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FASHION
May 13, 2019
By TORU UKON (Editor in Chief)

My Wish List 〜ないものねだりの子守唄〜 Vol.02_グランドセイコー 44 GS

古い時計が好きだ。

 

中でも《セイコー》の1960年代中期から1970年代中期までの時計が好きだ。

 

理由はシンプルで、性能がよく、ストーリーがあるから。

 

ヴィンテージの《セイコー》は、比較的安価で購入しやすく、タマ数も多く、修理をしてくれるところも少なくないので、コレクションすることも、日常的に使用して楽しむことができるありがたい時計です。

 

特に1960年代の「グランドセイコー」や「キングセイコー」には、日本人の美意識の根底にある「用の美」がある。柳宗理に通じる美しさを楽しむことができます。

 

さらに自分を虜にするのは、泣けるストーリー。諏訪工場を開いたとき、元々地元で絹糸の女工だった人たちを、手先が器用ということで時計職人へと育てた山崎久夫。「手に汗をかかない女」と言われ、ジュネーブ天文台コンクールに挑み続けた名工・中山きよ子のエピソードは、何度目にしたり耳にしても涙が流れます。

 

服部セイコー初の大学卒のデザイナー、田中太郎の存在も自分を熱くしてくれました。

 

そもそも、「初の大学卒のデザイナー」と会社が堂々と自慢気に謳うところが、高度経済成長の日本らしくて、ものすごく惹かれます。(失礼ながら)ドカベンに負けないような昭和スタイルの名前も好感が持てます。

 

そんな田中さんが1967年に世に送り出したのが、「44GS」です。

6時の方向にあるマークは亀戸工場製作を表すもの。シルバーで統一された無駄のないケース&ダイヤルデザイン

 

後に「セイコースタイル」と呼ばれた、時計デザインの方程式(=超平面構成)を確立した機種です。「セイコースタイル」の説明は長くなるので割愛しますが、田中さんが「日本が世界に負けない時計を作るためのデザイン」として掲げ、後世までセイコーで受け継がれたスピリットなのです。

 

これが、今、欲しくて仕方がありません。

 

44GSは製造期間が2年と短く(後継モデルの45GSは5年ほど作られたが)、諏訪工場ではなく、当時セイコーの第二工場と言われた亀戸工場で作られていました。亀戸工場が手がけていた「キングセイコー」の44KS クロノメーターと兄弟のような存在ですが、44KSクロノメーターのケースデザインは「セイコースタイル」とは呼ばれません。ちなみに44KSクロノメーターも生産数が少なく、当時44GSとほぼ同価格だったので、こちらも国産機械式時計の最高峰と呼べるでしょう。

グランドセイコーの弟的存在のキングセイコー、44KGクロノメーター。ケースは違うが44GSと同格。こちらも欲しい!

 

44KSも44GS同様、生産数が少なく、《セイコー》がスイスのコンクールへ果敢に挑んでいた当時の機種なため、今はなかなか手に入りません。

 

2013年にブランド100周年記念のヒストリカルモデルとして復刻されました。SSケースが700本限定で、47万2500円。即完売したそうです。現在は倍以上のプレミアがついていますが、なかなか市場には出回りません。

2013年にブランド誕生100周年を記念して復刻された44GS。モデル名SBGW047

 

ケースは見事に田中さんがデザインした「セイコースタイル」です。

 

モダンな短いラグ。ダイヤルは多面カットのインデックス。やはり多面カットされたドーフィンハンドル。フラットダイヤル。シンプルです。ヨーロッパの時計が貴族や富裕層の宝飾品として生またことに対し、日本の時計は工業製品の一部として誕生したことを、実直に形にしています。このケレン味のなさが、自分が1960年代の《セイコー》を好きな理由です。

 

1960年代の後半に世に出たグランドセイコーやキングセイコーは、スイスのコンクールに出品していたモデルとほとんど同じモデルを一般に市販していました。F1レースに出場した車を、一般市民にマイカーとして公道で走ってもらうようなことを、当時のセイコーは成し遂げていたのです。そりゃ、買えるものなら買いたいですよね。50年以上経っても、その気持ちは変わりません。

 

メカニカル的にもどれだけ偉大な時計だったか、それは多くの専門家がいろんなところで熱弁しているので、それを読んでみてください。

ファッション的に見ても44GSは素敵です。

 

クラシックなスーツによく似合います。《サウスウィック》でも《スティレ ラティーノ》でも決まります。

 

ベルトもステンレスブレスでも、レザーでも選びません。《エルメス》のブレスをしているような気分で、時計を楽しめます。それほど完成されたデザインなのです。さすが、社内初の大卒デザイナー!

 

ちなみに、この時代のグランドセイコーやキングセイコーの裏蓋にゴールドのメダルがついていました。ライオンや盾、「GS」「SEIKO」の文字などですが、あれは一体なんだったのでしょうか? 機能はないはずですが、ケレン味のないデザインだったのに、唯一あのメダルが「高級感」を表現するものだったとすると、デザイナーの田中さんはそれを認めていたのか、できたら聞いてみたかったものです。

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