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FASHION
Oct 27, 2023
By THEM MAGAZINE

ENCOUNTER with NATURE. HUNTING WORLD CRAFTED BY DESCENTE. LAB

HUNTING WORLD CRAFTED BY DESCENTE. LAB BEHIND STORY

  1965年に、冒険家であるロバート・M・リーによって創設された《ハンティング・ワールド》。“バチュー”シリーズをはじめとした、過酷な環境の中でも機能的であるバッグやウエアを作り続けてきた世界的なアウトドアブランドを、日本を代表するスポーツウエアブランドである《デサント》が手がける《ハンティング・ワールド クラフテッド バイ デサント.ラボ》が発表された。柔軟な発想と最先端の技術を誇る《デサント》は、質実剛健なものづくりによる長い歴史を持った《ハンティング・ワールド》というブランドを一体どう解釈したのであろうか? クリエイティブ・ディレクターである山田満の声を通じて、そのコレクションに秘められたストーリーを解き明かす。

HUNTING WORLD CRAFTED BY DESCENTE. LAB Down Jacket ¥209,000 (DESCENTE JAPAN CUSTOMER SERVICE)
HUNTING WORLD CRAFTED BY DESCENTE. LAB Shell Jacket ¥110,000 (DESCENTE JAPAN CUSTOMER SERVICE)

  シームレスダウンのパイオニアである“水沢ダウン”をはじめとした、スポーツウエアの技術や機能をさまざまなシーンやアクティビティに対応したプロダクトを作り続ける《デサント》。そんな《デサント》のもとに、アメリカのラグジュアリー・アウトドアブランドである《ハンティング・ワールド》からのオファーが舞い込んできたという。そしてそれは、《デサント》のクリエイティブ・ディレクター兼デザイナーである山田満が見据えていた、ブランドの未来に向けた新しい取り組みの契機となるものだった。「《ハンティング・ワールド》から声がかかったのはまさに、渡りに船だったんです」と語る。「僕は10年ほど《デサント オルテライン》を手がけていたのですが、そこから一度離れようと思っていた時期でもあったんです。もう一度初心に帰るつもりで、《デサント》として一から新しい挑戦をスタートしようと思っていました」。その“新しい挑戦”というのが、今回のコレクションの名に添えられた《デサント.ラボ》。これまで築き上げた知見と技術をもとに、自由な発想で新しい価値の創造を目的に発足したというプロジェクトで、その名前には次なるフェーズへと向かおうとするブランドの決意が込められている。「物事のすべては点から始まると思っているんです。その“点”を表すドットをこのプロジェクト名に冠しました。ドットは文の終わりを示しますが、次の文に続く一つの区切りでもある。“コネクティング ザ ドッツ(編集部注:点を繋ぐという意。スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチが有名)”だったり、ドットというものに次なる挑戦という意味として捉えました」。この《デサント.ラボ》には、主となる二つの目的がある。一つは“水沢ダウン”のような、エポックメイキング的な新しいプロダクトを作ること。そしてもう一つが、《デサント》社が持つ企画力やテクノロジーを他の企業やブランドに生かそうとする試みだ。「僕のなかでは無形資産と呼んでいるのですが、井の中の蛙にならないためにも企画から生産まで行う《デサント》の強みを他のブランドで取り組んでみたら、どのような化学反応が起きるのかということに挑戦したかったんです」。この二つを掲げ始動した《デサント.ラボ》に偶然、《ハンティング・ワールド》からのオファーが舞い込んできたという。「まさに願ったり叶ったりだと思いました。何かを作るなら、意味のあることをしたい。声をかけてもらったときに《デサント.ラボ》があったから、応えられると思ったんです。オーセンティックな《ハンティング・ワールド》と、テクニカルなものづくりを得意とする《デサント》という立ち位置の異なるブランドの邂逅だからこそ、面白さがあると感じたんです」

 

 

《ハンティング・ワールド》のスピリッツに共鳴した

テックウエアを作る

 

  創設者であるロバート・M・リー自身の経験から、断熱性や撥水性に長け、衝撃を和らげる緩衝性や柔軟性を備えたブランドのアイコニックな“バチュー”シリーズをはじめとした、質実剛健なものづくり。歴史あるアウトドアブランドである《ハンティング・ワールド》を、最先端の技術によるテックウエアが自慢の《デサント》がどのようにして作り上げたのか。山田は異なるバックグラウンドを持つ二つのブランドを、どう一つのコレクションとして落とし込むのかを考えた。「アウトドアという共通点がありましたが、アウトプットとしてはまったく異なっている。《ハンティング・ワールド》のアーカイブや過去の資料などを研究したり、ブランドの方々にいろいろ教えてもらいながら方向性を考えていました。ただ初めから僕の中で明確だったのは、これまでにも数々のデザイナーが《ハンティング・ワールド》を手がけてきたなかで、ブランドのアーカイブを蘇らせるような、単なるリメイクにはしないということ。僕自身、《デサント》というこの会社ではテックウエアだけを作ってきた。ヘリテージを甦らせるということが得意なわけでもないので、自分たちが培ってきたものをどうこのブランドにジョイントさせるかを意識したんです。ボブさんの伝記などを読んでいるうちに、彼自身がそれまで使っていたプロダクトに満足していないところから、《ハンティング・ワールド》を立ち上げ、モノづくりを始めたというブランドの起源にシンパシーを感じた。“バチュークロス”も、当時では最先端のテクニックだったことを知り、自分のものづくりと通ずるポイントを見つけたような気がしました。彼がもし生きていたら、僕たちが今使っているような技術を採用しているのではないか?と。《ハンティング・ワールド》というブランドを《デサント》が表現する上で、プロダクトやデザインとしてのヘリテージを生かすということより、ブランドやボブさんの哲学的な部分に共鳴したものづくりをするべきだと感じたんです」

 

これまでも《デサント》は、《ディオール》や《マメ クロゴウチ》など、国内外のさまざまなブランドとの協業を果たしてきた。しかし今回は、ブランド全体のコレクションを一から手がけていくことになる。そうしたなかで、《オルテライン》などの自社ブランドとの違いをどう表現するかを追求したという。「《デサント》らしさがなくなってしまうと意味がないので、僕たちらしさを残しつつ《ハンティング・ワールド》の哲学を表現する。その着地が難しかった。それでも今回、《ハンティング・ワールド》というブランドを最初からすべて作れるのはチャレンジングでした」。ファーストコレクションのキーとなったのが、アウターに用いたスエード素材。「ファーストサンプルはもっとテックっぽい、別の素材で進めていたんです。ただ思った以上に《デサント》色が強かった。いろいろコミュニケーションを重ねていくなかで、もっと《ハンティング・ワールド》のイメージに近づけようとしたんです」。そこから試行錯誤を繰り返し、たどり着いたのが北陸の素材メーカーが持つ“シンセティック スエード”。《デサント》のアイコン、そして今回のコレクションでも要となるダウンジャケットは、タンブラー乾燥が推奨される。本来乾燥機にはかけられないスエードだが、見た目以上に軽いこの人口皮革スエードは、乾燥機にもかけることができる。「このスエードを使うことによって、《ハンティング・ワールド》の世界観と、《デサント》のクリエイションをうまく調和させることができました」

 コレクションに取り掛かるうえで、まずはこうした素材使いやカラーリング、資材のデザインやラインナップなどの要素を揃えることから始めたという。「最初にデザインしたのはボタンなんです。そこからタグだったり、ホックやジップなど、細かいディテールからいつも詰めていきます。料理と一緒で、作り始める前にすべての材料が揃えることが重要。もちろん最終的に使わなくなるものが出てくることもあるのですが、何より素材が大事なので、まずはとにかく準備に時間をかけていくんです」。一から新しい《ハンティング・ワールド》を作り上げていったが、全体のムードを司るカラーリングやディテールには、ブランドへのリスペクトを反映させていった。「《ハンティング・ワールド》のカラーはすべて自然を連想させる名前になっているというお話を伺いました。カラーというのは最初にイメージとして入ってくるものなので、こちらの希望としてまずグリーンカラーを使いたいというリクエストをしました。ブランドがバチュークロスの生地を送ってくれて、それをもとに染色をしました。それが今回のために一から作った《ハンティング・ワールド》らしいグリーン。そして自然界にあるような淡いカラーリングというものを目指したライトグレー、それと定番のブラックで構成しました」。コレクションを象徴するブランドタグも、1969年ごろの《ハンティング・ワールド》のカタログで見つけた、ゼブラ柄のグラフィックをそのまま転写した。

 

 

オーセンティックとテクノロジーの融合

 

 そうした“下拵え”に1年近くをかけ、ようやく実際のプロダクト制作に取り掛かっていく。コンセプトは“オーセンティックとテクノロジーの融合”。「《ハンティング・ワールド》と《デサント》という、それぞれ異なる立ち位置にいるふたつのものの混じり合いを実現させようと考えました」。《デサント》の技術をベースに、《ハンティング・ワールド》というブランドのコレクションとして求められる機能性を考えた。まずは防水性。《デサント》のアイコンである水沢ダウン同様、アウトドアウエアに欠かせない防水性にこだわった。そして「《ハンティング・ワールド》が持つラグジュアリーなイメージ。車での移動のシーンも多いのではないかと考えると、本格的なアウトドアというより、都市部におけるテックウエアを目指しました。例えば体温調整に優れていること。暑すぎず、寒すぎずというバランスを意識しました」。それはボリューミーなダウンジャケットではなく、よりシャープなシルエットといったデザインに反映され、また内部構造も“水沢ダウン”の“インビジブル”シリーズにも用いられている新しい熱圧着構造を採用。車などに座ったときには空気を逃し、屋外で止まった状態では、ダウンが膨らみまた羽毛のロフト(かさ)が復活する。羽毛には、この構造と相性の良い良質なポーランドのマザーグースを使用し、保温性を保ちながらも、快適な温度を保つ仕様を実現させた。

HUNTING WORLD CRAFTED BY DESCENTE. LAB Blouson ¥110,000 (DESCENTE JAPAN CUSTOMER SERVICE)

 こうして作り上げた全9型のプロダクトによって、これまでにないまったく新しい《ハンティング・ワールド》が完成した。《ハンティング・ワールド クラフテッド バイ デサント.ラボ》は長期的なプロジェクトとして展開され、すでに来年の秋冬コレクションの制作にとりかかっているという。山田は「このコレクションは、《ハンティング・ワールド》というブランドにとってあくまでサブに位置するもの。いかに彼らのメインコレクションに還元できるかということを考えています。僕たちがブランドを傷つけてはいけない。“バチュー・クロス”などの歴史があってのブランドだからこそ、毎シーズン最良のものを目指しつつ、それらがずっと長く残っていけるようなプロダクトメイキングができればいいと思っています」。今後、もう一つの目的である“水沢ダウン”を超える衝撃をもたらすに違いない、まだ見ぬ一着を生み出そうという《デサント.ラボ》。そんな彼らの“可能性を探す旅”への第一歩が、ハンティング・ワールド クラフテッド バイ デサント.ラボ》というコレクションによって今、踏み出された。

MITSURU YAMADA

山田 満 1998年、株式会社デサント入社。スポーツウエアのデザインを担当しオリンピック日本選手団公式ウエア開発を手がける。2008年「水沢ダウン」を開発。2012年《オルテライン》を創設。2013~2020年8期連続でISPO AWARD受賞。2014年GOOD DESIGN AWARD BEST100受賞。2017年繊研賞受賞。2019年よりモード学園特別講師。

STAFF

PHOTOGRAPHY BY KIYOTAKA HAMAMURA.
STYLING BY SHUHEI YOSHIDA.
Model_MAGNUS
Edit_JUNICHI ARAI(Righters).
Interview&Text_JUNICHI ARAI(Righters).

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