Feb 28, 2025
By THEM MAGAZINE
Wear, Repair, and Wear vol.2 FENICE CLOSET

お気に入りの服を末永く愛用するためには、修理は避けられない。ときに新品を購入するより値が張ることもあるが、それでも同じ服を着続けたいという願いのもと、修理の道を選ぶ人のためのリペアショップガイド。複数ある修理店の中から、安心して預けられる信頼のショップを紹介する。第2弾は、神宮前に店舗を構える「FENICE CLOSET (フェニーチェクローゼット)」。
“フェアトレード”を哲学に掲げる「フェニーチェクローゼット」
外苑前の西側、都心のハイソな雰囲気がありつつもどこかのどかな青山キラー通り。そこに建つビルの2階に「フェニーチェクローゼット」はある。エレベーターで2階まで上がるとすぐに店内に繋がり、降り注ぐ日光が店内を眩しく照らす。同店は、以前から同地区にあったリペアショップを現在のオーナーが引き継ぎ、一般のお客の服の修理を請け負うようになって8年になるという。
店名の「フェニーチェ」はフェニックス(不死鳥)のイタリア語で、「不死鳥のように何度もクローゼットの中を甦らせる」という思いが込められている。「お客さまが持ち込む服にはそれぞれのストーリーがあり、それをもう一度輝かせることがこの店の使命です」と、フィッターを務める店主の阿知良満氏は語る。
阿知良氏は札幌でアパレルメーカーの営業を務め、退職後はアパレルショップとのB to Bのリペアショップに経営参加。数年後、東京のリペアショップのフランチャイジーを受け、札幌店の立ち上げに参加した。翌年から原宿店に配属され、フランチャイズ化を受けて経営を行ってきたという。
「フェニーチェクローゼット」はフィッターと職人で明確な役割分担を行い、緻密に連携している。フィッターはお客の要望を聞き出し、それが技術的に可能かどうかを判断。「お直しを依頼する多くの人は『何ができるのか分からない』状態で来店します。私たちはお客さまの不安を解消しながら、納得のいく修理を提案しています。仕事で欠かせないものはメジャーとピン(まち針)。お客さまの要望を聞きながらサイズを測り、ピンを打つことで視覚的に仕上がりを伝えます。それでもイメージができないという場合や大幅にお直しをする必要がある際は、仮縫いの段階を設けることもあります」(阿知良氏)。
その後、職人が細部にまでこだわった仕上がりを実現。職人の櫻井勇太氏は、「一度仕上げた修理でも、より良い方法が見つかれば改めてやり直すこともあります。仕上がりを見たお客さまに『こんなものなのか』とがっかりされないようにしたいという気持ちを持って、どこまで要望に応えられるか、常に模索しています」と語る。
また、同店は技術だけでなく、職人の待遇にも強いこだわりを持つ。阿知良氏は、「嘘をつかない。正直に生きる。それがこのお店のコンセプトであり、大切にしていることです。私たちはお客さま、お店、職人といった3方で“Win-Win-Win”を目指しています」と説明する。洋服のお直し業界はテイラーや時計職人などに比べて過小評価されがちだという。しかし、それを変えたいという思いから、職人に適正な報酬を支払い、その分技術も磨いていくという姿勢を貫いている。
例えば、通常のお直しであれば20センチしかほどく必要がない箇所も、より美しい仕上がりのために倍以上の長さをほどくことがあるという。そうすることでシルエットをより自然に整えることができるが、その分時間も手間もかかる。それでもフェアな価格設定と高い技術力でお客に満足してもらえる仕事を目指すため、「フェアトレード」の考え方を大切にし、職人が正当な報酬を受け取れる環境を整えている。
阿知良氏は「適正な価格とは、お客様、職人、店のすべてが納得できる水準であるべき」と考える。「他のお直し屋さんに比べると料金はやや高めかもしれませんが、それは職人の手間や技術力を反映した結果です」。

同店を訪れるお客は、それぞれの思いを持って服を持ち込む。“推し”のアイドルがミュージックビデオで着ていた衣装を再現し、握手会に着て行くために、ウィメンズのジャケットを2着用意して仕立て直した男性。家族三代にわたり受け継がれてきたツイードジャケットを修繕し、さらに次の世代へとつなぐ人。駐在していたイタリアで購入したスーツを、夫の思い出として自分用に仕立て直した女性。どのエピソードも、服が単なる「モノ」ではなく、大切な記憶の一部であることを物語っている。
「フェニーチェクローゼット」の仕事は、アイテムに込められた思いを大切にしながら長く愛用できる形に整えることにある。洋服は消耗品ではなく、直しながら長く着ることができるもの。思いのこもったアイテムを修理するときは、確かな技術とフェアトレードの精神が根付いた「フェニーチェクローゼット」に足を運んでみてはいかがだろうか。
【店舗情報】
FENICE CLOSET
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3丁目31-20 野津ビル2F
TEL:03-3408-3982
https://fenice-closet.com/
@fenicecloset