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CULTURE
Jul 11, 2023
By THEM MAGAZINE

Japanese Video Creators Vol.2 Pennacky |前編

注目の日本人映像作家の製作に対する想いを伺う本企画。第一弾の木村太一氏に続く第二弾は、映像作家・Pennacky(ペンナッキー)。インディ、メジャーを問わず、国内はもちろん海外アーティストのミュージックビデオを手掛けている。大胆なカメラワークや演出が印象的なものからストーリーを立てたもの、定点での長回しなどアーティストと曲のイメージをキャッチし多彩な手法で表現する。しかし、本人が積極的に表舞台に出ることはなく、どんな人物であるのか謎も多い。現在26歳という若さながら映像の世界で活躍する彼の作品についてはもちろん。作り手としての悩み、クリエイションへのこだわりなど、多忙なスケジュールの合間を縫い、撮影で訪れていたロサンゼルスから話をしてくれた。

 

神奈川・箱根で育った彼の幼少期はとにかく平凡だったという。「みんなと同じようにウルトラマンや仮面ライダーなどの特撮が好きで、友達と遊んで生活していました」。そんな特撮好きの少年を釘付けにし、映像の道へと導いたのはゴジラ。『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』を見たときの現実離れした世界観と、子供ながらに“おそらく人がやっているのだろう”と感じさせる絶妙な手作り感に魅了された。制作に興味を持つきっかけとなったのは、東宝特撮によるゴジラシリーズ最後の作品である『ゴジラ FINAL WARS』。「祖父がDVDを買ってくれて、そこに特典映像としてメイキングが収録されてたんです。自分が好んで見ていた映像がどう生み出されていくかが明かされていくのが面白くて。そこから映像をつくるという行為に興味が湧いて、ビデオカメラで家の中を撮り始めたのが全ての始まりです」

左: 『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』2003年11月公開。右: 『ゴジラ FINAL WARS』2004年12月公開。

その後、通っていた中学校の美術の先生からある映像を勧められる。「TOMATO(1)っていうクリエイティブ・チームが作ったUnderworld(2)のミュージックビデオを教えてもらいました。それを見たとき、現実とはかけ離れた映像がコラージュされていて、自由な感じがしたんです。これなら自分が思い描くものを好きに表現できると思って。それでミュージックビデオを作り始めました」

 

「本当のところ、クリエイターはみんな頭の中で変なことを考えていると思うんです。僕は、その考えていることを嘘なく、できるだけ忠実に出力したい」

 

彼が作る映像の特徴の一つとして挙げられるのが、破天荒な演出だ。それがみられる作品が韓国アーティストOmega Sapienが所属する音楽ユニットBalming Tigerのミュージックビデオ「Armadillo」。小型カメラを装着した刀を振り回し撮影することによる、酔ってしまいそうな映像や、中華料理屋でおもむろに髪をバリカンで剃り始め、ご飯にのせて食べるなど、他ではみられられないエッジの効いた演出が見られる。

 

BALMING TIGER / ARMADILLO

元々ソロで活動をしていたOmega Sapienのクリエイションに惚れ込みラブコールを送り、その後Balming Tigerのミュージックビデオを制作することになった。「Balming Tigerとはツボが似ていて、僕の妄想やアイデアに全て共感してくれます。そのため歯止めが効かず、良い意味でエスカレートしていきます」。ある意味、自身の頭の中が素直に表現されているというこの作品。一度見ると、攻めたカメラワークや衝撃的な演出が頭に残る。「基本的な手法で撮影すると、三脚を立てて、かっこいい画角を探して撮ると思うんですけど、そうしたくなかった。カメラをつけた刀を振り回して、いくら視点がグルグルしていようが別に撮れていればそれは映像なので、作品に使える立派な素材ですよね。本当のところクリエイターはみんな頭の中で変なことを考えていると思う。僕は、その考えていることを嘘なく、できるだけ忠実に出力したい。ものづくりにおいては、そこに素直に向き合いたい。例えば、爆発させたいと思ったけど予算があまりない。そうしたらその方向性で別の方法を考える。『砂埃で代用できないかな』とか、要は映像として爆発と同じくらいの画力が生み出せればいいので、工夫して自分のイメージを映像化することを大切にしています」。東京で撮影を行った本作は、映像全体を通じて日本的なムードが感じられる。これはペンナッキーの日本的な感性や視点を反映させたもので「日本で育った経験のある人々が持つ、意識しないけど確実に心の中にあるかっこいい場面であったり、親しみやノスタルジアを感じるロケーションを選びました。そこでどんなふうに彼らが映るのか見てみたかった。髪の毛を剃ってご飯に乗せるのは、閃いたというのが正直なところですが、中華料理屋という日本に暮らす方には身近な場所であれをやるからこそ、際立ったものになりましたね」

 

後編は後日公開。

 

 

(※1)TOMATO

1991年にロンドンで結成された、ディレクター、デザイナー、芸術家、作家、プロデューサー、作曲家などが所属している、様々な形式のデザイン、映画制作をするクリエイティブ集団。

 

(※2)アンダーワールド

カール・ハイドとリック・スミスが中心となり結成。3人目のメンバーとなるダレン・エマーソンが加入後リリースしたファーストアルバム「Dubnobass with myheadman」でシーンに鮮烈なデビューを飾り、“Rez”“Born Slippy”といったヒット曲を世に送り出すとともに、世界でその名を広める。2000年にダレンが脱退し2人体制へ移行するもその実力は健在で、2012年にロンドン五輪の開会式で音楽監督を担当。

Pennacky

1996年生まれの映像作家。日本大学芸術学部映画学科撮影コースで映像制作を学び、卒業後東京を拠点に活動。きのこ帝国、OKAMOTO’sやYogge New Wavesなどのバンドや、あいみょん、星野源、V6など著名な国内アーティストに加え、シンガポールやインドネシア、韓国などを拠点とする海外アーティストのMVも制作している。また、ID×《サンローラン》のキャンペーン映像やユニクロのルックムービー、本名の田中賢一郎名義で公開しているショートフィルムなども発表し、活動の幅を広げている。先日行われた、台湾の音楽アワード「第34屆金曲獎」では、台湾のバンド「落日飛車(Sunset Rollercoaster)」のミュージックビデオ『Little Balcony』で、Best Music Awardを受賞。

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