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FASHION
Apr 05, 2022
By JUNICHI ARAI

《Goldwin 0》/ Interview with Julia Rodowicz and Jean-Luc Ambridge

《ゴールドウイン》の新プロジェクトが追求する真のサステナビリティ

 

 サステナビリティという言葉は今、何を表しているのだろうか。世界2位の汚染産業とされるアパレル業界の中で、数多くの企業やデザイナーたちが持続可能性と自身のクリエイティビティを両立させるべく、さまざまな形で挑んでいる。過剰な生産や“環境に配慮した素材や製法”を謳う作り手たちは、どれほど真摯に向き合っているのだろう。
この命題に対して、あるべき一つの答えを提示する可能性を秘めた新しいプロジェクト《Goldwin 0 (ゴールドウイン ゼロ)》がスタートする。それは70年以上の歴史を持つ、スポーツに向き合い続け、人と自然が繋がり一体化するためのさまざまなウエアを生み出してきた《ゴールドウイン》がそのヘリテージと技術によって、人と自然が共に歩んでいこうとする未来を構想する試みだ。世界中の優れた才能との協業によるプロジェクトは一体、どのような真意が込められているのだろうか?

Still from Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form Copyright Goldwin 0 & OK-RM

 《ザ・ノース・フェイス》や《ヘリーハンセン》など、数多くのスポーツウエアやプロダクトを手掛けてきた《ゴールドウイン》。スキーウエアを起源とし、その長い歴史の間真摯なものづくりを追求してきたブランドが、さまざまな場所やシーン、用途で機能するメンズとウィメンズウエアを開発するプロジェクトが《ゴールドウイン 0》だ。滑走する地形の瞬間的な判断であり、雪のコンディションや自身の肉体をダイレクトに感じるバランス感覚を卓越した技術に込めている。

コレクションはSpiber社のBrewed Protein™素材といった革新的な新素材や、富山に構える研究開発施設である「TECH LAB」、ホールガーメントなどの日本が誇る先端技術をもとに、細部にまでこだわりぬいた機能性の高いウエアによって構成。期間限定のカプセルコレクションやテンポラリーなコラボレーションといった一過性のファッションではなく、人々と《ゴールドウイン》が大切にする自然と科学、テクノロジーにフォーカスした最高品質の時代を超えた美しさを持ったプロダクトを追求する。サステナビリティを中核とするこのプロジェクトでは、廃棄物ゼロの実現を目指し、あらゆる側面で環境への影響を減らしていくことを目標とする。ノンミュールジングウールやリサイクルナイロン、ポリエステルや再生海洋廃棄物、オーガニック素材などの環境への負荷を最小限に抑えた素材選びも特筆すべき特徴のひとつだ。

 

 ロンドンを拠点に、さまざまなファッションブランドやアーティストとの協働を行うデザインスタジオである「OK-RM」をクリエイティブ・ディレクションに迎え、コンセプトメイキングやアイデンティティの開発、有機的なコミュニケーションを作り出す。デザイナーには、《バレンシアガ》や《カルバン・クライン》《ルメール》といったラグジュアリーブランドでキャリアを積んだニットのスペシャリストであるジュリア・ロドヴィッチと、ジャンルレスなデザインワークを務め、現在はデジタルによるファッションデザインによる作品を発表する期待の新星ジャン=リュック・アンブリッジを起用。
バックグラウンドの異なるデザイナー二人による、《ゴールドウイン 0》のクリエイションの実像とは? 『Enquiry No.1: Finding Form』と称したコンセプトムービーを発表した楽天ファッションウィークの期間中、ついに念願の来日を果たした二人の言葉から、《ゴールドウイン 0》に込めたものづくりへの思いに触れたい。

Goldwin 0 Enquiry #1 Finding Form from Goldwin 0 on Vimeo.

Goldwin 0 Enquiry #1 Finding Form

異なるバックグラウンドを持つデザイナーたちによる、《ゴールドウイン 0》とは?


「本来買わずに済むけど、美しく洗練されたものを身に纏いたいと感じるのが人間。だから私たちは、環境に与える影響を最小限に抑え、耐久性の優れた素材を使用した洋服を作りたい。自分たちの生活において、積極的に環境に優しいものを選択することで、よりインスピレーション豊かな価値観を想像し、新しい夢を持つことができるのだと思う」と、ニットデザインを手がけるジュリアは語る。スノーボードやサイクリング、ハイキングを愛するジュリアは、スキーニットのヘリテージを持つ《ゴールドウイン》のクリエイションを体現する人物と言えるだろう。イタリアやフランス、中国、日本、アメリカなどのニット産業と協業することで培ってきた、ニットへの深い知見をもとにホールガーメントを使用した商品開発にも関わり、伝統技術をリスペクトしながらも革新的で機能的、快適性を考慮したデザインを作り出す。
「《ゴールドウイン》といえば、スキーウエアを中心に発展してきたブランド。私は彼らが誇るヘリテージにインスパイアされました。具体的には、1960〜70年代の(《ゴールドウイン》の)ビジュアルやカタログを参考にしました。また製品やその背景、歴史を知るだけでなく、スキージャケットの歴史やヒマラヤ登山の装いに関する資料からも学んでいます。当時の人々のほうがスキーウエアに対する理解が深いだけでなく、それぞれ自由な装いでアクティビティを楽しんでいた気がします」
例えば、ブランドのヘリテージを象徴するスキーニット。かつてはウール100%で作られていたプロダクトを、羊の成長を妨げない方法で刈り取ったウールを用いて制作。ホールガーメントによるシームレスな仕上がりは、体温管理に優れているだけでなく、ストレスフリーな一枚として現代的にリファインされている。数多くのブランドのニットを手掛けてきたスペシャリストが《ゴールドウイン 0》で生み出すのは、そうした着用する人々の生活に寄り添う一枚だ。
「これまでは、ラグジュアリーブランドで作ってきたニットは、自転車に乗るときに着られるようなものではありませんでした。長時間のフライトや、その後のミーティングを快適に過ごすことができなかったんです。私にとってこのプロジェクトはまさに自身の夢であり、ファンタジーではなく自分の周りにいる友人やたくさんの人のためになるように考えたもの。モデルのようなスタイルでない、さまざまな体型の人たちにとっても快適な、デモクラティック(民主的)なものなんです。自然のなかでナチュラルに、体に美しくフィットするように努めました。これまでデザインしてきたニットウエアのなかでも、渾身の出来上がりだと思います。体感だけでなく、感情的にも『心地よい』と感じてもらえるものに仕上げています」

Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form, Choreography Part I Photography by Takao Nagase

 布帛のプロダクトを手がけるイギリス出身のジャン=リュックは、もとはグラフィックから木工など、多様な表現手段を用いるグラフィックデザイナーだ。ファッションの正規教育を受けていない彼がファッションデザインに足を踏み入れたのは2年前。
「コロナによって引き起こされたロックダウン中、何もすることがなかったんです。そこで以前からファッションやスポーツウエアのクリエイティブに興味があったので、デザインを学ぶことにしました。システムやパターン、カッティングなどをほぼすべて、独学で勉強しスキルを身につけました。オフィスにはレーザーカッターもあるので、実際にプロダクトを作り出すこともできたんです」。Instagramにアップされ、インディペンデントのメディアやブランドからの注目を集めつつある彼のプロダクトは、デジタル上で3Dサンプルを作成できるツールCLOを使用して作り出されている。
「CLOのメリットは、デジタル上で正確なサンプルができあがることで、“無駄”を省けること。それは《ゴールドウイン 0》における環境に配慮したものづくりにも合致したコンセプトでもあります。また富山県にある《ゴールドウイン》のチームはCLOの技術にも長けていて、彼らからもたくさんのことを学びました」。無駄を削ぎ落とした彼のシンプリシティは、ものづくりのプロセスのみならずデザインにも反映されている。アウターのボタンやフード、インナーウエアとのコネクションに採用されたマグネットは、グローブをつけたままでの脱着のしやすさのみならず、ミニマルなデザインを実現するディテールとしても機能している。そうして作り上げられたデザインは、彼の自然に対するリスペクトが込められている。
「普段はロンドンに住んでいて自然と近くないのですが、休みができるとロンドンから離れた国立公園に行くんです。若いころはスキーに熱中していて、今ではハイキングやサイクリングを楽しんでいます。ポケットの形状やシームといったディテールなどは、そうした自然で見る美しい丘や谷、洞窟の形そのものや、形作るラインからインスピレーションを得ています。プロダクトが使用される環境に適した機能性を掛け合わせたデザインは《ゴールドウイン》が得意とするところで、自分のデザインのベースでもあります」

Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form, Choreography Part I Photography by Daniel Shea
Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form, Choreography Part I Photography by Daniel Shea
Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form, Choreography Part I Photography by Daniel Shea

綿密なコミュニケーションによって作り上げたファーストコレクション


二人が初めて顔合わせしたロンドンでのワークショップは、日本から数多くの生地やサンプルを持参した《ゴールドウイン》チームとともに行われたという。異なるバックグラウンドを持ちながらも、それぞれ《ゴールドウイン》のアイデンティティを現代的にアップデートする二人が日本のチームとの綿密なコミュニケーションによって一つひとつのプロダクトを作り上げていった。「ひとつのチームとして洋服を作るうえで、常に“会話”というものを大切にしています」とジュリアは言う。「『ニーズとは何か?』『どんなテイストにするか?』『デザイン、そしてディテールはどうするか』ということを、さまざまな立場の人たちから集めていきます。私たちはそれぞれの言語を持っていて、これまで培った経験や手法を《ゴールドウイン 0》に生かしています」。ジャン=リュック曰く「メールを送り、WhatsAppでテキストし、電話をかけ、Zoomでグループミーティングをしています(笑)。大きな決断から些細なことまで、自然な形で絶えずコミュニケーションをとっているんです」

さまざまな才能が結集して生み出されたファーストコレクションは、2022年10月にその全貌が明らかとなる。先んじて公開されたデジタルプレゼンテーションでは、《ゴールドウイン 0》によるメッセージを自然や身体的な動き、ブランドや人々の持つ技術や手仕事にフォーカスした多層的なシーン構成によって表現している。

 

 二人はプロジェクトの発展を通じて、ファッションデザインの未来における理想型を見出そうとしている。ジュリアは「もっと環境に配慮した方法で、より良い製品を生み出すことで、人々に良いものをシェアしていきたい」として、他のブランドやカスタマーに対してサステナブルなものづくりの重要性を伝えることが《ゴールドウイン 0》の願いだと語る。ジャン=リュックは「環境を守りながらクリエイションを実現していくこと」で、オーバープロデュースによる不必要な拡大を脱した発展を目指していくと言う。そしてこの試みは、《ゴールドウイン 0》のプロダクトに袖を通し、長く共にすることでプロダクトが日々の生活に寄り添うことで実現することとなる。記念すべきファーストコレクションのローンチによって来たるその日を、心待ちにしたい。

 

Text_JUNICHI ARAI(Righters).

 

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Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form, Choreography Part I Photography by Takao Nagase

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