスチルが採用されている。
『夕なぎ(CESAR ET ROSALIE)』1972年 監督:クロード・ソーテ 出演:ロミー・シュナイダー、イヴ・モンタン、サミー・フレイ、イザベール・ユペール、ほか

2本目は、ロミー・シュナイダーの魅力が存分に堪能できる『夕なぎ』。
映画を観ていると、誰がコスチュームを担当していたのか、エンドロールが待ちきれなくなることがごく稀にある。『夕なぎ』はまさにエンドロールまで齧りついて観た映画だった。そしてクレジットに“イヴ・サンローラン”の名前を認めたときには「やはり」と腑に落ちたのを覚えている。トレンチコートはもちろん、白いクルーネックのTシャツですらロミー・シュナイダーが着ているものは全て美しく上品に見えた。ロミー・シュナイダーは《シャネル》に愛された女優など呼ばれ、そのファッションセンスは多くの人が認める女優だが、この作品でも、ストローハットに水着、淡い水色のブラウス、品の良い白いトリミングのブレザーなど他の映画とは一線を画す着こなしの連続。まるでファッション雑誌をめくるが如く。
本作は、ロザリー(ロミー・シュナイダー)をめぐるタイプの異なる二人の男、セザール(イヴ・モンタン)とダビッド(サミー・フレイ)の奇妙な三角関係を描いたメロドラマである。原題はあくまで、『セザールとロザリー』であり、ダビッドが入っていない。二人を中心に愛に揺れる男女の姿を繊細に描写している。終盤にロザリーそっちのけで、男の熱い友情が芽生えていく展開も面白い。愛に苦しむ頑固な男をイヴ・モンタンが好演しているのも見どころ。
『夕なぎ』のロミー・シュナイダーは、『別離』でビビッドなカラーのアイテムを着用していたカトリーヌ・ドヌーヴに比べると華やかさには欠けるかもしれない。しかし、シンプルなウエアにスカーフやアクセサリーを組み合わせた着こなしは、まさにフレンチシックのお手本といえる。上品な色使い、サイズのバランス、どこをとっても非の打ち所がなく、イヴ・サンローランの完璧な仕事が窺える。

『サブウェイ(SUBWAY)』1984年 監督:リュック・ベッソン 出演:イザベル・アジャーニ 、クリストファー・ランバート、ジャン・レノ、ほか

イヴ・サンローランが衣装を手掛けた映画の中で、最もエネルギッシュな作品といえば、リュック・ベッソン監督の『サブウェイ』ではないだろうか。フランス映画界においても、ヌーヴェルヴァーグ以降の“新たな波(ネオ・ヌーヴェルヴァーグ)”として重要な意味を持つ作品といえるだろう。
リュック・ベッソンは、ジャン=ジャック・べネックス、レオス・カラックスとともに“恐るべき子どもたち”と称された。そんな彼の出世作ともいえる本作では、すでに彼のスタイリッシュな映像と音楽がマッチする独自のスタイルは確立されており、後の代表作『ニキータ』『レオン』へと続いていくオリジンを見出すことができる。
そしてこの映画の要は、サンローランのデザインしたゴージャスなブラックドレスに身を纏ったイザベル・アジャーニの美しさだろう。ほかにもサンローランスタイルを感じさせるイエロー×ブラックのチェックのジャケット姿からは、カトリーヌ・ドヌーヴ、ロミー・シュナイダーとはまた違ったエレガントな美しさが堪能できる。クリストファー・ランバートのブラックタイ姿もより洗練された印象を与えてくれる。
リュック・ベッソン作品ではお馴染みのエリック・セラが担当している音楽も臨場感を生んでいて良い。バンドのドラマー役で若かりし日のジャン・レノが出演している点も注目に値する。
ちなみに、本作は当初、シャーロット・ランプリングとスティングの出演が予定されていたという。その組み合わせも観てみたい気がする。

 

 

Text_RINTARO SATO

 

 

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