Them magazine

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MUSIC
Nov 05, 2021
By THEM MAGAZINE

Interview with SNAIL MAIL “VALENTINE”

“Maybe three minutes is enough to sing what you want to say.”

「言いたいことを言うなんて3分間で十分じゃない?」

−−Lindsey Jordan

 

不穏なシンセサウンドから始まり、サビではスタジアム級のロック・アンセムへ。アメリカンインディの逸材、スネイル・メイルことリンジー・ジョーダンが3年ぶりに放った新曲「Valentine」は、それまでの彼女らしくない、稲妻のように鋭く明快でパワフルだった。

内省的で切なげなファーストアルバム『Lush』をもって、インディ・ミュージック界の期待のホープとして名を知らしめたスネイル・メイル。本日リリースされたセカンドアルバム『Valentine』は、リッチなプロダクションと磨かれたメロディ、一分の隙もなく考え抜かれた構成で、完全にネクストレベルに達している。

前作のツアーを経て深みを増した22歳の面影に、ギター片手に青春を謳うあのころの姿はもう見えない。しかし彼女最大の持ち味である“エモーショナル”さは健在し、さらなる円熟を見せる。

——今作『Valentine』は、ファーストアルバム『Lush』からガラリと変わりましたね。「セカンドアルバムは難しい」とよく言われますが、いかがでしたか?

「『前作を超えろ』という期待がのしかかって、かなり沈んでいた期間があった。他人の言うことを気にしないのは無理で……。だけど、最初から何がいいかはわかるわけないし、好きな曲をつくるしかないという気持ちで制作はスタートした」

 

 

——心境の変化はありましたか?

「前作をつくったのは18歳だったし、単純に心身ともにグッと成長したね。もちろん音楽的な成長もあって、放課後に趣味的につくった『Lush』とは異なり、今作ではあらゆるプロセスに細かく関わるようにした。ミュージックビデオ、プロデュース、シンセやオーケストラを取り入れてみたりなど、いろんなことへ意識を張り巡らすようになった。歌詞も、より成熟した目線で書けたと思う」

 

 

——ボン・イヴェールなどを手がけるブラッド・クックを共同プロデューサーに迎えたのも、大きな変化でしたか?

「ブラッドは私の友達のワクサハッチーを手がけていて、彼女からよく彼の話を聞いていた。彼のファンだったし、一緒に仕事ができて光栄。進行は、制作プロセスの半分くらいまでは私一人でまとめて、それを土台に2人でいろんなアイデアを試して、より強力な音楽にしていったという感じ」

 

 

——前作で楽曲をリードしていたギターは今回鳴りを潜め、代わりにシンセサイザーが多用され、オーケストラやコーラスも取り入れられています。前作と異なったプロダクションの方向性でしたが、初めから頭にあったのでしょうか?

「全体としてポップミュージックのノリを取り入れようとはしたけど、最初から決めきっていたというよりは、一曲一曲を独立して考えながら、良いと思えるサウンドに仕上げていった。だから、曲それぞれで異なるビートやトーンになっている。最終的にはうまくまとまったけど、それぞれの曲が全然噛み合わなくても驚かなかったかも(笑)」

——異なるプロダクションを想定することで、作曲プロセスに変化はありましたか?

「あったね。それまでは、まず歌詞と曲をどちらも下書きし、推敲を経て完成させてたんだけど、例えば今作の『Ben Franklin』は曲が完全にできあがってから歌詞を書き始めた。他には、何時間もミニローグ・シンセを弾いて、メロディを追いながらソングラインが思いつくのを待ったり……今作中の多くのシンセやボーカルのメロディは、この方法で誕生したもの。これまでと異なる方法でソングライティングができたのはよかった」

 

 

——その影響か、今作ははっきりしたメロディが多いですね。

「うん。ポップミュージックからの影響も少なからずある。かなり聴き込んでいたし、ポップ特有の強烈なメロディーは印象的だった」

 

 

——ポップは今作のキーワードのようですね。

「『Lush』のときはオルタナティブばかり聴いてたんだけど、ここ数年で音楽的嗜好はだいぶ変わったね。前作のツアー中はヘッドフォンを離さずにいろんな音楽を聴いていて、ジャズのメロディも好きになったな。新しい音楽を聴くと、強くなった気がしていた」

 

 

——今作でハスキーボイスに変貌しているのは声変わりが理由だと思いますが、制作に影響はありましたか?

「ほんと声変わりがすごいのよ。前作のツアーからどんどん低く、傷ついたようにハスキーになった。っていうか、今もまだ続いているんだけど……。夜に出かけて話しすぎたりして、睡眠時間が短かったりするとすぐ声が出なくなる。クレイジーだよ!だからボーカルトレーニングに通って、喉をヘルシーに保つために頑張ってる」

 

——今の声も素敵ですよ。ところで、今作の多くの曲が3分ほどの短い尺でまとまっていますね。

「これは完全に私の好み。以前は長い曲は最高!と思っていたけど、今はもう耐えられない(笑)」

 

 

——なぜですか?

「んー、たぶん集中しすぎちゃうからかな。今は短ければ短いほど素敵というか、言いたいことを言うなんて3分間で十分じゃない?って気持ち」

 

 

——それは、SNSが影響していたり?

「それはないね。ほぼSNSをやってないから、何が起こっているか知らない。1年くらいInstagramから離れているけどとても快適で、自分の人生を歩めている感じがする。みんな『TikTokでの成功が〜』と言うけど、私はトライしたいとも思わない」

 

 

——あなたは22歳だし、友人の多くはきっとSNSをやっていますよね。世間の話題から取り残されたりしませんか?

「なるなる(笑)。でも、よっぽど大事なことは親友が教えてくれるから。ソーシャルメディアをやってないことで、完全に私の存在を忘れてしまっている人もいそう」

——今作の曲順はどう決めましたか?

「ジグソーパズルみたいで、私の一番好きなプロセス。みんなそれぞれの意見があるから、それを尋ねるのが好き。でも結局は自分の考えを採用するけど(笑)。このアルバムはLPのように2等分できて、すべての曲の終わりと始まりにはとても注意を払った。『Automate』と『Mia』、『Valentine』と『Ben Franklin』の流れはもちろん狙っている」

 

 

——多くの歌詞は「満たされなさ」が原動力になっているように思います。

「そういうテーマはある。本気で誰かを愛してしまったとき、どうしても幻想を抱いてしまうけど、いつかはそれを捨てて真実に近づいていかなければいけない。一方で、せっかくのファンタジーを捨てることは失望を伴ってしまうわけで……」

 

 

——リードシングル「Valentine」のMVもファンタジーと失望の表現であり、ショッキングな内容でしたね。どのように思いついたのでしょうか?

「なんとなくおぼろげなイメージはあって、血やケーキ、自分を軽蔑する人を殺すなど、要素を洗い出してスライドショーにまとめた。それから監督を探し始め、良い演出を提案してくれたジョシュ・コールにお願いした。甘く悲しい曲だけど、映像で目指したのは別のイメージ。ビデオと曲のコントラストがいいと思ってね」

 

 

——アルバム・アートワークのテーマは?

「スタイリストと衣装やテーマ、バイブスについて話しあって、ヴィクトリアン・スタイルがいいんじゃないかと。ジェンダーの形式にはまった感じもクールだと思った。もちろん裏返すためだけどね。ジャケットなどは《グッチ》で、みんなピンクがいいって言ってた」

 

 

——アルバム発表前に聞くのは野暮かもしれませんが、今後の展望は?

「ツアーが待ってるから、今はバンドで練習に励んでいる。『Ben Franklin』のMV撮影も同時進行中。次はもう誰も殺さないよ(笑)」

 

 

Valentine

Snail Mail

(Matador Records/ Beat Records)

SNAIL MAIL

スネイル・メイル シンガーソングライターのリンジー・ジョーダンによるソロプロジェクト。1999年、アメリカ生まれ。2015年にEP 『Sticki』、16年にEP『Habit』をリリース。18年、〈マタドール・レコーズ〉よりリリースされたデビューアルバム『Lush』で大きくブレイクする。3年ぶりとなるセカンドアルバム『Valentine』を11月5日リリース。

 

Photography_ GRAYSON VAUGHAN.

Text_ KO UEOKA (Righters).

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