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FASHION
Dec 26, 2022
By THEM MAGAZINE

PORTRAIT OF A PERFORMER by HEDI SLIMANE / Interview with KEVIN PARKER as TAME IMPALA

《セリーヌ》のクリエイティブ・ディレクター、エディ・スリマン自身が、同ブランドの服を纏ったミュージシャンを撮影するプロジェクト「PORTRAIT OF A PERFORMER」。2019年に始まり、これまでジャック・ホワイトやガス・ダパートンらが登場した本シリーズは、いかにエディのクリエイションに“音楽”が欠かせないかを物語り、そしてそれを創る“人”を讚えている。その最新作に指名されたのは、サイケデリック・ミュージックを奏でるバンド、テーム・インパラを主宰するケヴィン・パーカーだ。撮影の舞台となったのは、7月の南フランス。ケヴィンはティアドロップのサングラスにパナマハット、ジャケットとシャツにはデニムを合わせ、燦々と降り注ぐ陽光の中、エディのカメラに捉えられた。テーム・インパラは、2020年2月に最新アルバム『スロー・ラッシュ』をリリース。2021年より、コロナの影響で延期となっていたツアーが再開し、2022年は世界中のフェスに引っ張りだこで、各国のファンを熱狂の渦に巻き込んでいる。多忙を極めるツアーの合間、自宅のあるロサンゼルスで一息つくケヴィンにインタビューを敢行(*2022年10月5日に実施)。エディを魅了してやまないミュージシャンの近況について尋ねた。

 

 

“I’ve come to realize what’s important and what doesn’t matter.”

「何が大事で、何がどうでもいいことなのか、気がつけるようになったんだ」

 

 

――2020年2月の最新アルバム『スロー・ラッシュ』リリース後、すぐにCOVID-19のパンデミックが起こってしまいました。あなたにとって、ツアーができなかったコロナ禍はどのようなものでしたか?

僕はどんなに悪い状況でも、常にベストを尽くそうとするタイプ。飽きるほうが難しいくらいに作曲が好きだから、ロックダウンで家に籠もっても問題なかったよ。ただ、普段とは異なる環境でクリエイティブな仕事をするのも好きだし、ツアーをキャンセルしなければならなかったことなど、フラストレーションがあったのは事実だね。21年からようやくツアーを再開でき、世界を回れるようになって嬉しかった。久しぶりのライブは、とても開放感があって最高だった。

 

――今回、《セリーヌ》の「PORTRAIT OF A PERFORMER」に選ばれました。率直な感想を教えてください。

他にもっとかっこいいアーティストはいっぱいいるのに、フォトジェニックじゃない僕を選んだ彼は、本当にテーム・インパラの音楽が好きなんだと思うね(笑)。

 

――エディには、どのような印象を抱きましたか?

彼とはそれほど長い時間一緒にいたわけではなくて、撮影中のランチを共にし、あとは《セリーヌ》2023S/Sのショーでちょっとだけ一緒になったくらいかな。その短い間での印象はというと、クールでありながらも、熱意に突き動かされている人だと思った。撮影のときは、ただ自分の仕事をこなすのみという感じで、必要以上に個性を出さないところも素敵だったね。そして何より、彼はとても正直な人だ。自分にだけでなく、周りの人たちに対しても正直で、これは本当に素晴らしい資質だと思う。なぜなら、彼みたいにいつも多くの人に囲まれていながらも、みんなに対して正直で居続けるのは難しいことだから。

 

――フロントローでご覧になった、《セリーヌ》2023S/Sコレクションのランウェイはいかがでしたか?

実はファッションショーに参加したのは初めてで、とても嬉しい半面、どこかシュールな気分でもあった。だって、僕にとってファッションショーは、動画や写真でのみ見てきた、夢のような場所だから。今回ついに参加でき、しかも最前列に座ることができたわけで、まるで幽体離脱したかのような体験だった(笑)。ショー自体は本当に最高で、素晴らしいの一言だね。フューチャリスティックな80sパンクを感じた。僕のお気に入りは、オーバーサイズのレザージャケットかな。

 

――ご自身の普段のファッションについて、こだわりはありますか?

特別なものに見えながらも、気兼ねなく着られる服が好きだね。努力していないように見せているけど、けっこう服は選んでいるほうだよ。例えば、ジャケットは好んで着ることが多いかな。

 

――ミュージシャンとして、ファッショナブルであることは重要だと思いますか?

それはその人次第なんじゃないかな。ファッションに関心がないのなら、無理にお洒落をする必要はない。僕自身としては、ファッションのトレンドを追いかけることはないけれど、個性的でありたいとは思っている。他の人と同じように見えるのはまっぴらごめんだし。だから時々、変な格好になっちゃうときもあって、以前は毎日のようにスカーフを身に着けていた時期もあった(笑)。

 

――2021年に娘さんが生まれたそうですが、父になったことで、日々の生活やクリエイティブ面などに変化はありましたか?

もちろん。人生のあらゆる部分に変化があって、新しい視点を得たという感じかな。音楽に対しても、より良いフォーカスを与えてくれたよ。何が大事で、何がどうでもいいことなのか、気がつけるようになったんだ。それが、アーティストとしての自分を大いに助けてくれている。

 

――ツアーが始まると、娘さんと長期間離れ離れにならなければいけなくなりますね。

そう。それは本当に辛い。子供ができたことで、何カ月も家に帰れないツアーミュージシャンがいかに奇妙な職業であるかを思い知らされたよ!

 

――テーム・インパラという自身のプロジェクトの傍ら、レディー・ガガやトラヴィス・スコット、ザ・ウィークエンドなどの楽曲にプロデューサーとして参加されてきました。なぜプロデュース業を積極的に行っているのでしょうか?

他人の音楽をプロデュースするのは、ある種の挑戦なんだ。僕の純粋な表現として、自分のためにやっているテーム・インパラとは、職業として正反対のことだから。誰かのためにやるということは、すなわち良いものでなければならないというプレッシャーがある(笑)。だからチャレンジングなんだけど、仕事って感じがしていいなと思っている。

 

――プロデュースだけでなく、ダイアナ・ロス(映画『ミニオンズ フィーバー』のためのシングル「ターン・アップ・ザ・サンシャイン」)やゴリラズ(「ニュー・ゴールド」)などとの作曲コラボレーションも多く続いています。

そうだね。特にゴリラズは、ルールがなくて何でもありだから楽しかった。(ゴリラズの)デーモン・アルバーンとはロサンゼルスのマリブで待ち合わせをして、2日かけてお互いのアイデアを演奏しあったんだ。とある僕の曲を彼が気に入ってくれ、あれこれといじり倒して可能性を探り、持ち帰って各自の作業をして、6カ月後にリリースされた。参加したのは一曲だけだとしても、ゴリラズの一員になれたのはとてもエキサイティングだった。というのも、彼らは本当にユニークだし、他のどのバンドとも異なるから。

――2022年2月には、『スロー・ラッシュ』のリミックス盤が発表されました。あなたにとってリミックスは重要なのでしょうか?

大事だね。すべてではないけれど、過去のアルバムでも何枚かリミックス盤をリリースしている。リミックスを誰かにお願いするのは、曲を別の角度から解釈できるいい機会なんだ。他のアーティストが、その曲でどんなことができるのか、とても気になるのさ。僕にとっては実験みたいなものだね。

 

――リミックスを担当するアーティストは、どのように決めますか?

それはいたってシンプルで、ブラッド・オレンジやフォー・テットなど、ただ僕が好きなミュージシャンに声をかけているだけ。

 

――最近は、テクノを中心としたダンスミュージックを好んで聴いているとか。ツアーの合間をぬって、バルセロナのニスタ・クラブではDJセットも披露されていましたね。今、ダンスミュージックにハマっている理由は何でしょうか?

最近はツアーの準備もあって、自分の音楽を演奏することに入れ込みすぎているからこそ、なかなか新しい制作に没頭できずにいるんだけれど、テクノには我を忘れて没頭することができる。テクノはとても直感的で、歌詞がほぼないなど、僕が手がける音楽の性質とはかけ離れているから、別世界にいるような気分で聴くことができるんだ。それに、実際に演奏していないのに、演奏しているような気分になれるDJの楽しさにやっと気づき始めたんだ。正直、もっとDJセットを披露したいんだけど、なかなか機会がないんだよね。

 

――ビヨンセやドレイク、少し前ですがフランク・オーシャンなど、アメリカ拠点のアーティストが、こぞってテクノやハウスなどダンス・ミュージックにインスパイアされた楽曲をリリースしていますが、そういった潮流についてはどう捉えていますか?

どうなんだろうね。もちろんビヨンセの新作(『ルネッサンス』)を聴いたりはしているけど、それほど流行を追っていないから、確かなことは言えない。コロナを経て世界が再び開かれ、人々がまた踊りたくなっていることと関係があるのかもしれないね。

 

“I think about Tame Impala every day. You know, I think about what I’m going to do.”

「テーム・インパラというプロジェクトについて考えない日はないよ。自分が次に何をするのかっていうことをね。」

 

 

――あなたもテクノにハマっているとのことで、もしかするとテーム・インパラの次作も、ダンスミュージックに影響されたものになるのかなと。

それはイエスでもあり、ノーでもある。誰にも予測されたくないから、何も答えないよ。確かに僕はダンスミュージックが好きだけど、他のタイプの音楽も好んで聴くしね。まあ、実際のところ、自分でも次のアルバムがどんな音になるかはわかってないんだ。まだまだ手探りの途中だ。

 

――次作の制作は始めているのですか?

テーム・インパラというプロジェクトについて考えない日はないよ。自分が次に何をするのかっていうことをね。音楽に関わる者として、常に新しいサウンドには取り組んでいるけれど、それがテーム・インパラの音になるかどうかは、また別の話さ。

 

――テーム・インパラの今後の活動について教えてください。

アメリカとヨーロッパ編を終えて、やっとロサンゼルスに戻って一息ついていたけれど、来週からは、コロナで2度もリスケジュールしたオーストラリアツアーが始まる。先の話は僕だってわからない。クエスチョンマークだよ。ひとまず23年は、まだツアーを続けることになりそうで、年が明けたらいろいろ見えてくるはずだ。新作については……まあいつかは出るから待っていてほしい。さっきも言ったけど、僕は予想されるのは好きじゃないんだ。

TAME IMPALA

テーム・インパラ 
ケヴィン・パーカーによるミュージック・プロジェクト。ケヴィンは1986年、オーストラリア生まれ。2007年に活動を開始し、2010年にファースト・アルバム『インナースピーカー』を発表。2012年のセカンドアルバム『ロネリズム』はグラミー賞にノミネートされ、2015年のサードアルバム『カレンツ』でその人気を確固たるものとした。

 

 

Interview&Text_KO UEOKA.

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