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FASHION
Jul 23, 2021
By THEM MAGAZINE

《キディル》末安弘明、服作りに注ぐPUNKの心魂|後編

「自分の中から強烈な何かを生み出したかったから服作りを始めた」と明言する《キディル》の末安弘明は、自分自身を探求するために服作りを行っていると話す。後編は、《ヒロ》から《キディル》として再スタートを切り、初のランウェイ形式での発表を行った2014年から、インタビュー直前に発表された2022SSのテーマについて迫る。末安弘明がパンクをテーマにし続ける理由とは。前編はこちら。

 

《キディル》としてのスタート、東京からパリへ

 

ーーロンドンで《ヒロ》を立ち上げてから長年活動をされていましたね。そこから、ブランド名を《キディル》に変えたのはなぜでしょうか?

 

《ヒロ》を立ち上げてから10年が経ち、展示会やコレクション形式での発表に挑戦したいという思いが強くなっていました。その時、自分の年齢も30代後半に差し掛かっていて、色々と変革の時期だったのだと思います。だから、《キディル》というブランド名に変えて新しく再スタートしました。

 

 

ーー《キディル》としての再スタートは、今までの服作りと何か違いがありましたか?

 

東京コレクションに参加してコレクション形式で発表するようになり、展示会やショーの準備など、ファッションブランドとしての活動をしっかりとやるようになったことです。それによって、ショーを通して多くの人に見てもらえる機会が増えましたね。《ヒロ》の時よりも幅広い層に届くようになって、自分が手掛けた服をより多くの人に着てもらう喜びをそこで初めて感じました。

 

 

ーーロンドンで制作されていた時のように、《キディル》の洋服にも即興性や偶発性によって誕生した洋服やルックはありますか?

 

今は服自体に即興性を求めてないですね。一緒に仕事をする相手によって生まれる即興性を大切にしています。それは僕が持っていない感覚を持っている方と一緒に仕事をすることで、まだ見たことがないものを作れるのではないかと考えているからです。その人はグラフィックアーティストなのかもしれないし、機屋の職人さんかもしれない。その相手が生地の織り方を失敗したとしても、そこに何か響くものがあるならば、それは即興性によって生まれたものだと捉えています。そうやって生まれる全体の空気感や先の読めない感じが堪らなく楽しい。どうなっていくのだろうって。ここ1、2年はそんなスタンスで服を作っていますね。

2019-20AW パリで単独で行ったショー

ーーパリコレクションに現在は参加されていますが、それ以前から独自の形式でパリで発表されていましたね。海外で発表しようと思った経緯と、なぜパリを選ばれたのかについてお聞かせください。

 

東京コレクションに参加したことで、海外のバイヤーさんが展示会に来ることが増えてきたんです。だけど、その多くがパリに買い付けに行っていることが分かって、発表の場をパリに移しました。それと、「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」の東京都知事賞を受賞したタイミングでもあったんです。それで支援金を頂けたことがパリでショーを行うきっかけとなりました。その当時はパリコレのことは何も分からなかったので、ただ服をパリに持って行ってショーをやるというスタンスで始めました。誰にも連絡せずに始めたので、日本のメディア以外は誰も来てくれませんでしたね。こういう結果になるんだって、リアルに自分の実力不足を痛感しましたその反省を活かして、海外に向けたプレスなどを意識するようになりましたね。

 

 

ーーパリでの発表は手探りで始まったものだったのですね。その姿勢に末安さんが多大な影響を受けた岡本太郎とパンクの精神性を感じます。

 

ロンドンという異国の地に行き、服作りを始めたことは岡本太郎に感化されたことがきっかけでした。だから、自分が純粋に感じたことや考えたとこを理解されようがされまいが、ダイレクトにぶつけたいと思っています。

 

 

自分であることを突き詰める服作り

 

ーー2022SSコレクションについてお聞かせください。今回のコレクションのテーマは”INOCCENCE”でしたが、キーワードとして「精神的なパンク」という言葉をコレクションの説明に書かれていましたね。その言葉を元に、インスタレーションでの発表を改めて振り返ると、コレクションテーマが自分自身を探求していくことなのではないかと感じました。

 

”INOCCENCE”というタイトルには、“自分である以上、自分であることを突き詰める”という意味を込めています。”INOCCENCE”は服それ自体を指しているのではなくて、作るものに対して自分自身でありたいというマインドの部分のことなんです。僕はコレクションを発表するごとに、そのマインドが強くなってきている。もはや、服を作っているというよりも、服作りを通して一体自分は何なのだろうと考えるようになってきています。それを感じ取っていただけて嬉しいです。

 

 

ーー今回のインスタレーションで、会場全体に響き渡るノイズバンド「非常階段」のJUNKO氏の叫びがとても印象的でした。あの叫びは何を象徴していたのでしょうか?

 

JUNKOさんの叫びは、汚れのない純粋な力の象徴です。それは僕の服作りにおけるマインドの一つでもあるんです。それをしっかりと表現したかった。だから、建築家イサムノグチの“天国”という場所でショーを行うことで、外界とは完全に遮断された一つの異世界を作り上げました。その中で、赤ん坊のようなピュアな生命体が産声を上げているかのようにJUNKOさんに演じてもらうことで、純粋な力というものを体現したかったのです。

 

 

ーー緊縛師のHajime Kinoko氏の緊縛を直立したモデルさんに洋服ごと施してあるルックが多数ありましたね。JUNKO氏の“叫び”と相反しているような関係性が印象深かったです。

 

僕はHajime Kinokoさんの緊縛に、「縛り」という行為を通じて、純粋なまでに自分を追求しているように感じています。それが僕には、縛るという行為そのものに精神的な自由を求めているように見えるんです。身体的不自由と精神的自由が共存する至高のメタファーとして、Kinokoさんには今回のコレクションに協力して頂いてます。

 

 

ーー今回のコレクションでは、多くのルックにグラフィックアーティストのトレヴァー・ブラウン氏の作品がプリントされていましたね。彼はイギリス出身のアーティストではありますが、彼のテーマである少女はどことなく東京のサブカルチャーを彷彿とさせます。そこには何か意図があったのでしょうか?

 

コロナの影響で発表の場がパリから東京に変化して、逆に東京だからこそ出来るフィジカルなショーをやりたいと思っていました。今回のコレクションに参加してくれたノイズバンド「非常階段」のJUNKOさんや緊縛師のHajime Kinokoさん、トレヴァーの全員が東京で活動しているアーティストでした。パリでは到底揃わないメンバーだからこそ、フィジカルでみせる価値のあるプレゼンテーションだったんです。そういう意味でもトレヴァーと一緒に制作したという意味もありましたし、以前からトレヴァーの描く少女像に対して東京的な印象を受けていました。トレヴァーの描く少女達の絵に「グロテスク」と「カワイイ」の要素が共生していることに魅了されました。無残さや異様さが、かえって可憐さを際立たせて呪縛的な力を感じます。彼の初期作品などのタッチは、ハードコアパンクの要素も感じるし、アナログ的な手法を用いた作品が多かった。その部分も《キディル》のコンセプトと重なり、彼とコラボレーションしたいと思ったんです。

 

 

2022SS コレクション

ーーパンクをテーマにし続けることについてお聞かせください。

 

パンクの精神性である“自分を貫き通す姿勢”が好きなんです。僕が多大な影響を受けた岡本太郎も、その視点で捉えるとパンクだと思っています。彼の著書に感化されたことで、ロンドンへ行って服作りを始めましたからね。パンクカルチャーの文脈に沿うような服を作ってきましたが、ここ1、2年では精神的な意味合いとしてのパンクの意味を持つ服作りを行っています。それは、“いかに純粋に自分と向き合うか”ということだと考えていて、今回のコレクションのテーマにもしました。濁りのないクリエイションにしていきたいという思いが、パンクをテーマにし続けているのだと思っています。

 

 

ーー末安さんがデザイナーとして意識していることはありますか?

 

服を作る上で、“所謂、服”を作らないということを意識していますそれは、自分の哲学や要素を含んだ厚みのある服を作り出すということです。特に技術だけ、素材や縫製だけの服にならないように、一番気をつけています。生地やテクニックにこだわりを持つことは、ファッションデザイナーとして当たり前のことだと考えているからです。ファッションは自己表現であり、個性や生き方そのものだと思います。ファッションデザイナーをやってるからには、そういった特別な服を作っていきたいと思っています。普通の服ではなく、特別な1着になるように作り手の意志が詰まった服作りを行っています。

 

末安弘明

1976年福岡出身。96年に大村美容ファッション専門学校を卒業。02年に渡英し、独学で服作りを始める。04年にロンドンで《ヒロ》を立ち上げる。14年に《キディル》として再スタートし、東京コレクションに参加。17年に「TOKYO新人デザイナーファッション大賞」東京都知事賞を受賞し、発表の場を東京からパリへと移す。2021FWよりパリファッションウィークの公式スケジュールにて発表を行う。

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