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FASHION
Jun 16, 2022
By THEM MAGAZINE

Interview : マシュー・ウィリアムズ 《モンクレール ジーニアス 6》

《1017 アリックス 9SM (以下、アリックス)》のマシュー・ウィリアムズは今、最も勢いのあるデザイナーの一人。ファッションデザインを専門的には学んでいないものの、ミュージシャンのコスチュームデザイナーとして才能を開花させ、時代を読み取る感性とプロダクトとしての完成度を重視したデザイン哲学でスターデザイナーへの階段を駆け上がった。2020年6月には、《ジバンシィ》の新クリエイティブディレクターにも就任。継続的に手がけている《モンクレール》や《ナイキ》とのコラボレーションをはじめ、ブランドからのラブコールも絶えない。ここでは、《モンクレール ジーニアス》 でのクリエイションの背景を中心に、マルチタスキングな彼の頭の中を解き明かす。

―《モンクレール ジーニアス》のメンバーには2019-20年秋冬シーズンに加わりましたね。参加のきっかけはなんだったのでしょうか? また、レモ・ルッフィーニ=モンクレール会長兼CEOとはどんなことを話されましたか?

 

きっかけは、レモが私のファーストショーのイメージをどこかで見てくれたことです。ハードウエアやアウターウエアなど私のクリエイションと《モンクレール》はとても相性がいいと感じたそうで、連絡をもらいました。そして、実際に会ったときにプロジェクトのコンセプトやそれぞれのデザイナーが《モンクレール》のコードを独自の方法で解釈していることを聞いて、私たちは《アリックス》と《モンクレール》の間に強い絆を生み出せると確信しました。2つのブランドはもちろん異なる部分もありますが、うまく融合すれば素晴らしいクオリティのものが生み出せると思ったんです。

 

―《モンクレール》のことはコラボレーションを始める前から知っていたと思いますが、 どんなイメージでしたか?

 

もちろん随分前から知っていました。 素晴らしいショップで取り扱われていましたし、《コム デ ギャルソン・ジュンヤワタナベマン》や《トムブラウン》などとクールなコラボレーションもしていましたよね。もちろんプロダクト自体が素晴らしいのは言うまでもありません。そして、何よりもニューヨークやロサンゼルス、ロンドン、パリなどで見た《モンクレール》のショップが強く記憶に残っています。それは常にウィンドウディスプレイにインパクトがあったから。とても生き生きしていて刺激的で、店に入りたいと思わせるようなものでした。おそらくブランドのウィンドウディスプレイの中では最も好きでしたね。もうひとつ印象的だったのは香りで、いつ行っても店内には独特な香りが漂っていたことを覚えています。そういった店は当時少なかったですし、全方位的な素晴らしいブランド体験を提供していると感じました。その後、イタリアに住み始めて感じたのは、ティーンエイジャーからお年寄りまであらゆる世代に着られているブランドだということ。《モンクレール》のプロダクトがどれだけユニバーサルかということに気付きました。

6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER
6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER
6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER

―実際に協業を始めてみて,どうでしたか?

 

プロジェクトに着手したときはイタリアに住んでいた(現在、マシューはフランス在住) ので、同じくイタリアを拠点にする《モンクレール》のチームと密にコミュニケーションを取りながら、これまで2シーズンのコレクションを制作することができました。 お互いミラノにデザインスタジオがあるので、たくさんの時間を共に過ごし、本当の意味でコラボレーションを通して特別なプロダクトを生み出すことができたことは本当にラッキーでしたね。そのコレクションはどちらか一方だけでは決して生まれることのなかったものですし、2つの世界が巧みに融合しています。

 

―《モンクレール ジーニアス》で生かした《アリックス》らしさとは、どんなところですか? マシューさんの代名詞ともいえるハードウエアの使い方についても聞かせてください。

 

ひとつは、これまでの《モンクレール ジーニアス》ではあまり使われていなかったガーメントダイです。《アリックス》でも取り組んでいて、私たちらしさを感じるアイデアです。また、サステイナブルな素材や技術も取り入れました。例えば、再生ナイロンのエコニールを使ったレギンスやトップス、ポプリンのようなオーガニックの素材とメンブレンなどのテクニカル素材を合わせたジャケットなどですね。ハードウエアに関しては、特にルールはなく、ウエアにもアクセサリーにもふさわしいと思ったときにだけ取り入れています。

6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER
6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER
6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER

―コレクションを制作するときはどこからスタートし、どのようなプロセスで進めているのでしょうか?

 

素材から始めることが多いですね。まず何度もテストを繰り返して、ガーメントダイの反応を見たり、ボンディングや縫い合わせ、超音波接着など異なる技術を駆使してボリュームの出方を調べたりしています。時間がかかるので、コレクション制作はそこからスタートするんです。その後、モデルと一緒に立体的なデザインに取り組んだり、スタイリングをしたり。 流れとしては、自分たちのスタジオで作業してから、《モンクレール》のチームとそれぞれのプロダクトについてどのようにアプローチするのがベストか、いかに改良できるかということをたっぷり時間をかけて話し合います。今ではもう、私たちは言語やフィットを共有しています。また、継続的な取り組みの中にはディテールを改良していくということもありますね。例えば、ネックバックル付きのジャケットはファーストシーズンに発表したものですが、本当にタイムレスなデザインなので引き続き提案しています。素材やスケール、シルエットを変えるだけのほうがいいこともありますし、要は組み合わせです。

 

―次々に新しいものを生み出すことがすべてではないということですね。

 

例えるならば、なぜある店のピザは他の店より美味しいのかということ。使う材料は全く同じであっても、水の量や生地を寝かせる時間、ソースに使うトマトの原産地といったことが重要で、その絶妙な組み合わせが最高のピザを作っているんです。洋服も同じで、ジャケットはジャケットでも素材や製作工程などあらゆることの融合によって、ユニークで真似できないものが生まれます。それが新しさに繋がると思います。

 

―では、それぞれのコレクションには異なるテーマを設けていますか? それとも継続的なものという感覚でしょうか?

 

継続的に発展させ続けているという感じですね。シルエットや色、素材などのテーマはありますが、「今シーズンはマッターホルンをイメージした」といったようなことはありません。テーマを決めてデザインするというのは、好きではないので。

 

6 MONCLER 1017 ALYX 9SM

―デザインに関しては音楽を聴きながら考えることが多いそうですが、どんなジャンルの曲を流していますか? また、最近お気に入りのミュージシャンがいれば教えてください。

 

ラップやテクノ、シンガーソングライター系、レゲエ、ダンスホールなどあらゆるジャンルを聴くので、本当に折衷的です。ロックダウン中に《モンクレール》のためにスポティファイのプレイリストも作ったので、そこからも私の好みを知ってもらえると思います。
最近気に入っているのは、クレイロ (Clairo)やティーゾ・タッチダウン (Teezo Touchdown)、プレイボーイ・カルティ (Playboi Carti)。21サヴェージ (21 Savage) の新しいアルバムもいいですし……。挙げ始めたらキリがないですね (笑)。

 

―そういったミュージシャンの着こなしがデザインに影響を与えることはあるのでしょうか?

 

プレイボーイ・カルティやスケプタ (Skepta) といった一緒に過ごす友人のミュージシャンから着想を得ることはあります。ただ、それは彼らの着こなしをコピーするということではなく、同じ空間にいるときにそれぞれのエネルギーや雰囲気からお互いインスパイアされるという感じです。

 

―《アリックス》に《ジバンシィ》、そして《モンクレール》だけでなくさまざまなブランドとのコラボレーションを手がけていますが、それぞれデザインへのアプローチは違うのでしょうか?

 

そうですね。コラボレーションに取り組む醍醐味は、それぞれのプロセスで異なることを学べることだと思います。制作にかかる時間もバラバラですし、ブランドや企業によって強みや規模も異なります。例えば、《ナイキ》には《ジバンシィ》のようなアトリエはないので、サンプルを制作する過程はまったく異なります。逆に、《ナイキ》では独自開発された革新的な素材を使うことができます。なので、それぞれのプロジェクトから唯一無二のことを学んでいます。さまざまな企業とのコラボレーションは私をデザイナーとして成長させてくれ、結果的にそれが私の取り組むすべてのプロジェクトをより良いものにするために活かされていると思います。

 

6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER
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6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER
6 MONCLER 1017 ALYX 9SM 2020-21FALL/WINTER

―コラボレーションを通して多くのことを吸収すると同時に、還元もしているということですね。

 

はい、そのとおりです。そして、コストについても考えています。最終的な販売価格を考えると、ラグジュアリーブランドではない《アリックス》や《ナイキ》では使えない素材やディテールもあります。ただ、それは価格が違うから異なるアプローチを取っているというだけです。価格がプロダクトの良し悪しを決めるのではなく、それぞれのブランドが持つ制約の中で最高品質のものを生み出す方法を見つけることに挑んでいます。

 

―それぞれのプロジェクトに多くの情熱と時間をかけているように感じるので、かなり多忙なのではないかと思います。多くのプロジェクトを並行して進める秘訣とは何なのでしょうか?

 

何も考えないことです(笑)。私は今日しなければならないことだけを考えることにしていて、明日は何をするか知りません。今やっていることが終わったら、カレンダーで次1時間にやることをチェックする。ただ、それだけです。だから、すべてを一度に考えようとはしないですね。

 

―なるほど。でも物理的な時間は限られていますよね。1日にどのくらい働いているんですか?

 

難しい質問ですね。私は仕事が大好きですし、自分がやっていることをあまり“仕事”とは感じていないので。仕事をしている時間と聞かれたら、起きている間はずっとかもしれないですね (笑)。

 

―そんな中でもインスタグラムによく投稿していますが、ソーシャルメディアの使い方にはどのような考えを持っていますか?

 

特に新型コロナウイルスのパンデミックの最中にある今は、人々が連絡を取り合い、孤独を感じずに繋がり、友人や家族など自分が気に掛ける人たちの興味を知るための素晴らしいツールになっていると思います。このパンデミックにより、人々は実際に社交するためにソーシャルメディアを利用するようになりましたよね。私自身は仕事の過程や手がけたプロダクトを見せることもありますし、興味を持っているものをランダムに投稿することもありますが、それぞれ自分が正しいと感じるように使えばいいと思います。ただ、特に今日の若者にとってはソーシャルメディアがある意味、中枢神経のようになっていると感じます。

 

―このパンデミックにより、クリエイションに向き合う姿勢や考え方はどのように変わりましたか?

 

何とも言えないですね。今あまり旅をしていないのは明らかですが、同時にそれも良いことなのかもしれないと感じます。スタジオで自分が取り組んでいるプロジェクトだけを考えられる時間を持てますし、少しゆったりとしたペースを楽しんでいます。そして、クラブやディナーに出かけることのない今の生活の中で、“快適さ”がとても重要な要素になっていることを認識せずにはいられません。フィット感や靴の履き心地、着こなしやすさなどを考えていると無意識のうちに頭によぎって、締め付けたり着にくかったりするものは避けるべきだと思わせます。ただ、今はそうであっても、どんなコレクションを作って、その約1年後に発売されるときに世界はどうなっているのかということはわからないですよね。だから、いつだってバランスが大事だと考えています。つまり、現在のようなムードにも将来なり得るムードにも合うバランスで、それを見つけることはデザイナーにとっての永遠の挑戦だと思います。そして、才能のあるデザイナーとそこまでではないデザイナーを分けるのは、今この瞬間に自分自身を未来に投影して、1年以上先の世界でも関連性があり欲望を掻き立てるものを作るアイデアではないでしょうか。

 

Interview&Text_JUN YABUNO.

Edit_JUNICHI ARAI(Righters).

6 MONCLER 1017 ALYX 9SM
MATTHEW WILLIAMS

マシュー・ウィリアムズ シカゴ生まれ、カリフォルニア育ち。アートや音楽、ファッション業界のトップタレントと活動し、ストリートカルチャーに根差した美的領域に磨きをかけ《1017 アリックス 9SM》のコレクションに反映している。2020年6月に、《ジバンシィ》のクリエイティブ・ディレクターに就任。

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