Them magazine

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MUSIC
Mar 02, 2022
By THEM MAGAZINE

Interview with caroline “caroline “

“The absence of sound also makes for interesting compositional choices.”

「音の不在もが作曲の選択として興味深いものになる」

−−Mike O’Malley

 

 

廃れて干上がったプールにて、ギターやバイオリン、ドラム、パーカッションを構える8人組が、円になってひっそりと演奏を始める。

コンセプチュアルで静かな美しさを秘めるこの映像は、20202月、謎に包まれたロンドンのバンド、キャロラインと〈ラフ・トレード〉の契約アナウンスとともに公開され、世界中のインディミュージック・ファンの興味に火をつけた。「いったい、キャロラインって何なんだ?」。

 

それから2年の歳月の中で、緩やかにシングルリリースを続けたキャロラインは、満を持してデビューアルバム『caroline』を225日に発表。

大所帯バンドならではの音の嵐と渦が、滾る感情の確かな熱量をリスナーに伝えつつ、それと相反する凪のような静寂や残響、間といった、精査・制御された要素はバンドの魅力を強く決定づける。

いまだ情報に乏しく、得体の知れないバンドと言っていいキャロライン。バンドの中心メンバーである、Jasper LlewellynMike O’Malley2人に、詳しく話を伺った。

 

——キャロラインはメディア露出も少なく、ミステリアスなのですが……。まず、バンドはどのように始まったのでしょうか?

Jasper Llewellyn(以下、J)2017年に、俺とMikeCasper3人で始めた。そもそもはプライベートでただ練習するだけの集まりだったね」

 

Mike O’Malley(以下、M)「そう。週に何度か集まって、例えば10秒のアイデアを何時間もひたすら演奏し続けたりしていた。当初はこのプロジェクトを大っぴらにする野心はなかったけど、徐々に人前でライブをやるべきだと思い始めたんだ。それからぽつぽつと人に見せる機会を増やす中で、友人たちがプロジェクトに参加してくれるようになり、バンドは大きくなっていった」

 

 

——その中で、どのように現在の8人と決まったのですか?

J 「最初は特定の曲で特定のパートを演奏するために、友達が一人ずつ参加するような感じだった。俺らの持ち曲は10分近くのものが3つほどしかなかったから、1曲で演奏し、残りの2曲では演奏しない人もいたね。8人に達したときに大所帯になったと感じて、これ以上は増やさないと、みんな静かに合意していたと思う。2019年末の〈ラフ・トレード〉との契約と、その数カ月後に起こったパンデミックで、メンバーは固定された。ほとんどがパンデミックの1年以上前からプレイしていたし、グループとして維持することに意味があったんだ」

 

 

——名門〈ラフ・トレード〉との契約は、かなり早い段階だったそうですね。

M 「そう。確か56回目のライブで声をかけられたから、本当に早い段階だった。ショーが終わってすぐに、〈ラフ・トレード〉のファウンダーであるGeoff Travisが、僕らと一緒にレコードを作りたいと言ってくれて。思い返してもクレイジーな出来事だな」

 

 

——バンド名をキャロラインとした理由を教えてください。

M 「Cow Lung(牛の肺)という名の友達のバンドがあるんだけど、口頭でその名前を聞いていたからずっとキャロラインだと勘違いしていた。彼らのバンドTを見かけたときにその間違いに気がついて、次に僕がプロジェクトを始めるときにはキャロラインと名付けようと思ったんだ」

 

J 「そうだっけ? 確か電話中に俺が間違えを指摘したのがきっかけだったとおもうけど。えーとつまり、キャロラインは特定の誰かを指しているわけじゃなく、響きが素敵でいい言葉だと思って選んだんだ。バンド初期はもっとスローコアやエモの影響を受けていて、ハードなエレキギターでノスタルジックな方向性だったから、90年代にありそうなやんちゃなバンドっぽい名前が好きだったんだろうね。バンドの人数が増えるにつれて“人の名前感”は薄らいでいき、バンド名表記をすべて小文字にすることで、ただの記号的な単語としての意味合いを強くさせた」

 

——メンバー8人は、どのようなプロセスで制作するのでしょうか?

J 「まず初期メンバー3人で基本の骨組みを作ってから、バンドみんなで鳴らしてみる。その際にメンバーは全員同列・平等で、即興的に実験を楽しみながら、自分たちが好む新しい何かを見つけようする。俺らは、音と音がどのように関係し合っているのかに興味があるんだよ」

 

 

——インプロビゼーションを重視するからこそ、曲の骨組みはかなりシンプルですね。その中で、8人それぞれの楽器の音の重なりはどのように意識しているのでしょうか?

M 「8人のメンバーがいて、一度に多くの音を即興で鳴らすことができるという状況は、僕らの音楽をアレンジする楽しみのひとつだ。なぜなら、音の不在もが作曲の選択として興味深いものになるから」

 

J 「バンドがもっと流動的だったときは、『この曲ではトランペットは使わない』といえることもあったけど、今はよりグループとしての意識が強くなっているから、すべてのメンバーがすべての曲で何かしらを演奏している。しかし俺たち全員が、ただスペースを埋めるためや、意味なく付け加えたような音は大嫌いだから、無理矢理ではないね」

 

——さて、アルバムには「Desperately」「messen #7」「hurlte」と間奏のような短い曲が、シングルカットされた長尺の曲の合間に挿入されています。これはどのような意図なのでしょうか?

J 「求めたのは、オーディオ・クオリティの多様性だね。時間をかけて作った長い曲を、iPhoneで録音したデモのような短い曲と並べる。このミックス感がバランスを作り出し、長い曲の意味合いと、曲と曲の関係性を変えることができる。箸休め的な曲がないと、だんだん飽きてきちゃうよね」

 

 

——バンドにとって、ヴォーカルはどのような立ち位置なのでしょうか?

M 「曲によるって感じかな。ポピュラー音楽みたいなメイン扱いではないね。基本は楽器が優先だから、ヴォーカルのために曲を変えることはない」

 

 

——歌詞は誰が書いているのですか?

J 「ほとんど俺。最初は良さそうなメロディを適当な発声で歌ってみて、それを繰り返しながら、その音に近しい言葉をはめて歌詞にしていくんだ。もちろん言葉には意味があるから、アクシデント的に曲に意味を加えていくことになる。唯一、アルバム最後の曲『Natural Death』はテーマ重視で歌詞を書いた」

 

 

——演奏にあたって、エフェクターはあまり使わないとのことですね。

M 「ほとんどそうだね。僕はオーバードライブペダルを少し使うけど、他のみんなはアコースティックで、エフェクトはほぼ使っていないはず」

 

J 「特に深い理由はないんだ。ただ、それが正しいと思っているというか。俺らの相互作用の中で生まれた、本物の答えのようなものを、エフェクターに仲介されずに保とうとしているんだと思う。ダイレクトに伝えたいというか、俺らがエフェクトの後ろに隠れるようなことはしたくない」

 

——現代アートを彷彿とさせるミュージックビデオやアートワークには、どのようなコンセプトがありますか?

J 「うまく言葉にできないな……。強いて言うならば、視覚的に俺らの音楽を表現することを考えて実践している」

 

 

——そのビジュアル表現の多くで、梯子が登場します。バンドにとって何か特別な意味があるのでしょうか?

J 「うわ、ほんとだ! 気づかなかった(笑)。意識してなかったけど、どこかわかる気もする。機能・実用的でありながら、どこか詩的なニュアンスもある梯子は、ある意味でキャロライン的かと」

 

M 「集団として捉えたキャロラインね。音楽に関しては、機能性とは真逆を行ってるような気がしないでもない()

 

 

——アルバム発売後の予定は?

J 「また作曲とレコーディングをして、いくつかツアーをする。シンプルだけど、それだけ。できるだけ多くの場所で演奏したいね。俺ら、まだあんまりライブできてないから!」

 

 

 

caroline

caroline

(Rough Trade / Beat Records)

caroline

キャロライン ロンドンを拠点に活動する8人組バンド。2017年初頭にJasper Llewellyn、Mike O'Malley、Casper Hughesによってスタートし、現在はOliver Hamilton、Magdalena McLean、Freddy Wordsworth、Alex McKenzie、Hugh Aynsleyが参加している。デビューアルバム『caroline』を2022年2月25日にリリース。

 

Photography_ TOM WHITSON.

Text_ KO UEOKA (Righters).

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