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FASHION
Oct 29, 2021
By THEM MAGAZINE

Interview with Sheikha Hoor Al Qasimi as QASIMI

PHOTOGRAPHY_SEBASTIAN BOETTCHER.

 

「社会問題を人々に投げかけるムーブメントを作り、世界をより良くするブランドでありたい」

――Sheikha Hoor Al Qasimi

 

2008年にロンドンで誕生したブランド《カシミ》。アラブ首長国連邦出身のデザイナー・ハリド・アル・カシミによってパリでコレクションを発表していたが、2019年、突然の訃報により兄妹間でデザイナーを交代することになった。妹のシェイカ・フール・アル・カシミは、独善的なファッションデザイナーとしてではなく、クリエイティブ・デザイナーとして、兄が遺した《カシミ》を忠実に継承している。周囲のビジネスパートナーに支えられ前進する、新生ブランド《カシミ》の軌跡を追う。

 

 

 

 

――シェイカ・フール・アル・カシミ氏(以下、フール氏)のこれまでの経歴、ご職業を教えてください。

「ロンドンにあるスレード美術学校でアートを学び、現在はシャルジャ芸術財団のCEO兼ディレクターです。また、米国のアート機関であるMoMAのPS1(現代美術センター)を始めとした多数の美術館の役員、シャルジャ建築ビエンナーレの会長、アフリカ文化の研究や保存を目的とした学術研究機関であるThe Africa Instituteの会長を務めています」

 

――ハリド・アル・カシミ氏の最後のコレクションとなった20F/W以降、21S/S21 F/W22S/Sを発表されましたね。

「就任当初は、心を許した親友のような存在の兄がいなくなり、悲しみに暮れていました。彼は生前、私にデザインのことを教えてくれていました。それからというもの、私たちはハリドの写真をオフィスに飾り、いつも彼を近くに感じています。オフィスには図書館のようなものがあるのですが、彼の遺したデザインブックやムードボードを置いていつも見返しています。彼は戦争に行った経験があるので、ミリタリー要素はマストでコレクションに反映されています。その他、彼が重視していた中東のカルチャー、政治的メッセージ、ポエム、アラブ文字、建築といったデザインの元となるものも継承しています」

 

――22S/Sコレクションではオレンジやピンクの丁寧なカラーリングが絶妙な調和を保ち、ミリタリーとインド・アラブの伝統が融合していました。このようなコレクションを製作した意図やメッセージを教えてください。

「22S/Sは、シリアの詩人アドニスの詩集『A Time Between Ashes & Roses』をテーマにしています。この詩集は第三次中東戦争後に書かれたので破壊的な印象を持たれるかもしれませんが、決してそうではありません。憂鬱な時代の中でも光を見出すことができるというメッセージを発信しています。今回のコレクションでは、コロナ禍をその詩集になぞらえて、楽観的でカラフルな夏を表現しました。インドやパキスタンの民族からインスピレーションを受け、お祭りで見るような鮮やかなカラーを使用し、田園の風景の中でルックを撮影しました。また、パキスタンジュエリーのデザイナーとコラボレーションしています。このようなアーティストとブランドのコラボレーションは私が継続していきたいと思っていることです」

――クリエイティブ・ディレクターの就任時期とコロナの蔓延が重なったように思いますが、どのように乗り越えたのでしょうか。

「PCR検査をしながら、ブランドの運営や撮影はコロナ禍でも行なっていました。自宅勤務を増やしオフィスの人数を制限して乗り越えました。不幸中の幸いですが、コロナが蔓延したことにより生まれた時間で私はファッションについて学ぶことができましたし、コレクション発表用のフィルムを作ることができました。ご存知の通り、ショーの開催は工夫が必要で、検討の結果フィルムでの発表になりましたが、アート出身の私にとってフィルムの制作は特別なことではなかったので円滑に進めることができました。その時制作したフィルムは21F/Wで発表したものです。仕入先や工場はコロナ禍でも協力的だったので、現在に至るまで連携をとりながらコレクション発表することができています」

 

――今回のコレクションは女性の職人を支援する協議会とコラボレーションされていますが、それは何かブランドからの問題提起があるのでしょうか。

「《カシミ》は、労働に対して倫理的であることを掲げています。そして扱う生地は、なるべくサステナブルであることを意識しています。職人の伝統技術は日本人も大切にする文化だと思いますが、《カシミ》でもブランドと職人がコラボレーションすることで技術が途絶えないよう支援していきたいです。女性の職人を支援する協議会だけでなく、若いクリエイター(グラフィックデザイナー、振付師、ミュージシャン、ジュエリーデザイナー、映像作家)と積極的にコラボレーションしていますが、それは、若い才能を発掘し、お互いにインスピレーションを得るためです。21S/Sのショーではソマリア出身のヒップホップアーティスト・FREEK(フィーク)にコレクションの音楽を委託しました。クリエイターとコラボレーションする際は、ただのコピーにならず、両者の個性が表現できていることが重要です」

 

――《カシミ》を忠実に受け継いでいるそうですが、フール氏のアイデンティティはデザインにおいてどのように反映されているのでしょうか。

「アート出身というバックグラウンドを活かし、アーティストとのコラボレーションというブランドにとって新しい試みをもたらすことができました。私は《カシミ》のデザインチームを尊敬し、信頼しています。私一人でデザインをしている訳ではないですし、デザイナーを気取るつもりもありません。メンバーの意見を尊重し、クリエイティブ・デザイナーという立場でチームをまとめ、一体となって洋服やショーを考えています。そして、洋服をデザインする時は、いろいろな国、文化、バックグラウンドを持つ人たちに受け入れてもらえるように、また、ジェンダーの制限を設けないようデザインしています。そのため、《カシミ》はお客様も一切制限していません」

 

――長年アートの世界に身を置かれているフール氏から見たファッション業界は、どのように感じますか。

「近年、Black Lives Matterが話題になりましたが、まだまだ非白人のデザイナーはファッション業界での地位が確立されていないと感じます。デザイナー以外の職業でも、アートの業界よりファッション業界の方が昇格しづらく、非白人の理解の進みは遅いように思います。また、ジェンダーについては、クリエイションではジェンダーレスの提案ができますが、ファッションビジネスとなるとウィメンズウエア、メンズウエアといった男女の線引きをする習慣が残っていますね」

 

――今後、《カシミ》をどのようなブランドにしていきたいとお考えですか。

「世界をより良くするブランドでありたいと思っています。例えばレバノンで起こっている内戦の犠牲者のために、”Don’t shoot T -shirt”を作成販売し、売上金を赤十字に寄付しました。21A/Wで発表したTシャツはパレスチナのチャリティーTシャツで、売上は病院に寄付されるようになっています。このように《カシミ》を通して、戦争や市民権といった問題、業界の労働環境問題などの社会問題を人々に投げかけるムーブメントを作り、世界をより良くするブランドでありたいです。中東や日本の多くの人にこれらの服を着てもらうことで、問題の渦中にいる人々を助けるきっかけになればと思っています。また、お客様にはネットではなく、実際に着て良さを感じて購入してほしいです。私と兄が幼い頃は、イラクやレバノン、クウェートで頻繁に内戦が起こっていたので、歴史を回顧することはとても大切です。特にレバノンという国はいつも悪い状況にありますので、戦争を象徴したアイテムを作成し、平和へのメッセージを今後も継続して伝えていきます」

Sheikha Hoor Al Qasimi シェイカ・フール・アル・カシミ

1980年アラブ首長国連邦で生まれ、英国で育つ。父親はシャルジャ首長国の首長スルターン・ビン・ムハンマド・アル=カシミ。2019年9月、亡くなった双子の兄のブランド《カシミ》のクリエイティブ・ディレクターに就任。9つ以上の言語を操り、芸術分野における多様性と包括性の向上に向けて女性や非ヨーロッパ系のアーティストを支援している。

 

 

Edit_ CHIHIRO YATA (Righters).

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