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Oct 24, 2017
By THEM MAGAZINE

【ロングインタビュー】ROGER BALLEN (ロジャー・バレン)

Photography_Yusaku Aoki  Edit_Sohei Oshiro

 

【ロングインタビュー】ROGER BALLEN (ロジャー・バレン)


過去に小誌で特集した「南アフリカ」号にて、表紙やファッションストーリーを手がけてくれ、インタビューも行ったヨハネスブルグ在住の写真家、ロジャー・バレン。彼の約40年にわたるキャリアを一望できるようなエキシビションが、東京・広尾の「EMON  PHOTO GALLERY」にて開催中だ。本展覧会の開催を機に来日したロジャーに再びインタビューを敢行し、彼のクリエイションの根源についてさらに深く訊ねてみた。過去のインタビューと合わせたリミックス版として掲載する。

ロジャー・バレンをフィーチャーした弊誌の南アフリカ特集号。衣装は共に2017S/Sの《コム・デ・ギャルソン》

ファッションフォトとは何か

 

——今年1月に南アフリカを訪れた際はありがとうございました。今あらためてご自身が手がけたファッションストーリーを見て、いかがでしょうか?

 

今でも素晴らしい仕事だったと思っているよ。とても楽しかったしね。

 

 

——あなたは通常ファッションシューティングは行いませんが、ファッション誌である弊誌のオファーは引き受けてくれました。なぜでしょうか?

 

何かに縛られることなく、私の自由にファッションを撮れるのは楽しいからだよ。とくにファッションを意識する必要はなく、いつも通りの撮り方で行う。ただ単純に被写体が着ている服が違うということだけなんだ。だから私にとって今回の撮影は居心地のよいものだった。商業的なことをする必要がなかったから、とてもリラックスした撮影だったね。

 

 

——なるほど。私はあなたのファッション写真を見たことがなかったので、なぜなのか疑問に思っていました。

 

たしか2005年か2006 年かに『The New York Times Magazine』がファッションシューティングをやらないかと訪ねてきたんだ。女優のSelma Blair(セルマ・ブレア)を被写体にしてね。結果、その写真は賞賛され、その年のベストファッションフォトに選ばれたんだ。唯一それだけしかファッションシュートはやったことがない。私のやっていることは普通の人からみたらすごく奇怪なんだと思う。それ以降は一回もやっていないんだ。もし私がニューヨークや東京、パリに住んでいたらファッションの撮影もしたかもしれないが、南アフリカにいたら魅力的にはみえないんだよ。南アフリカには他に撮るべきものがたくさんあるからね。

 

 

——わかりました。ファッションが嫌いなわけではないのですね。

 

もし『Them magazine』が普通のファッションシュートをしてくれと訪ねてきたら、私は引き受けなかったよ。創造的で面白い取り組みでなければファッションを撮る意味はないからね。だから今回はロジャー・バレン流のファッションとでもいえるかな。私の自由にやらせてもらった。プロダクトをよく見せるためだけのファッションフォトと、私のファッションフォトは違うんだ。ファッションの撮影だからそこにファッションがあり、服があるのは当然なことだが、被写体や被写体の置かれている状況を私の好きな世界観に変換することができるからね。その結果、他の雑誌よりもっとインパクトのあるヴィジュアルに仕上がる。ファッションフォトがいつも直面している問題は、『VOGUE』のようなハイソなファッション誌なんかはすべて同じだということだ。わかるか?どの写真も同じなんだよ。美しい服に、美しいモデル、そして美しいロケーション……私にはなぜあんなにインパクトが無く、すべて同じに見えるような写真ばかりが載っているのかが理解できないよ。すべてが同じで、すべてが完璧なんだ。私にとって、それはファッションを見せる方法としてはすごく平凡でつまらない手法だと思っている。今までに見てきたイメージと何ら変わらないんだ。100冊のファッション誌を開いてみたって、なんの記憶にも残らない。でも、個人的な意見だけど、私のファッション写真はインパクトがあるものに仕上がったと思う。この写真を見て、今まで見てきたファッション写真との違いに驚き、「何を着てるんだ?どのように撮ったんだ?なぜこのモデルを起用したんだ?なぜこの場所で撮ったんだ?」そう受け手側が疑問を抱くこと。それこそが真の写真なんだ。

 

 

——モノクロの作風で知られるあなたが、弊誌のファッションシュートにおいてカラーでも撮影していのはなぜでしょうか?

 

衣装を見てカラーのほうが良いと思っただけさ。色が面白い衣装をわざわざモノクロにする必要はないからね。

弊誌の南アフリカ特集号のファッションストーリーからの1カット。衣装は2017S/Sの《バレンシアガ》

アーティストとしての生き方

 

 

——次に、あなた自身のことについて訊かせて頂けませんか? あなたは写真を撮り始める前、地質学者として働いていましたね?

 

いや、写真は小さい頃から撮っていたよ。1960年代のニューヨークで私の母がマグナムでフォト・エディターとして働いていたんだ。その影響もあって、13、14歳のときには写真に興味を抱き始め、キャリアをスタートさせた。今回新しく「Thames & Hudson」から出版された写真集や「EMON  PHOTO GALLERY」での展示は、私の長きに渡るキャリアの回顧的な内容になっている。

 

 

——とても素晴らしい写真集や展示だと思いました。その話は後でもう一度ゆっくり聞かせてください。まず、あなたのキャリアについて教えていただけませんでしょうか?

 

私は約半世紀もの間写真を撮ってきたが、商業写真というものを撮ってこなかったんだ。だから生計を立てるために、長きに渡ってプロフェッショナルな地質学者として働いていた。写真家としての自分と、地質学者としての自分。それはとてもよいバランスで成り立っていて、自負出来るものだった。地質学者として働きつつ、自分が撮りたい写真だけを撮る。ゴールは写真を撮り続けることであって、写真家として生きることではないんだ。だから他のことを仕事にした。それはとても良いことだよ。何かにとらわれることなく、自分の撮影の仕方を自由に発展させることが出来るからね。もしあなたが私に普通のファッションシュートをしてくれってお願いしたって私には出来ないし、他の写真家の方がずっとうまくやれるはずだ。もし若い頃に商業的な写真を撮っていたら、私は写真家としてうまくいかなかっただろう。私の写真なんて誰も欲しないどころか、気にもかけないはずだ。でも今はみんなが私のユニークな写真に興味を持ってくれている。

 

 

——日本は他国に比べて現実主義的社会だと思います。30歳前後を境に理想主義的な生き方を否定する傾向がある。でも、他国、特に南アフリカにおいては、アーティストとして自分のやりたい仕事と生計を立てるための仕事、二つの職業を持つ人が大勢います。そしてあなたのように、アーティストとしての職業においては商業的な仕事は受け付けない。しかし、日本のアーティストは商業的な仕事も生きるためには仕方がないと思っています。

 

おそらく日本も含めた多くの国で問題なのは、アーティストとして生きることの難しさだ。(アーティストとして)生き延びるチャンスなんて滅多に訪れない。だからもし他に何か専門職がなかったら、30歳になったときに諦めてしまうんだ。20歳のときには100もの言い訳がいえるけど、30歳になったらその数は20に減って、40歳になったら5つになる。アーティストとしてではなく、それをビジネスとして生きていかねばいけないからね。だから他の職業を持つということはとても大切なんだ。心のバランスがとれるからね。毎日9時から17時まで働いて、写真を撮ればいい。ただ、もう一つの職業は何でもいいわけではなく、アーティストとしての職業とバランスがとれるような正しい専門職を探さなくてはならなくてはならないよ。たくさんの時間と労力を要する職もあるからね。

(©︎Roger Ballen) 1994年発表の写真集『Platteland』から。ヨハネスブルグの貧困層を捉えた初期の傑作。

なぜ、写真を撮るのか

 

 

——あなたの作品について訊かせてください。あなたは南アフリカにおける「アウトサイダー」と呼ばれる人たちを撮影し続けていますが、それはなぜでしょうか?

 

私は南アフリカに移住してからではなく、写真を始めた頃から約50年にわたって社会的弱者を撮り続けているんだ。それがなぜかと聞かれると、正確に答えるのは難しい。なぜなら彼らへの関心は、私自身の根幹に関わってくることだからね。

 

 

——わかりました。では、なぜそもそも南アフリカで創作活動をしようと思ったのですか?

 

私は南アフリカをベースにしてから30年以上経つが、元々は地質学者としてこの地に赴いたんだ。アフリカの地質はとても興味深いからね。ただ、そこで暮らす人々や風景を見て、写真家としての私が黙っていなかったんだ。

 

 

——あなたは80年から90年代にかけては、南アフリカの風景写真やストレートなポートレイト写真を撮っていましたが、2001年に出版された『Outland』を境に次第とコンセプチュアル・アート寄りになっています。伝統的なドキュメンタリー写真のスタイルから、今の心理劇的な作風に移行したのには何がきっかけだったのでしょうか?

 

何らかのきっかけがあるわけではなく、すべてはゆっくりと起こっていったんだ。まず1994年に『Platteland』というアーティストや奇妙な人たちを被写体にしたセミ・ドキュメンタリーの写真集を発表し、翌1995年の初頭にヨハネスブルグのフリークスの人たちを撮影するプロジェクトを始めた。1997年からは普通の写真ではなく、何かしらのテーマを設けた劇場性のある写真を撮ろうと思い始めた。その時点で私は、自身を単なるフォトグラファーではなく、フォトグラファー・アーティストとみなすようになった。ただそこにある物事を切り取りとった写真ではなく、私独自のテーマや美学を構築し始め、ロジャー・バレンならではの視点だと思われるような、よりコンセプチュアルで奇妙な作品を手がけるようになったのさ。私が思い描くヴィジュアルが具体化され始めた2000年代半ば頃には、人々は他者の作品と私の作品との違いに注目するようになっていたと思うよ。

 

 

——そうだったんですね。確かに『Outland』からは動物やドローイングなど、劇場的な要素が多く登場しますね。

 

そうだ。この時期、私の被写体となった人たちの多くが自宅の壁に絵を描いていたんだ。そこからドローイングが私の写真に入り込むようになり、最終的にはドローイングだけではなく、本物の動物や剥製、ペイント、彫刻なども用いるようになった。独自の世界観を構築する中で、それらは重要な役割を担っているんだ。

 

 

——あなたをドキュメンタリーの写真家だという人もいますが、それは見当違いですね。

 

私はドキュメンタリーの写真家じゃない。もっと内省的、心理的なものだ。単純にそこに見えているものではなく、もっと複雑なコンセプトや特定の文化を探し出す。政治や社会情勢の探求には興味ないね。人間の条件(human condition)や人々の精神への探求に惹かれるんだ。写真がそれに呼応するよう心がけている。私の潜在意識を刺激するようなね。それが写真の意味するものだよ。

 

 

——あなたのいう「人々」のなかには、あなた自身も含まれていますよね。

 

私は誰かのための写真を撮っているわけではない。無論、私自身のためでもない。他人がどう感じるかを予想できたりするものには興味ないんだ。写真が私を刺激し、喚起する。私はそれに応じるだけだ。

(©︎Roger Ballen)  ロジャーの代表作にして彼の名を世の中に知らしめた2001年発表の写真集『Outland』より。ムービーも必見。

 

 

表現の可能性について

 

——作風も常に変わり続けていますし、あなたは変わることや新たなことをまったく恐れていないように思えます。最近は『Theatre of the Mind』というショートフィルムを撮っていましたよね。単刀直入に聞きますが、なぜ写真ではなく動画を選んだのでしょうか?

 

ダイ・アントワードという南アフリカ出身のアーティストがいて、彼らに頼まれて2012年に『I Fink U Freeky』という曲のミュージックビデオを撮ったんだ。そのビデオは大成功を収めたんだが、その制作過程で私は動画のポテンシャルを学んだんだ。それは商業的なポテンシャルということではなく、私自身の世界観や美学を拡張する新しい方法なんだ。私が作った動画を見れば、よりよく私のアートフォームを理解することができるだろうし、動画そのものがアートワークとなる。もちろん、アートワークとみなされるのはその動画が確かなレベルに達しているときに限るが。でも正直なところ、動画を撮ることになるとは思ってもいなかった。とても自然にものごとは進んでいったんだ。写真とまったく同じことだよ。写真を撮り始める前は、写真のことなんて全然考えなかったし、なんのプランも無かった。写真であれ動画であれ、純粋に撮りたいと思うときが来たら撮ればいいだけの話だ。そこへ自ら近づいていき、よい仕事になると確信する。これがいつものやり方だよ。とてもたくさんの予期できないコンビネーションがあって、どうやってゴールに辿り着けば良いのかは誰もわからない。だからこそ面白いんだ。

 

——将来長い尺の映像を撮る可能性がありそうですね。

 

私の写真家としてのキャリアを回顧するムービーは企画中だよ。

 

 

——それはドキュメンタリーになるのですか?

 

一部はドキュメンタリータッチになるだろうけど、おそらくアートムービーの範疇に落ち着くよ。単に話したりするだけのものにはならないね。人々に疑問を持たせ、刺激するような創造的なものにしたいと思っている。

 

 

——楽しみにしています。ポートレイトを撮るときは何を考えているですか?

 

形(form)のこと以外、何も考えていない。形は写真が何を伝えたいかを示しているからね。被写体の心情云々より、構図こそが大事なんだ。形を優先することで、もっと深く複雑で心理的に、写真が何を伝えたいかを示してくれる。

 

 

——写真集とエキシビションでは、どちらがあなたのゴールでしょうか?

 

私のキャリアの中で一番大切なのは、写真集だ。エキシビションではないし、記事でもない。登山でいうならば、『Platteland』などは山のテッペンだったよ。その時点での私のすべてがその一冊に凝縮されている。ただ、いつも(それ以外にも登るべき)違う山々があるんだけどね。思いついたアイデアを結合し、昇華し、完成させる。その作業にはいつも最低5年はかかる。昨年は4冊の本を出版したけど、改訂版や回顧版だったからできたことだ。いちからアイデアを出してオリジナル写真集を作るとなると、やはり5年は必要だね。

 

 

——多くのあなたの写真は6×6(正方形)の写真ですが、なぜでしょうか?

 

6×6は完璧な形なんだ。写真を見たとき、すべてが平等に見える完璧な形だ。ひとつのポートレイトが他のものより強くなったりすることがない。私は形式主義者だから、すべてが均等に見えていて欲しいんだ。そこには完全な謙虚さが存在し、正方形のフォーマットこそがそれを表現しうるんだ。もちろん今回のファッションシュートのように、撮影の目的によって変えたりすることはあるがね。

 

 

——満足するフォーマットにするために、6×6にトリミングすることもありますか?

 

たまにするよ。写真そのものが大事であって、トリミング自体に特別な意味はないんだ。

 

 

——フィルムカメラかデジタルカメラかにこだわりはありますか?

 

最近のいくつかの写真はデジタルで撮ったよ。今ではデジタルの性能はとてつもなくあがっているからね。デジタルを使うのを少しためらっていたんだけど、ライカがモノクロームとミラーレスのデジタルカメラをプレゼントしてくれたのがきっかけで使うようになったんだ。

(©︎Roger Ballen) 2014年発表の 『Asylum of the Birds』より。“鳥”をテーマにさまざまなセットで撮影したアートフォト・シリーズ

 

 

最新作とエキシビジョンについて

 

——なぜこのタイミングで回顧的な写真集『BALLENESQUE』を刊行したのでしょうか?

 

出版社の「Thames & Hudson」から、5年程前にオファーがあったんだ。ただその当時はちょうど『Asylum of the Birds』の制作に取り掛かっていたからタイミング的によくなかった。2014年に『Asylum of the Birds』を刊行して、ひと段落ついたからこの話を引き受けたんだ。

 

 

——まさにあなたの約50年のキャリアがこの一冊に凝縮されていますね。

 

そうだ。写真を撮り始めた頃から、3年間に渡ってネズミを撮り続けた最新のプロジェクトまで、私のすべてが収録されている内容になっているんだ。

 

 

——あなたにとって一番大切なのは写真集だとおっしゃっていましたが、一つのプロジェクトの集大成として写真集を刊行した後は、次のテーマが見つかるまで何をされているのですか?まったく写真を撮らない期間もあるのでしょうか?

 

それはないかな。それが大きいプロジェクトであれ、小さいプロジェクトであれ、常にいくつものプロジェクトを同時進行しているからね。物事は常に重なり合いながら進んでいくんだ。

 

 

——なぜ今回、日本でエキシビションを行うことになったのでしょうか?

 

「EMON  PHOTO GALLERY」にパリフォトで出会ってから、展示のオファーがあったんだ。ちょうど『BALLENESQUE』を刊行したばかりだから良いタイミングだったと思う。

 

 

——来日は2回目ですか?

 

日本に来るのは今回で4回目だね。1970年代に初めて訪れた。そのときの写真もこの『BALLENESQUE』に収録されているよ。2回目は1988年。そして3回目は3年程前に「KYOTOGRAPHIE」への出展をきっかけに来日した。

 

 

——以前、ヨハネスブルグのアトリエでも作品を拝見させて頂きましたが、やはりとても美しいプリントですね。これだけの数のプリントをすべて南アフリカから持参したんですか?

 

そう。プリントだけでなく、ドローイングの作品も持ってきたんだ。これからギャラリーの壁や柱にもドローイングする予定だよ。

「EMON PHOTO GALLERY」内の様子。初期のものから最新作にいたる数多くの写真作品ほか、ドローイングやオブジェも展示されている。プリントは購入も可能だ。

 

 

【展覧会情報】

BALLENESQUE

TERM : 10月20日(金)〜12月20日(水)

PLACE : EMON PHOTO GALLERY

ADDRESS : 東京都港区南麻布5-11-12, togo Bldg.B1

OPENING HOURS : 11:00-19:00 (月〜金), 11:00-18:00 (土) (CLOSED:日・祝日)

URL : www.emoninc.com

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