Them magazine

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INTERVIEW
Nov 18, 2023
By THEM MAGAZINE

About LES SIX with RYOHEI KAWANISHI

 ロンドンやニューヨークを舞台に、これまでさまざまなプロジェクトを手がけてきたデザイナーの川西遼平。そして現在東京を拠点に、彼がクリエイティブ・ディレクターを務める《レシス》。11月22日、2024年春夏シーズンのコレクションムービーが発表される。今年の3月には新宿・歌舞伎町のホストクラブで発表したランウェイショーを行った、《レシス》が追求するものづくりとは。これまで軌跡を辿りながら、そして彼の言葉を通じて、川西遼平の現在地とその背後にある思いを探りたい。

 

 2015年に設立した《ランドロード》によって、川西遼平の名は一躍衆目の知るところになった。そして活動を開始してから10年にも満たない今に至るまでに、彼はファッションの世界に数多くの実績を残してきた。セントラル・セントマーチンズを卒業後、奨学金制度によってNYへと移り、パーソンズで修士号を取得する。同校で教鞭をとりながらも、手がけた《ランドロード》はラッパーがこぞって着るストリートウエアとしてブレイク。MoMAの展覧会に最年少で作品を出展し、Arcaの衣装を制作までもこなす世界で活躍する新世代の日本人デザイナーとして、メディアやファッション・フォワードな人々の注目を集めてきた。2017年には現在の彼のメインワークとなる《レシス》を設立。弊誌でもインタビューを実施した。かつてフランスで活躍した作曲家集団を冠したブランドは、グラフィックデザイナーやジュエリー職人、革職人や彫金師などの多岐にわたるジャンルで活躍する人々が集う若手創作家集団として立ち上がった。「LEGALIZE CONTRACEPTIVE FOR TEENAGERS(=10代の避妊を合法に)」や「ARE YOU COMING TO THE ORGY?(=乱行パーティーに来る?)」といった過激なフレーズを刺繍する挑発性。一方でスーツと同じ製法で仕立てたコーチジャケットや、彫金師が手で磨いて燻したシルバーのウォレットチェーンなど、コンセプトである「究極に無駄な贅沢」なものづくりを目指していく。そして2020年、コロナ禍を経て川西は帰国。故郷鳥取に拠点を移し、《レシス》をプレタポルテラインとして本格始動させることとなる。コレクションはウールで仕立てたクラシックなデニムや、ヨーゼフ・ボイスが着用していたような60年代のドイツ軍のレインコートといった硬派なラインナップ。生活のためにと米軍支給品の縫製工場を生産背景に始めた《ランドロード》のキャッチーなストリートウエアとは一線を画した、学生時代にコンセプチュアルなものづくりを学び、服飾への並々ならぬ情熱を持った川西本来のクリエイティブを発揮させるアウトプットとなっていく。鳥取にアトリエを兼ねた直営店を構え、実業家・編集者・著述家である松岡正剛と1年以上をかけて作り上げたコラボレーションコレクションも発表。植田正治のアシスタントを務め、今なお鳥取で活動する写真家の池本喜巳による砂丘でのビジュアル撮影など、川西の表現は強さと独自性を帯び、より加速していく。

 

 2022年になり、川西は東京での活動を開始する。2023年春夏シーズンでは、「昭和のムードを現代で映しとることできる唯一の写真家」と、川西がかつてからリスペクトしていたという写真家薄井一議がルックを撮影。そして撮影地の新宿・歌舞伎町という舞台は、秋冬のランウェイショーの開催場所になっていった。変遷を辿ってきた《レシス》のクリエイションの新たな方向を指し示した2シーズンを経て、2024年春夏へと続いていく。

  コレクションテーマは“ALT-NATIVE PERSPECTIVE”。「インターネットやゲームの世界から見た架空の第三次世界大戦というものは、一体どのようなものなのかを表現した」と川西は語る。アメリカの4chanの謎めいたスレッドやソーシャルゲーム内での連携、Discordでの交流、ディープウェブの不透明な存在が生み出す幻想的、魅惑的な世界。川西がデザインを通じて探求してきた社会におけるユートピアやディストピア、現実と映画やゲームの中のフィクションとの交差点は今シーズン、前衛的な軍服のデザインやゲームの世界観とが融合しながら、ヒーローや悪役のキャラクター像となって表れている。バラクラバやスカーフで顔を覆うモデルが身に纏うのは、ミリタリーとワークウエアをベースとした、一見するとハードなストリートウエア。Tシャツのグラフィックには“BELIEVING IN GOD THE LAST ANARCHY”の文字が踊り、ニットには滲んだアメリカ国旗があしわれた。2023年春夏で登場した海外紙幣の絵柄を全面にプリントしたTシャツもリバイバル。デニムやフィールドジャケットは、まるで戦後、廃墟で発見されたようなダメージ加工が施されている。「ブランドとしてのシルエットを確立したと思う」という通り、バギーなダック地のショーツは《レシス》のアイコンであり、川西自身のユニフォームでもある。ワークウエアやテーラードなど、メンズウエアのオーセンティックなものをベースとし、なかでもボンバージャケットやカーゴパンツ、パラレスキューパンツにカモフラージュ柄など、これまでよりミリタリーテイストが一層強まっている。「もともとはミリタリーウエアが大嫌いだった。《ランドロード》の後はしばらく見たくなかったくらい。かつては戦場で着られる機能服をストリートで着る価値がどこにあるのかということも考えていた。だけど今では、現実世界が仮想敵を作るような、不安定な世界情勢になっている。ウクライナの戦争をはじめ、日本でもインフラの影響であらゆるものの値段が上がり、世の中に対する不満が起こっている。ネットの社会に溜まったそうしたフラストレーションを表現するようなクリエイションをファッションとしてやろうと思った」

 このラインナップは、東京へ拠点を移したことで大量のヴィンテージを収集し、サンプリングをもとに作り込んでいく方法へと変わっていったからだという。「日本に戻ってきたら古着に面白さを感じるようになった。ニューヨークではデザイナーズのビンテージが多かったけど、日本にはあらゆる種類の古着が集まってくる。それと現実的にチームが増えるにつれて、実際の洋服をベースにコミュニケーションを取る必要性が出てきた。もともとはそこまでディテールに興味がなかったけど、新しいスタッフがディテールオタクであることにも影響を受けて。今シーズンでは、テーマに沿って大戦時のミリタリーウエアを収集し、そこからコレクションを発展させていった」

 

 11月22日には、コレクションムービーの発表を控える。先んじて公開されたルックには芸人で俳優、演説家である鳥肌実の姿もある。昨シーズンは新宿・歌舞伎町のホストクラブでランウェイショーを行い、ホストやファッションデザイナーの津村耕佑がランウェイを歩いた。川西はファッションの本場であるロンドンやニューヨークで学び、デザイン活動を行ってきた。しかしそのキャリアはメゾンやコレクションブランドで経験を積むといった紋切り型のプロセスではなく、さまざまなプロジェクトを縦横無尽に行き来し、独自の道を切り開いてきた。独立独歩という言葉がまさにあてはまる川西は今回、そしてこれから《レシス》でどのようなクリエイションを目指していくのだろうか。「前回の『dystopia after Dystopia』ではラグジュアリーの消費がテーマだった。例えばメゾンブランドの洋服の型をサンプリングして、異なるメゾンの要素を掛け合わせることで、ブランド同士をミックスする彼らの文化を表現した。ラグジュアリーを実際に消費しているホストという文化を用いることで、日本にしかできないクリエイションができるんじゃないかと思った。《レシス》ではずっと、ファッションにおけるラグジュアリーの意味を探し続けている。現代でラグジュアリーメゾンが失ってしまったクリエイティブフリーダムを、自分たちはここ日本で追求したいと思っている」

 

LES SIX 2024ss Collection「ALT-NATIVE PERSPECTIVE」

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