Jul 26, 2024
By THEM MAGAZINE
Interview with Mario Garcia Torres
不可能なこと、偶然を受け入れること、そして不完全な存在である自分自身を受け入れることについての作品なのです。
メキシコシティを拠点に活動するコンセプチュアル・アーティスト、マリオ・ガルシア・トレスによる個展「La Paradoja del Esfuerzo(ラ・パラドハ・デル・エスフエルソ:努力のパラドックス)」が「タカ・イシイギャラリー」にて2024年7月27日(土)まで開催中だ。
ガルシア・トレスは20年間にわたり、ビデオ、サウンドインスタレーション、絵画、彫刻、ドローイングなど、多様な媒体を通して、1960年代と1970年代のコンセプチュアル・アートに関連する美術史およびその個性を追求してきた。彼の作品は、詩的に物語化するというアプローチによって、美術史において未だ解明されていない空白部分に注意を喚起する。思いがけない虚構と現実を並置し相互作用させることで、記憶と理解のずれや曖昧さを浮き彫りにし、現在私たちが直面するより広範囲な問題について再び考察することを促している。
本個展のために特別に制作された22枚のキャンバス作品「ラ・パラドハ・デル・エスフエルソ:努力のパラドックス」は、ガルシア・トレスによる記念碑的作品であり、トナーを用いた平面作品をさらに発展させた絵画シリーズ。数年かけて展開させたこのシリーズは、キャンバスの上にトナー(通常はコピー機などに使われる微細な粒からなる粉粒体)を流し込んで作られる。再現不可能なアクシデントの直接的記録として、このシリーズは動きと周囲環境の関係を交渉し、粒子の漂流のわずかな変化を捉えている。今回は、時間、反復、間違いや失敗に関連する考えの擁護など、彼の作家としてのキャリアを通しての多くの関心を内包しているという。一連の作品群からは、前のキャンバスに描かれたデザインをコピーしようとする努力がなされ、美的な力強さと流動的なスピード感を感じ取ることができる。
そんなアーティストとしての役割の硬直性を超え続けるガルシア・トレスが、Them magazineに今回の個展について語ってくれた。
-1960〜70年代のコンセプチュアル・アートと関連させながら、詩的で物語的な作品へのアプローチを行っていますね。作品を作る上で影響を受けたアーティストはいますか?
うーん、それは簡単な質問ではないですね。なぜならたくさん存在するからです。ただ私は影響について考える必要があると思います。私たちは多くのものに影響を受けていて、それはアート、アイディアに限らずポップカルチャーであったり、私たちの記憶の中に眠っていて人生のさまざまな瞬間に現れることを知らないでいるようなものごとであったりします。そのリストは無限であると言ってもいいでしょう。キャリアをスタートさせた当初は、ロバート・バリー、ダグラス・ヒューブラー、ローレンス・ウェイナーといった最も先鋭的なコンセプチュアル・アーティストの作品に興味をそそられ、その後第二世代のマイケル・アッシャーやダニエル・ビュランの影響を受けていました。しかし今日、私は同世代のライアン・ガンダーやピエール・ユイグ、そしてスペインの歌手ロザリア、デザイナーのジョナサン・W・アンダーソン、ミーム文化、メキシコ人アーティストのパロマ・コントレラス・ロマスから影響を受けています。
-様々なメディアを用いてアート活動を行なっていますが、制作するジャンルを決める時の明確な基準はありますか?
プロジェクトを始めるたびに、私はスクラッチ(ゼロの状態)から始めるようにしています。自分の心を騙して、問題を解決する方法がないと思わせるのは簡単なことではありません。芸術とは、問題を解決すること。どうすれば何かを生み出せるのか?どうやって何かを発信するのか?などのように。
-インスピレーションを得るために、自ら積極的に行動していることはありますか?
私は朝を大切にしています。私の一日の中で最も重要な瞬間であり、心が影響を受けやすい時間だからです。興味のあるものを読んだり、音楽を聴いたりしながら、物事が起こる空間を見つけるようにしています。インスピレーションは心の状態です。
-どのような事象や出来事を目の前にしたときに、作品にしたいと思いますか?
私の作品は、世界に対する反応というよりもアイデアの発展です。もちろん、アート界の議論や発展は私に考えさせ、私自身を議論に加えますが、それはゆっくりとした反応であり、少しずつ作品の関心事に組み込まれていきます。
-今回、タカ・イシイギャラリーに展示するために特別に制作された作品「La Paradoja del Esfuerzo(ラ・パラドハ ・デル・エスフエルソ:努力のパラドックス)」について教えてください。この22枚のキャンバスには、どのような想いが込められていますか?
トナーを使った平面作品のシリーズは、私がここ何年も展開しているものです。私はいろいろなことをやっていますが、このシリーズによく戻ってきます。その根底にあるのは自分の行動をコントロールすることの不可能性だと思います。不可能なこと、偶然を受け入れること、そして不完全な存在である自分自身を受け入れることについての作品なのです。コントロールするふりをすること、そしてそれを手放すことを認めることの葛藤が、アイデアを発展させ続けるために戻ってこさせるのだと思います。確かに、私はまだそれを終えてはいません。La Paradoja del Esfuerzoは、努力のパラドックスと訳すことができます。私は、たとえアイデアやアイデアの表現方法をマスターしたとしても、常に欠点が存在することを暗示したかったのです。
-今回の作品はアンディ・ウォーホルの『影』にインスパイアされたそうですが、どのような部分をもとに自身の作品として表現しようと思ったのでしょうか?
これは、私が主にニュートラルカラーで制作しているシリーズです。タカ・イシイギャラリーでの個展について考えていたとき、ウォーホルの『影』を思い出し私がやっていることとこの象徴的な作品には多くの共通点がありました。両作品は繰り返しから生まれており、私の技法は非常に異なりますがある種のリズムという点で同じ感覚があります。ウォーホルが『影』を制作したとき、彼は特定の空間をカバーするために必要な枚数のキャンバスを作り、同じイメージを何枚もの異なる背景にプリントし、空間の壁をすべて覆い尽くしました。それで私は、そのアイデアを自分のシリーズの展開に取り入れました。ウォーホルの作品と同じサイズにし、色は違えど色面の背景を用い、キャンバスの枚数はタカ・イシイギャラリーの壁をすべて覆うようにしました。これはオマージュと言えるかもしれません。あたかもウォーホルのカバーを作り、私のテクニックを使って新しい『影』を表現しているかのように。
-今回制作した作品に用いた手法は、以前にも用いていたのでしょうか?またどのようなきっかけでこの手法を編み出したのでしょうか?
話せば長くなります。私は画家ではないので、画家のような考え方はしませんが、ここ数年、見ることを伴う制作を心から楽しみ、さまざまな考え方を理解するようになりました。何年か前に、筆を使わずに二次元の作品を作る方法を調べ始めました。その結果、さまざまな種類のダストにたどり着き、トナーにたどり着きました。ダストを操作することでそれまでコピー機で見ていたものを今度はキャンバス上に描くことができ、それに夢中になったのです。
-既に、多岐に渡るアート活動を行われていますが、今後さらに新しく取り組みたいと考えているジャンルはありますか?
アートの世界は常に私の世界であり、そこが私の居心地のいい場所であり、好きな人たちと出会う場所でもあります。でもさらにもっと他のことを探求したいです。昨年は演劇作品を作りました。いつかサーカスやミュージカル、ともするとテレビシリーズを作りたいです。テレビシリーズのような集団的なクリエイションにとても興味があるのです。ミュージシャンとスタジオにいるのは、とてもやりがいがあるでしょう。アートには終わりがないのです!
【開催情報】
会期:2024年6月28日(金)〜7月27日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー
住所:東京都港区六本木6-5-24 complex665 3階
時間:12:00~19:00
休廊:日・月・祝
観覧料:無料
【問い合わせ先】
タカ・イシイギャラリー
TEL.03-6434-7010