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May 18, 2017
By THEM MAGAZINE

【インタビュー】ピエール・アルディ× ECAL “Walk with Pierre Hardy”

【インタビュー】ピエール・アルディ× ECAL “Walk with Pierre Hardy”


5月18日から22日まで、写真展“Walk with Pierre Hardy”が「ピエール アルディ 青山」にて開催される。

 

この写真展は、《ピエール アルディ》がスイスのローザンヌ美術大学 (ECAL) にて写真を専攻する学生たちとコラボレーションし、フォトグラファーPhilippe Jarrigeon(フィリップ・ジャリジョン)ディレクションのもと実現。学生たちは《ピエール アルディ》のアーカイブである15型のアイコニックなシューズの中から、それぞれの観点で撮影し、今回の作品が生みだした。同写真展は「Paris Photo (パリ フォト)」でも昨年の秋に披露され、その写真のクオリティに加え、プロジェクトの取り組み自体も好評を博している。
フィリップが「雑誌の中を歩いているようなイメージで作った」と語る写真展会場は、単なる写真展に留まらないレイアウト構成となっており、まるで“イメージの迷路”のように写真を楽しむことができる。
写真展にあわせて、ピエール・アルディ、フィリップ・ジャリジョン、ECAL フォトグラフィー学部のディレクターであるMilo Keller (ミロ・ケレール) が来日。今回のプロジェクトの経緯や、教育者としての視点について話をうかがった。

———今回のプロジェクトはどのように始まりましたか?

 

フィリップ・ジャリジョン(以下PJ) 「私は10年以上にわたってECALの写真科で教鞭をとっていて、その授業の一環であるこのプロジェクトにピエールを誘ったんだ。そして、ピエールが実際に学校に来てディスカッションを行い、15人の生徒のために15足の《ピエール アルディ》のシューズが用意された。つまり生徒は一人一足の《ピエール アルディ》のシューズを持った状態でこのプロジェクトはスタートしたんだ」

 

———なぜシューズを撮るというプロジェクトになりましたか?

 

ピエール・アルディ(以下PH)  「フィリップはもともとファッションの世界にいて、たくさんの静物を撮っていたんだ。彼は僕のコレクションを見て、シューズ、特に女性のハイヒールシューズは被写体としていいモチーフになると考えたんだね。過去にたくさん撮られてきているものだからこそ、“新しい”イメージを生み出すには適しているかもしれないとね。僕自身、昔から教授としてたくさんの生徒にデザインを教えてきたんだけど、最近は忙しくなってきたから3年前に辞めたんだ。だから僕にとって、あらためてなにかを教える立場に身を置くというのは新鮮で面白かったよ。教授と生徒という関係性はとても好きなんだ。目的について話すときなんかに“マーケット”という概念がリンクしてこないからね。業界ではしばしばマーケットのルールに従事しなくてはいけないんだ。時間や期限を守る必要はあるし、結果を気にする必要もある。だけどこのプロジェクトは、そういったマーケットのルールの外のことなんだ。だから僕はこのプロジェクトに関わることでリフレッシュできたし、まるでプレゼントのようだよ。もちろん、生徒には何がファッションイメージで、何がエディトリアルで、何がファッション広告かというのは教えたつもりさ」

 

PJ 「シューズはフォトジェニックなものだから、生徒にとって取り組みやすい課題だと思ったんだ。またシューズを使うことは、ただ自己満足的に撮るのではなくて、デザイナーズとは何か、ファッションシュートとは何かというところにシューティングを結びつけられるということが重要なんだ。同じくコレクションのアーカイブを使うことで、プロダクトやブランドの歴史を考えることができるという点もあるね」

©ECAL

———プロジェクトの際に生徒とはどのような会話がありましたか?

 

ミロ・ケラー(以下MK)  「(上の)写真のように、長い机の上に15足の靴が並んでいてそれをみんなで囲んでいたんだ。生徒は、初めの2週間はシューズの詳細など何も知らない状態で課題に取り組み始めた。その後ピエールが学校に来て、プロダクトの説明を始めた。そうして、また仕切り直して作品撮りを始めたんだ。だから、このプロジェクトには2ステップあったわけだね。靴の持つストーリーに対して何も知識がない状態で課題に取り組むステップと、知識を得た後のステップだ」

 

PH 「このプロジェクトを始めた当初は、これはただのワークショップだと思ってたんだよ。しかし蓋を開けてみると、本当に素晴らしい作品が揃ったんだ。これらは美しすぎて、ただ僕らの中だけにとどめておくにはもったいないから、写真展という機会を設けたんだよ」

 

PJ 「写真展はまず『パリフォト』期間中にパリにて開催し、そして今回東京に巡回してきた。写真展のおかげで、今回のプロジェクトが生徒たちとどういうイメージを作り出すかということだけでなく、スペースの中でどのようにインスタレーションを展開するかというところまで進んで考えることができたのは面白かったよ」

———この成果物に至るまで、生徒はどれくらいの写真を撮りましたか?

 

MK 「たくさんだよ。『もっとよくやれるぞ』といつも言っていた(笑)」

 

———生徒にはどのようなアドバイスをしましたか?

 

PH 「それは先生であるフィリップの役目だね。僕はプロジェクトに参加した外部のデザイナーとして、ただ生徒の邪魔をしないようにしただけさ。あくまでも僕個人の意見を言うだけで、彼らのリサーチに協力することはしないようにした。『僕はどちらかというとこっちを好むよ』とか、『もし僕が君だったら、こっちの方向でやっていくかな』とか、そういう程度の局地的なアドバイスにとどめたつもりさ。教授ではなく、デザイナーとしての役割に注力するのは大事なことだった。なぜなら教授ならば、幾重もの製作段階の中で、長い間生徒のことを観察する必要があるからね」

 

MK 「教授の役割というのは、生徒自身の殻を打ち破らせて外に出してやることだ。それにはすごく時間がかかって、何度も何度も一緒にやり直したり、アイデアを再構築したりする必要がある。生徒は、最初は小さいアイデアを持っているんだけど、教授がそれを推し広げるのを手伝うことで大きく力強いアイデアにしていくんだ」

 

PJ 「学校で私がすることは、生徒たちのアイデアをよりクリアに、洗練されたものに昇華すること。そして、生徒がもっているアイデアがそのままではユニークでないとしても、どのようにしたらもっと強く面白いものになるか、共に考えることだ」

 

MK 「写真の技術とコンセプチュアルなアイデアは合致する必要があるんだ。それをうまくできれば、自然とよい結果となる。それをサポートするのが教授の役目なんだ」

 

———製作期間中、どのように生徒の成長を感じましたか?

 

PJ 「最初のフォトセッションの時の写真と、いま展示されている写真はあまりにも違うから驚くと思うよ。偶発的に産声をあげたアイデアが、フォトシューティングを繰り返すなかでどんどん進化していったんだからね」

 

MK 「今回は長い時間をかけたプロジェクトで、雑誌のエディトリアルのためのプロジェクトなどの短期間なものとは大きく違う。このようなプロジェクトでは、一つの写真についてより深く考えることができるから、生徒にとってはいい機会だとおもうな」

 

PH 「生徒たちは、これは競争のようなものと感じているかもしれない。僕自身、優秀者に賞金を払ったりするわけじゃないから実際は違うんだけどね(笑) しかし、誰か/何かのために仕事をしているという部分はあって、そこから生まれる競争精神自体はいいモチベーション源になるとおもうよ。ただのスタディケースとは違う枠組みでね」

 

PJ 「そう。パーソナルなアプローチを使いつつも、これは単なるパーソナルプロジェクトではないんだ。すべての写真を見た時、これらをすべて集めて展示したらどれほど素晴らしいかと思ったよ」

 

———プロジェクトのなかで、何か予期しなかったことは起こりましたか?

 

PJ 「正直言ってはじめはただ単純に……うーん」

 

MK 「フィリップはとてもいい教授なんだ。だから、ひとつのプロジェクトのなかでこれほど多種多様な結果が生まれたんだよ。もし教える側がよくなかったら、生徒は教授が指示したただ一つの方向に向かってしまうんだ。時間と教授の質が、今回の豊潤な作品たちを作り上げたといえるね」

 

PJ 「うん、“時間”は非常に重要なことだったね。ときどきワークショップは短い時間だけで終わってしまうからね。僕は既に『僕が何ができるか』はわかっているんだけど、生徒たちは違う。だから僕の真似である写真は撮ってほしくないんだ」

 

MK 「フィリップのような教授は貴重だよ」

©ECAL/Isabelle Stauffer

———当初予想しなかったような展開となったこのプロジェクトからどんな収穫を得ましたか?

 

PJ 「非常に実験的なプロジェクトだったが、もし生徒たちが自分の経験をもっとプッシュすることができるならばと思っていたよ。『パリフォト』期間中のエキシビションはとてもよい反響を受けた。学生によるファッションフォトの実験的なエキシビションを開催すること自体素敵だし、こうやって東京にも来られたしね。次はNYやLAとかでやれたらいいかな(笑) こうやってエキシビションをやることで、この実験的なプロジェクトについて、見に来てくれる方とコミュニケーションができる機会を得たのはいいことだね」

 

PH 「個人的には、人は何かを創り出すとき、そのモノゴトをみんなにわかりやすくするために明快かつコンパクトに仕上げようとするはずだ。しかしこの展示はそれとは対照的で、すべてを裏返し、その中身をすべてさらけ出すようなものなんだ。ブランド的には、この立場で写真を撮るというのはとても興味深い。『ソファーとハイヒールと女性』みたいな、よく雑誌に載っているようなヴィジュアルはすぐ思い浮かぶ。市場のルールやスタンダードに沿ったような写真はね。僕自身、キャンペーンなどでそういったありふれた撮り方は避けようとしているけど、でも靴を売らなければいけないから実験的すぎるのもちょっと危険なんだ(笑) だけど、この写真展ではちょっと違った視点からシューズを捉えていたり、市場システムとはかけ離れた撮り方だったりで、ブランドのアイデンティティが表現されているんだよ」

 

———ECALは《ピエール アルディ》以外にも、バカラやBMWなど様々な企業とコラボレーションしていますが、なぜそういったコラボレーションを積極的におこなっているのですか?

 

MK 「卒業後にみんなにちゃんと就職してほしいからね。だから生徒にできるだけたくさんの選択肢を与えられるよう学校で取り組んでいるんだ。特に写真科やファインアート科はね」

 

PJ 「企業側も常に新しい才能を求めているからね」

 

PH 「今日では、ビジネスとアートの境界線はとてもぼやけているしね。何をするにしても、現実と向き合って取り組まなければならないことだけは確かだ。それを考えた後、やらないという選択肢もありえる。学校はその現実とは何かを教えるためにあって、生徒は現実を知った上でどのような道に足を踏み入れるのかを選ぶべきなんだ」

 

MK 「さらにいうと、企業はいいスポンサーである。IKEAなど大きな企業でも、学校を財政的に支援してくれるんだよ。だから、ECALの学生は年間2000ユーロの学費しか払う必要はないんだ。企業もECALのような若いクリエイティビティのるつぼが好きだからね」

 

———ピエールさんは、学生の頃はファインアートを学んでいたようですが……。

 

PH 「そう!ティーンエイジャーだったころのことはしっかりと覚えていて、当時は広告やファッションという分野は自分のものではないとおもっていた。それらが本当に面白いものだと理解するまでには凄く時間がかかったよ。自分の中で、純粋芸術と応用芸術を結びつけるのが難しかったんだ。このプロジェクトは、それが早い段階で学べるものだと思うからすこし羨ましく思うね」

©ECAL/Benjamin Hurni

———最後の質問となりますが、展示されているなかで一番好きな写真はどれですか?

 

PH 「僕にとってはこれだね!(上画像) なぜなら、もともとの靴のイメージとは大きくかけ離れているからね。まるで映画のようだよ。本当に予想外なヴィジュアルだ。深いモチベーションやファンタジーといったものが現れているね。それは僕がコレクションで表現したことではないけど、コンテクストには沿っているんじゃないかな。美しいね」

 

———ブランド《ピエール アルディ》のキャンペーンにいかがですか?

 

PH 「ははは、そこがこのプロジェクトのポイントだよ。これはとても美しい写真だと思うのだけど、商業的なキャンペーンに使うのは難しいんだ。他のものだったら広告に使えるかもしれない。例えばあの顔に寄っている写真とかはインパクトがあってキャッチーだからね。あとは青空を背景にした白い靴の写真とかかな。もちろん、すべての写真が素晴らしいとおもっているよ。だからこそこうやってエキシビションを開いているんだからね」

PJ 「うん。みんなが違うアプローチやテクニックを用いているのはとてもいいことだ。モノクロだったりデジタルなど新しいテクノロジーを使ってね」

 

———フィリップさんはどの作品が一番お気に入りですか?

 

PJ 「それは言えないよ(笑)」

 

MK 「彼はこの作品たちに父親のような愛情を抱いているからね(笑)」

 

PJ 「そうだね、あと10年くらいしたら言えるかな(笑)」

 

写真展ではオリジナルのトートバックと作品をまとめたカタログも販売される。実験的な作品が並ぶ刺激的なエキシビションは、5日間のみの開催だ。学生とは思えないクオリティと、学生ならではの発想に満ちた写真を堪能しよう。

【Walk with Pierre Hardy】

TERM 5月18日(木)〜5月22日(月)
TIME 12:00 ~ 19:00
PLACE ピエール アルディ 東京 B1F
ADDERESS 東京都港区南青山5-5-25 南青山郵船ビル A棟103号

 

 

EDIT_KO UEOKA

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