Them magazine

SHARE
FASHION
Jun 17, 2025
By THEM MAGAZINE

Interview with SOSHIOTSUKI for LVMH PRIZE

郷愁と新時代のダンディズム

 「2025SSから《ソウシオオツキ》をリブランディングした後、ブランドとしての新しい方向性がどのような評価を得られるかということに興味があって応募しました」

《ソウシオオツキ》のデザイナー大月壮士はファッションプライズ「LVMH Young Fashion Designers Prize」の2025年ファイナリストに選出された。

ブランド創業の翌年2016年にもLVMH PRIZEのショートリストにノミネートされている大月氏だが、2025SSには《ソウシオオツキ》をリブランディング。日本人ならではのテーラーを作りたいという思いをクリエイションに落とし込んだ同シーズンは多くの賞賛を浴びた。

© 1986 Paramount Pictures
© 1995 Heibonsha

 「日本人の精神性とテーラーのテクニックによって作られるダンディズム」をテーマに掲げる《ソウシオオツキ》のクリエイションには、どんな“日本人”がかっこいいのだろうかという、高校生の頃から大月が抱き続けてきた問いが常に根底にある。映画「ガン・ホー」(1986年)では、アメリカ自動車メーカーが撤退した田舎町に、日本の自動車メーカーを誘致する物語が描かれる。日米の貿易摩擦がピークを迎えた時代に、アメリカ人の視点で日本人の勤勉さや義理堅さ、そして陰湿、忖度のある側面が表現された。長野重一は1950年代から80年代にかけて、東京の街を歩きながら都市の日常風景を撮影し、そこに現れるシリアスさとユーモアを捉え続けた。コンプライアンスの意識が希薄だった時代、「24時間戦えますか」というモーレツ社員のムードに溢れた時代の東京を淡々と映し出した。大月はこうした記録を手がかりに日本人の両義的な性質を含む精神性と向き合いながら、テーラリングの再構築に取り組んでいる。そして、自身のブランドを「日本で日本人として暮らしていて、海外の人からは見えづらい視点を与えること」がクリエイティブの軸と話した。

 25SSではバブル期の日本人男性に着目したコレクションを発表。リラクシングなサイズ感、太いピークドラペル、低い位置に配されたポケット、大きくクッションした裾を特徴とするダブルのスーツなどを通じて、昭和サラリーマンの空気感を孕んだ人物像を描き出した。

大月は25SSでテーラードを制作するにあたって、80年代の《ジョルジオ アルマーニ》のスーツを分析。ジャケットはゴージライン、胸ポケット、ウエストライン、袖口のボタン位置までを低く設定し、男性的な威厳を排除。張りぼてのイタリアを表現するために、芯地を排したジャケットに、胸の硬さを表現するために内ポケットにのみ芯地を貼り付けるなど、構造的な実験を重ねた。

 「Made In Italyのタグが付いていただけで服が売れていたような、海外文化の模倣に対する違和感がコレクションの軸にあります。大量消費時代に対する憧れの目線とシニカルな目線を両方持って制作に取り組みました。時代感をニュートラルに捉えるのではなく、両義的な視点を軸にすることで自分らしいアクが出せたシーズンだったと思います」

キャラクターメイキングに重心を置きつつ、「勇気を持って“デザインしすぎない”ことを選んだコレクションだった」と大月は振り返る。「キャラクター性が強すぎるとコスプレのようになってしまう一方で、それをモードに昇華できるかどうかは紙一重。そのバランス感や、プロダクトごとのデザインの“足し引き”、そうした塩梅をとにかく意識しました」

当時の日本人が、厚い肩パッド入りのイタリアスーツを着ることによって生まれた体格差に着想を得たオーバーなサイズ感を、ドレープ感溢れるジャケットやパンツで美しいシルエットを紡いだ。

 25SSで一定の手応えを感じた大月は、25AWではシルエットの改良を行い、シェイプ作りにより注力することができたと振り返る。80〜90年代のバブル時代のムードや、パワーショルダーをどうやって崩していくか。その問いに対し、大月はスカーフやレザーグローブを用いたスタイリングや、ムードを表現するカラーリングとしてアースカラーを基調としたカラーパレットでアプローチを行った。サンプリング元となる「当時あったもの」に《ソウシオオツキ》流のアクセントを加え、まったく独立したスーツスタイルが出来上がった。時代感とスーツの硬さの強弱を分析し、令和版ソフトスーツとも言える、「柔らかさ」をイメージさせるコレクションを制作した。

 

 大月は「《ソウシオオツキ》のテーラーを密に作り込めるようなファクトリーを構えたい」と語る。25SS、そして25AWのコレクションでは和だけではない日本人の精神性を表現した。そこには見過ごしていたものを気づかせてくれる感覚に陥るような、新しさが宿る美しいテーラーの可能性を垣間見た。こうした独自の視点とアプローチが、世界的な注目を集める結果となった。大月はブランド創業から10年を迎える節目に、LVMH Young Fashion Designers Prizeの舞台に、創業翌年以来となる再挑戦で戻ってきた。

9月上旬に行われる最終審査では、25SS、25AWと続く《ソウシオオツキ》の進化、そして“新しい日本のテーラリング”が、国際舞台でどのように評価されるのかに注目が集まる。その瞬間を静かに待ちたい。

 

【問い合わせ先】

MATT.

info@the-matt.com

SHARE