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CULTURE
May 16, 2019
By TORU UKON (Editor in Chief)

My Wish List 〜ないものねだりの子守唄〜 Vol.03_映画『ガキ帝国 悪たれ戦争』

古い邦画が好きだ。

 

好きな映画は、何度でも観れる。何度観ても、楽しめる。

 

そういう人です。

 

ただ、観たいけれど、どうしても観ることができない、そんな映画もあります。

 

レンタルビデオ、ブルーレイ、インターネット配信など、昔と比べて映画コンテンツの視聴が限りなく広がったこの時代でも、観られない映画。今回はそんな映画の話。

 

それが、『ガキ帝国 悪たれ戦争』です。

 

『ガキ帝国 悪たれ戦争』は、井筒和幸監督作品『ガキ帝国』の続編として1981年9月に公開されました。『ガキ帝国』はATGの配給でしたが、続編は東映。メジャー作品です。本編公開から2ヶ月後に公開されています。いかに、『ガキ帝国』の人気が高く、評判がよかったかが伺えます。

 

島田紳助、趙方豪、松本竜介らが出演した『ガキ帝国』。1967年の大阪が舞台、青春活劇の名作。

 

しかし、続編は、すぐに上映禁止となりました。

 

理由は、映画に登場する実在のハンバーガーショップ「モスバーガー」からの猛抗議を受けて、東映側が上映禁止としたため。それ以降、テレビ放映も、ソフト化も一切認められていません。自分が『ガキ帝国』を観たのは1987年。三軒茶屋の名画座でした。公開から6年も過ぎて観たのに、大感動。それから今日まで、VHSも購入し、ハードディスクにも録画して、一年に2〜3回はリピートしています。ほとんどのセリフも暗記しているほど。もちろん、続編の『ガキ帝国 悪たれ戦争』もどうにかして観ようと試みましたが、30年間実現していません。

『ガキ帝国』の趙方豪が豪田遊と芸名を変えて主演した続編。舞台はやはり大阪。

 

それが、2018年3月、日本シナリオ作家協会が『ガキ帝国 悪たれ戦争』を上映しよう、という運動を始めたのです。「上映したらアカン映画なんかないんじゃ!」というキャッチフレーズで、署名活動を続けましたが、残念ながら今年3月に活動断念。東映、モスバーガーともに上映を認めなかったからです。

 

そこには、大企業の論理もあるでしょう。しかし、「上映したらアカン映画なんかないんじゃ!」という意見には大賛成です。

 

とにかく『ガキ帝国』が未だに「マイ・オールタイム・ベストムービー」の上位としている自分には、どうしても観たい続編。

 

 

よく「続編に名作なし」と言われる。実際観た人の感想も評価が低いものも目にしました。それでも、自分の目で観ないことには!

『ガキ帝国 悪たれ戦争』にはモヒカンの不良グループや80年代っぽい暴走族も登場。期待度大。

 

井筒監督は、『ガキ帝国』以降も、『岸和田少年愚連隊』や『パッチギ』など、青春活劇(バイレンス・アクション)を撮らせると、本当に上手い(たまにハズレもあるけど)。 当時の流行や、不良少年たちの趣味などを実によく理解して表現されている。大阪の地元の人が観ると、「わかってないな〜」と言うかもしれないが、当時を生きていた北海道人からすると、「大阪ってあんなんだったんだなぁ」とつくづく感心してしまう。全員オフホワイトのステンカラーコートを着た不良グループ「ホープ会」。「神戸にVAN買いに行けばよかった〜」と泣きを入れる岸和田の中学生・小鉄。「カレッジフォークはアカンよ」と教えてくれた酒屋のギター兄ちゃん・坂崎などなど。井筒監督の青春活劇にはディテールやちょっとしたシーン、セリフに面白さが詰まっている。

 

また、キャスティングも絶妙。『ガキ帝国』の上岡龍太郎や北野誠。さらに、この作品でデビューした國村隼(当時は米村嘉洋)、不良グループのチンピラその1的な徳井優や木下ほうかなどは、セリフはそれほど多くないのに、すごく印象に残っており、その後の彼らをドラマや映画で観るたびに「おお、あの不良だ!」となんども喜ばせていただきました。『岸和田少年愚連隊』の宮迫や、『パッチギ』のケンコバ、桐谷健太も魅力的でした。きっと『ガキ帝国 悪たれ戦争』にも、そんな役者がたくさん出ていることでしょう。

 

青春活劇には、涙と笑いと痛快感が必要です。井筒監督は、間違ってもそこはハズさない。きっと『ガキ帝国 悪たれ戦争』にも、その三大要素はギュ〜ッと詰め込まれているに違いないはず。モスバーガーにそこを理解してもらえないのが、なんとも残念でなりません。あんなにテリヤキバーガーは美味いのに、何故?

 

ただ、「この世に生まれた映画は、必ずどこかに存在する」

 

日本のハードボイルド小説の第一人者、原尞が『愚か者死すべし』の中で言っています。戦争で焼けて完全版は一つも残っていないと言われてきた伊丹万作の名作『国士無双』が大富豪の屋敷の中にあったーーというくだりがありますが、『ガキ帝国 悪たれ戦争』のことを思うたびに、自分にそう言い聞かせています。

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