Them magazine

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FASHION
Dec 16, 2022
By THEM MAGAZINE

“COMOLI × Nine Inch Nails” Launch Event

2022年9月29日、《コモリ》と「BIOTOP」によるNine Inch Nailsとのコラボレーションを記念したイベントが開催された。都内某所で開かれたイベントではコラボレーションプロダクトが披露されるだけでなく、プロジェクターによって屋外に大きく投影された「COLD AND BLACK AND INFINITE 2018」のライブ映像が上映された。静かに、丁寧に服作りを続けてきた《コモリ》というブランドが、今回イベントを開催した経緯、真髄、想いとは。

このコラボレーション、そして洗練された特別な一夜について語るには、デザイナーである小森啓二郎の言葉とトレント・レズナーへのリスペクトに触れる必要がある。メディア等での稀にみる厳選されたインタビューから彼のNINとトレント・レズナーに対する思いがたびたび述べられてきた。弊誌「Identity」号でも、《コモリ》での服作りとトレント・レズナーとの関連性について語ってくれている。作曲はもちろん、アートワークやライブの演出、パフォーマンスまで、自身の作品とそれをどのように人々に伝えるかというところまで、レズナーは徹底した美意識を細部にまで行き渡らせている。小森にとってトレント・レズナーとは、一人のクリエイションに携わるものとして、自身に大きな影響を受け続けている人物だということがわかる。

 

「Nine Inch Nailsとのコラボレーションをやりません?」きっかけは、「BIOTOP」のディレクターである迫村岳の一言だった。
「迫村さんは以前からオアシスや、ブルース・ウェバーなどのさまざまなアーティストとのコラボレーションをやっていて、これまでも交流を続けていた人なのですが、彼は次のコラボレーションとしてNINをやりたかったらしく、一緒にアイテムを作りませんか?と2020年の7月ごろ、声をかけてくれたんです」

 

奇しくも2020年3月にNINがコロナによる隔離期間、ファンのためにアルバム『Ghosts V: Together』と『Ghosts VI: Locusts』がリリースされた後だった。先ずはプロダクトの進行により「BIOTOP」では過去にリリースされたグラフィックTシャツの復刻をするとの流れだったようだが、一方で小森自身は隔離期間中に愛聴していた、この作品のまだオフィシャルでも作られていないアートワークをプリントしたTシャツを作ろうと考え提案したという。「プリントTシャツは好きで、もともと《コモリ》が作っている定番のTシャツは、90年代中期くらいまでのバンドTに使われるボディがベースとなっていて・・・ただこれまで、一度もうちのTシャツにロゴやグラフィックを入れることを敢えてやってこなかった。どうしても想像できなかった。でも今回の話を頂いて初めて堂々と《コモリ》のボディにグラフィックを載せられると思い、すぐにこの2枚のアルバムのグラフィックをプリントしよう!と直感と高揚感で決めれたんです」

 

《コモリ》にとって記念すべきプロジェクトがスタートすることになるが、この特別な試みを、単なるプロダクトリリースには留めたくなかったと語る。「ただTシャツを作って売って終わり、物販のみ、みたいなものが味気ないなと思ったんです。迫村さんと僕の思いは同様でコラボレーションが叶ったのであれば今回、お店でプロダクトを売るという体験以上の、より立体的な取り組みを実現させよう!と話は進みました。コロナ禍による悶々とした歳月を過ごす流れの中でNINのライブ会場で受けた高揚感を思い出しながら、ライブ会場を彷彿させるゾクゾク感を、映像と音、空間演出で表現する流れになったんです」

 

単なるコラボレーションアイテムのローンチやレセプションパーティとはいいきれない、独創的なイベントを実施することとなる。

 

プロダクトの進行と共に映像、音、空間演出全てのプレゼンテーションがアーティストサイドとスタート。プロダクトの許諾は早かったものの、会場演出に関してのアプルーバルにかなりの時間を要したようだ。

「ライブ会場ってそのアーティストのかっこよさを現すもの。NIN側の立場で考えるなら、初めから最後までかっこよくやり通したものにしたい。大画面で、バスやドラムの低音が爆音で響くような場所で、臨場感がある野外での上映を目指しました。そしてそれを郊外や海辺でやるのではなく、来た人が最後まで楽しめるような東京のど真ん中で行うことによさがあると感覚的に思ったんです」。繁華街のクラブレストランや商業ビルの屋上などいくつかの候補を経て、最終決定した場所は《コモリ》の本拠地である南青山で行うこととなった。

「自分の本拠地である南青山のソリッドでインダストリアルなコンクリートうちっぱなしの抜け感のある空間——最高のスピーカー、音と映像と美味しいお酒——ここの場所しかないと確信しました。トレントさんは完璧主義者で、自身の作品に関して隙がまったくない人物ということはわかっていた。自分の映像と音源を見ず知らずの他人に渡すということの立場になったときに、中途半端なことはできなかった。だから一度、この場所でまったく同じセットを作ってリハーサルしたんです。試験として映像や音響の方をいれて作り上げて、それを資料として送りました」ツアーがスタートしたタイミング等も重なり時間を経て、ようやく実現に至ったと語る。

 

『Ghosts V: Together』と『Ghosts VI: Locusts』のアルバムアートワークのほか、トレント・レズナーのプリントTシャツとフーディを制作した。「写真はカラーとモノクロのどっちを使いたいのか、と聞かれて、最終的に提供してもらったモノクロの写真で作ったんです。そこから1年半ほど経ちイベント上映の話が進んできたタイミングで、映像が送られてきたんです。『モノクロの写真でプロダクトを作るのであれば、上映する映像もモノクロの世界でやるべきだろう』と提案してくれたんです」

2年越しの実現となった当日、会場となった一室の一画には、コラボレーションアイテムがラインナップされた。上映エリアを囲うように設置されたスピーカーからは低音が響き、窓の外越しのコンクリートの壁の一面に、ライブ映像が映し出されている。《コモリ》を取り扱うセレクトのバイヤーから一部のメディア、ブランドにまつわるクリエイター、アーティストなどが訪れた。イベント終盤になっても、ドリンクカウンターの列が途切れることはなかった。この空間には、一斉送信のインビテーションによって呼ばれた “ファッション業界人”の挨拶回りのような雑談は必要なかった。NIN好きな人がグラスを片手に、ただ音楽と映像を楽しむだけでよい時間。小森の一貫した想いが投影されているように感じられるピュアな空間だ。

 

「音響は《コモリ》の顧客さんがやってくれて、映像もその人の紹介でチームを作りました。以前、《クロムハーツ》が周年のイベントをやっていて、イベントがすごくかっこよかった。《クロムハーツ》のPRの方から紹介してもらった恵比寿の「Bar Trench」にドリンクのケータリングをお願いしました。当日はヘッドバーテンダーのロジェリオ・五十嵐・ヴァズさんに来ていただいたのですが、彼もNINのファンだったということもあり、多忙にもかかわらず自分から立候補してくれたんです」

その夜は限られた人々だけのものだったが、《コモリ》に惹かれる人々であれば、きっと心を揺さぶられたに違いない。翌日、NINの公式サイトに今回のコラボレーションに関する記事がアップされた。遠く海の向こうにも、その熱は伝わっているようだ。トレント・レズナーが自らの作品に注ぎ込んだこだわりと同じように、小森がこのイベントにも本質、美意識を反映させていた。「来てくれる人だけでなく、関わってくれるすべての人たちにとって、充実感のある心のそこから楽しめたものであってほしいと思っていました。自分の趣味やエゴのようなものを、この規模でやるために、裏方の人たちが真摯に関わってくれたことへの感謝しかありません。服作りだけでなく、すべてにおいて、いかに人への感謝と丁寧さを大事にしていけるかということを改めて感じました」。会場には長年にわたり《コモリ》のルックビジュアルを手がけ、今回のプロダクトのイメージフォトも撮影したフォトグラファーの守本勝英やクリエイター、お笑い芸人の永野の姿もあった。「守本さんや永野さんをはじめ、来場してくれたクリエイターたちも楽しんでくれたのが嬉しかった。NINのサイトに記事がアップされたのも、守本さんが撮影してくれたビジュアルをかっこいいと感じてくれたからなんじゃないかと思っています。言葉なくても気持ちとセンスで響くんだな…と。『南青山でNIN爆音で聴けたの最高!』永野さんからのコメントもとても心に響きました」

トレント・レズナーの『自分にとり肌がたつ事が一番大事なんだ』という言葉と自分自身の初期衝動を信じ、奮い立たせることで実現できた最高のイベントだった、と小森は最後に語った。

 

 

小森がトレント・レズナーへ宛てた直筆の手紙。レズナーへのリスペクトと、今回の上映イベントへの思いが綴られている。

PHOTOGRAPHY BY MASATO KAWAMURA.
Text_JUNICHI ARAI(Righters).

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