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CULTURE
Jul 18, 2023
By THEM MAGAZINE

Japanese Video Creators Vol.2 Pennacky |後編

映像作家・Pennacky(ペンナッキー)氏へのインタビュー後編を公開。

前編はこちらから

 

 

目が離せなくなるような、飽きずに最後までしっかりと見てもらえる映像を作らなければいけないなと思います

 

自分の考えを貫くことの重要性を説き、他のクリエイターならブレーキをかけてしまうような演出もやってのける。そんな彼が映像を作る上で一番意識していることは何なのか。「人それぞれの好みはありますが、誰もが楽しめたり、魅力的だと感じられる“わかりやすさ”を僕は意識して作品を作っています。これはこだわりであり、僕が今直面している最大の悩みでもあります。わかりやすく作っているつもりなんですが、完成したものを見返すとそうではないものが出来上がっていて()。でも、そういう部分を良いと感じて、求めてくれる方もいるのでありがたいですし、それが僕のスタイルであると捉えることもできるので難しい。本当に悩んでます!()」。確かに彼の作品はキャッチーなものだけではなく、ただ見ただけでは意図が理解できない作品もある。また、映像は流れていくという特性上、作り手のこだわった部分を気に留めず見過ごしてしまいがちである。「体感的には自分のこだわりのほとんどが、本当の意味では伝わってないのではないかと思っています。今はInstagramTikTokなど、ショート動画の時代ですし、興味のない部分や飽きたら飛ばし飛ばし見る風潮があることも認識しています。でもそれは見る人の問題とかではなく、こっち(作り手)の問題ですよね。目が離せなくなるような、飽きずに最後までしっかりと見てもらえる映像を作らなければいけないなと思います」

 

 

作り手の視点では、“わかりやすさ”に重点を置き映像を作るペンナッキー氏は、見るものとしての映像は“逃避”でありたいという思いがあるそうだ。見ているときは他のことを何も考えず、スクリーンやスマホの画面に映る世界に没入する。映像作家としてキャリを重ねてきた現在も、SFを入り口として映像に魅了されたときの感覚は変わらずに持ち続けている。「空想的な世界が作れるというのは、確実に映像の魅力として存在していると思いますし、僕が作る映像は、見る人にとって現実とは別世界であってほしいんです。リアルなものを題材に描いていたとしても、生活で悩みを感じているところからポジティブになれたり、現実から一旦距離を置けるような、そんなものにしたい」。彼が手がけたM Vのリアルを題材にした作品のひとつに、Yogee New Wavesのミュージックビデオ「Bluemin’ Days」がある。

Yogee New Waves / Bluemin' Days

Yogee New Wavesというバンドは、“温かさ”と“切なさ”の両方を歌っているアーティストだと思っていて、『夢に向かって頑張っているけどうまくいかない。けど頑張る』みたいな、現実を生きる上で誰もが直面する壁にぶつかりながらも、もがく人物を主人公にしました。あと、“映像も音楽も流れていくもの”というイメージを僕は強く持っているので、その性質にフォーカスして1カット風の映像にすることで、映像と音楽がリンクして楽しめるものになったんじゃないかと思います。実際は1カットではなく、ある程度の長回しを何個か繋げているんですが、リハーサルをして、時間に対してできる動きを何度も確認しながら作りました。また僕から上げさせてもらうポイントとしては、曲盛り上がりのピークと映像としてのピークがリンクするのを意識したので、そういう部分も楽しんでみてほしいです」

 

「今後は映像から作り手の思いをキャッチしたり、楽しむという流れがより高まってきて、誰がどんな思いで作ったかにフォーカスすることが、もっと身近になるときがくると思うんです。」

 

ペンナッキー氏にとって映像は生業とするものであり、健康や、精神安定の面でも重要な役割を果たしている。テレビをあまり見ることはなく流行のドラマやアニメには疎いという彼だが、他のディレクターによるミュージックビデオなどの映像はこまめにチェックし、刺激をもらっている。「他の人が作った映像を日頃から見ていないと、多分、一日中SNSを眺めて堕落した生活を送ってしまう。健全な人間であるためにも、映像は必須です。自分とは異なる視点や感性で作られた映像を見て、自分も負けてられないなとモチベーションにつなげたり、頭の中にあるアイデアをアウトプットする場がなくて、爆発しそうな感覚を抑える感じです。でも、色々見ることで自分の趣向が見えてくる部分もあります」

 

現在は、ミュージックビデオの監督としての認知が高いが、後々は映画監督になることを目指している。「今まで一緒に仕事をさせていただいた全てのアーティストのファンの方々のおかげで、今の自分があると思っています。何か一つの作品で知ってもらえたというよりは制作を続けていくなかで徐々に知っていただいた感じだと思います。今はミュージックビデオの監督としてやらせていただいていますが、それと同時に映画を作ることへの想いがあるので、徐々に10分、20分、30分と時間を伸ばして行けたら良いですよね。実際、予算とスタッフの問題があるので出資してくださる方をいつでも募集しています()YoutubeInstagramは、世に出てきてから10年以上経つと思うし、今後は映像から作り手の思いをキャッチしたり、楽しむという流れがより高まってきて、誰がどんな思いで作ったかにフォーカスすることが、もっと身近になるときがくると思うんです。昔はみんな映画を見るために映画館に足を運んでいた訳だし」映画への思いを抱くペンナッキー氏が、本名の田中賢一郎名義で制作した自主制作SF映画『吉田のぶお』が現在公開されている。スタイリストにはTakanohvskayaが起用され、スタッフィングにもこだわった力作だ。原体験である、東宝ゴジラに通ずるオールドな質感の映像で仕上げられており、彼の作るミュージックビデオにも見られる視点移動やカット割りなど“らしさ”が詰まった作品だ。約20分の本作品はyoutubeで見ることができ、まだペンナッキー氏による映像作品を見たことがない人も、本作品を観ることで、彼の趣向や思考を垣間見ることができるだろう。

 

 

自主制作SF映画『吉田のぶお』 / 出演:小島翔、高橋春織、吉澤慎吾 監督、撮影、編集 : 田中賢一郎 脚本:田中賢一郎、斎藤大知 音楽:big animal theory 録音 : 織田和樹 スタイリスト : Takanohvskaya メイク : 八十島優吾 スチール : 村田研太郎 制作助手 : 武内太郎 プロデューサー : 室谷惠

また、2023年7月1日に台湾の音楽アワード第34屆金曲獎 (The 34th Golden Melody Awards)にて、彼が手がけた、台湾のバンド「落日飛車(Sunset Rollercoaster)」のミュージックビデオ『Little Balcony』がBest Music Video Awardを受賞。彼の映像の魅力は海をこえ世界に広がっている。

Sunset Rollercoaster / Little Balcony

【最新作情報】

自主制作SF映画 『宇宙の中でグッバイマイグルーミーデイズ』

 

現在公開中

【公式サイト】

pennacky .com

 

Pennacky

1996年生まれの映像作家。日本大学芸術学部映画学科撮影コースで映像制作を学び、卒業後東京を拠点に活動。きのこ帝国、OKAMOTO’sやYogge New Wavesなどのバンドや、あいみょん、星野源、V6など著名な国内アーティストに加え、シンガポールやインドネシア、韓国などを拠点とする海外アーティストのMVも制作している。また、ID×《サンローラン》のキャンペーン映像やユニクロのルックムービー、本名の田中賢一郎名義で公開しているショートフィルムなども発表し、活動の幅を広げている。先日行われた、台湾の音楽アワード「第34屆金曲獎」では、台湾のバンド「落日飛車(Sunset Rollercoaster)」のミュージックビデオ『Little Balcony』で、Best Music Awardを受賞。

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