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INTERVIEW
Dec 18, 2023
By YATA CHIHIRO

Interview with Kenny Beats

若きトッププロデューサー・Kenny Beatsが初のソロアルバム『LOUIE』に込めた思い

 

今、ヒップホップ界で最も注目されるプロデューサーのひとりが、ケニー・ビーツ。サンダーキャットやヴィンス・ステイプルズ、ジェイペグマフィア、デンゼル・カリー、リコ・ナスティーなどのトップアーティストと共演、プロデュースを行うアメリカ出身の32歳だ。活動の拠点はL.A.だが、ヨーロッパやアジアなどのアーティストと積極的にコラボレーションし、その名を世界に轟かせている。

 

昨年、レコードでリリースした自身初となるソロアルバム『LOUIE』では、上記アーティストを含め、コリー・ヘンリー、ベニー・シングス、ピンク・シーフ、マック・デマルコ、オマー・アポロ、スロウタイ、ディージョン、レミ・ウルフ、マシュー・タヴァレス、イーゴンといったケニーの盟友たちが密かにレコーディングに参加し、話題になった。今年8月には、『LOUIE』の日本版CDが発売されたため、日本のイベントに出演するべく9月に来日。16日には渋谷・Spotify O-EASTにて日本初となる単独公演、17日にはULTRA JAPANに出演し、大観客の前でDJパフォーマンスを披露した。

 

プロデューサーとして、ソロアルバムは作らないと公言してきたケニーが、なぜ『LOUIE』を制作したのか。そしてそこに込めた思いとは。来日したケニーにインタビューを行った。

ーー若くしてトッププロデューサーになり、名だたるアーティストと仕事をしているあなたが、今回ソロアルバムを作るに至った経緯を教えてください。

「僕は15歳から、ラッパーをはじめとするアーティストのプロデュースをしてる。19歳でケンドリック・ラマー、20歳でマック・ミラーをプロデュースしたよ。その頃は、音楽で語るべき自分のストーリーがなくて、アーティストのプロデュースをするほうが面白いと思っていたんだ。そうやってプロデューサーとして、彼らアーティストの物語、言葉を引き出す手助けをしていたんだけど、去年父親が癌になったという知らせを聞いて、音楽で父に贈り物をしたいと思ったよ。それからは、他の誰でもなく私と父にとって意味のある作品にするために、父が昔聴いていた曲や私が子供の時に撮られていたビデオの音声をサンプリングして、私と父親にしか分からない曲を作っていった。このアルバムは、ただ単に、『お父さん大好き』というものではない。私の父は麻薬中毒者だったから、父を嫌っていた時期もあるくらいだよ。ついに曲が出来て、それを友人に聴かせると、家族間の難しい関係性や苦労を抱えた人たちこそ響く曲だと言ってもらえたから、アルバムの発表に至ったんだ」。

 

ーーアルバムを聴いたお父さんの反応は?

「アルバムが発表された去年は、父にとって生涯最高の一年になったと思うよ。今年発売された日本版のCDジャケットは父の若い頃の顔写真だし、父のファンも増えたみたいで喜んでた。かつて父は放送の専門学校に通っていて、ラジオパーソナリティになるという夢を持ってたんだけど、家族間でいろいろあって、子供の面倒を見るために専門学校を中退した。でも去年のアルバムの発売を皮切りに、イギリスのラジオ局『BBC Radio 1』などで活躍する人気DJのゼイン・ロウから父にオファーがあり、1日限定でラジオ出演を果たしたんだ! それは1000万人ものリスナーに配信され、私にとっても父にとっても長年の夢が叶ったすごく幸せな瞬間だったよ」。

 

 

Kenny Beats『LOUIE』 国内盤CD

 

ーーでは、『LOUIE』を構成しているサウンドの特徴について教えてください。

「30人以上ものアーティストに協力してもらったんだけど、どの曲に誰が参加しているのか、クレジットには書かなかった。それはなぜかというと、参加アーティストより曲そのものに注目してほしいという思いがあるから。収録しているすべての曲に対して、父や家族という存在を感じて欲しいと思っているんだけど、もしアーティストの名前が出てしまうと(やはりリスナーにはアーティストの好き嫌いがあるから)バイアスをかけて聴いてしまうよね。このアルバムでは、そういった先入観なく、前向きな意味でBGMとして運転中や料理中に聴いてほしいと思ってるんだ。生活の中でこのアルバムを感じてもらえれば、それだけで十分嬉しいよ」。

 

 

ーーなぜクレジット表記なしでアーティストは参加してくれたのだと思いますか?

「それは、友情があったから。彼らはみんな大切な友人で、私の家に来たことがあれば、私の母や愛犬にも会ったことがある。アルバムの制作はたった30日間だけで作ると決めていて、すべて私の自宅で制作が行われた。その30日でたまたま家に来ることができた友人のアーティストたちを誘ったってことなんだ。事前にアルバムの制作のことは言わずに、その場で一節を歌ってもらったり、演奏してもらったりした」。

 

ーーわずか30日でアルバムを作った理由を教えてください。

「とにかく僕はどの仕事においても、そういう制作スピードなんだ。リコ・ナスティーのアルバムは5日間、デンゼル・カリーとヴィンス・ステイプルズのアルバムは3日間で仕上げた。僕の信条として、『考えすぎず、その瞬間の感覚』を大事にしているからだよ。『今この最高の瞬間』を捕らえるためにね。例えば、夢を見たとしよう。起きてすぐだと夢の内容を覚えているけど、時間が経つと忘れてしまうよね。そうやって、フレッシュなうちに感覚を記録しておきたいんだ」。

 

 

ーーあなたの音楽的なクリエイションのインスピレーション源を教えてください。

「ビョーク、ディアンジェロ、FKAツイッグス、ローリン・ヒルたちが今の僕の音楽のバイブルかな」。

 

ーー916日に行われた、日本での初単独公演について教えてください。

「来日は今回で7回目。やっと日本の人たちとの繋がりができたと感じてる。2000年初頭、ラウドパックというデュオを組んでいた時に日本でライブをしたことがあるし、スクリレックスと一緒にフジロックに行った時には、バックステージで美味しいものを食べた思い出がある。でも今は、日本語を5フレーズくらい習得したから、ひとりで街を歩くことができる! ロンドンやアメリカではすでに私のファンやクリエイターのコミュニティができていて安心だけど、日本は食事が世界一美味しいから、日本でも素晴らしいアーティストたちとイベントできることが嬉しいよ」。

楽器メーカーFENDERとコラボレーションした限定のギター

ーーまた、9月の来日では、BLACKPINKのアートディレクターに就任したVERDYとのコラボレーショングッズを作成し、ポップアップを開いていました。そのポップアップは何十メートルも行列ができるほど大盛況だったそうですが、なぜVERDYとコラボレーションしたいと思ったのでしょうか?

「VERDYは唯一の日本の友達。2回目の来日時に紹介されて知り合い、彼のスタジオに遊びに行ったこともある。今年の来日ではCD発売、単独ライブ、ULTRA JAPAN出演といろいろと活動したので、この機会に必ず日本人アーティストのVERDYとコラボレーションしたいと思った。ちなみに、日本人のミュージシャンで初めてプロデュースしたのは、kZmだよ」

 

ーーkZm以外の日本人で好きなアーティスト、またはコラボレーションしてみたいアーティストがいたら教えてください。

「矢野顕子さんと仕事をしたい! 以前からイエロー・マジック・オーケストラなどのJ-POPは聴いていたけど、矢野さんはマック・デマルコのアルバムで出会い、衝撃を受けた。実は、一瞬だけ会ったことがあるんだ。その時は挨拶しかできなかったから、いつかお仕事でコラボレーションしてみたいよ」。

Kenny Beats

ケニービーツ 1991年、アメリカ出身。ビートメイカー・プロデューサー・ソングライター。9歳からギター、11歳からドラム、高校時代には音楽制作を始める。バークリー音楽大学でジャズギターと音楽ビジネスを学ぶ。2023年の世界最大の野外フェス「コーチェラ」出演。

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