Jan 14, 2022
By THEM MAGAZINE
Interview with BONOBO “Fragments”

“Just try everything. Try unexpected things.”
「とにかく何でもやってみて、予想外のことを試していく」
−−Simon Green
ボノボこと、サイモン・グリーンによる7作目の新アルバム『Fragments』がついにそのベールを脱いだ。
ジャミーラ・ウッズや、Joji (ジョージ)、ジョーダン・ラカイら豪華ゲストがフィーチャーされ、ジャズや世界の伝統音楽からのサンプリングなど、ボノボ特有の世界観は今作でも継続。
爆発的なボルテージでブレイクビーツが鳴る「Otomo」や、ジャミーラ・ウッズのヴォーカルとハープの甘美なハーモニーが響く「Tides」など、ハイとロー、ハードとソフトを自由に行き来しながら、うねるようなスペクトルが聴く者を圧倒する。
ボノボ史上かつてないほど動的なアルバムに凝縮された多様な感情は、このパンデミックに影響されたとのことだが、いったい彼に何が起きているのだろうか?
「音楽は今の自身を反映するもの」と語るボノボの今のムードを探る。
——前作『Migration』は、ツアーで世界を駆け巡り、バスや飛行機、ホテルで過ごした“移動と旅”がキーワードでした。しかし今作では、コロナによって真逆のシチュエーションを強いられることにとなりましたね。
「このアルバムはコロナ前から作り始めていたけど、コロナで社会のすべてが止まってしまったとき、時間はたくさんあるにもかかわらず、表現したいことが何も思い浮かばなくなってしまった。なぜなら屋外で何かを見たり、人と直接話したりといった、自部屋以外での経験ができなかったからね。コロナ初期は、多くのミュージシャンと同じく『いい制作期間になる』なんて思っていたが、数ヵ月後の僕は空っぽの状態になってしまったという。2021年の初めに社会が徐々に動き始めてから、ようやくまた作曲に取り組み始めたんだ」
——「音楽は今の自身を反映するもの」と以前に仰っていましたが、今回はどうでしたか?
「特に2020年の状況は酷かったし、感情の高低やフラストレーションを多く経験した。だからアルバムには、とてもラウドな音が鳴ってダイナミックな動きをする瞬間もあれば、ただ受容し穏やかに過ごすような瞬間もあって、そのダイナミクスは過去最大に振れたね」
——新曲を作る際、制作途中の音源をDJの現場でプレイして感触を確かめるのが通例とのことでしたが、今回はできなかったですよね。
「見通しが立たないから、不安だった。代わりにドライブや散歩中に聴くなど、とにかくスタジオから離れて現実の世界で聴いてみることを重視した。でも、実際に現場でプレイしてみないとわからないことも多いのは事実。今年の夏にようやくいくつかのショーでプレイできて、何がうまくいっているかを確認できたから助かった」
——さてアルバム一曲目の「Polyghost」は、クラシックや映画の劇中曲を彷彿とさせます。
「この曲は前菜のような役割で、アルバムにあるテクスチャーやサウンドの多くを表現していると思う。最初はもっと長い曲で、強めのドラムが入っていたが、結局は短くして小さなセクションにまとめた。ロングバージョンは、今後リリースされる予定」
——今回もゲストアーティストが多く参加していますが、いつもどのように決めていますか?
「その時、自分がワクワクする人を選んでいるだけかな。ジョーダン・ラカイがとても好きで、彼は友達だからとても簡単だった。カディア・ボネイは、お願いしたい人リストの最初の一人だったね」
——ヴォーカルに関して、歌詞は相手に任せていますか?
「そうだね。根本のテーマについては事前に話すけど。例えばジャミーラ・ウッズとの『Tides』は、潮の満ち引きのごとく、物事は繰り返しながらも動いていてずっと同じではないというアイデアだった」
——収録曲「Otomo」は日本語っぽい響きですが、もしや……。
「そう!実は漫画家の大友克洋に由来している。強烈なリズムと讃美歌の合唱が、まるで『アキラ』のサウンドトラックみたいじゃないかとね。面白いテクスチャーだと思って、ブルガリアの合唱団の楽曲『100 Kaba-Gaidi』をサンプリングしたんだ」
——そうなのですね。ブレイクの効いたダイナミックな展開は、あなたにとって珍しい気がします。
「共作してくれたオフリン(O’Flynn)のおかげ。曲ができ上がりつつあるタイミングで何か他の要素が必要だと感じ、よく聴いていたオフリンに曲を送ってみた。すると、彼が手を加えて送り返してきた曲には、ブレイクビーツのセクションが入っていたんだ。この曲を自分では想像し得なかった、別の場所に連れて行ってくれた」
——「Closer」では、以前に自身がプロデュースを手がけたアンドレア・トリアーナの曲「Far Closer」をサンプリングしていますね。どのように自分で自分が手掛けた曲をサンプリングするに至りましたか?
「ビートと曲のアイデアにあうボーカルサンプルを探していて。ハードディスクをひたすら探し、アンドレア・トリアーナのレコーディングを見つけて、いろいろ試してみるとこのフレーズがぴったりだった。自分のプロセスはいつもこんな感じで、とにかく何でもやってみて、予想外のことを試していく」
——それでも、アルバムはきちんと一貫性がありますよね。アルバム一連の流れはどのように意識していますか?
「ひたすら曲を作って、最後にやっとバランスを考える。ダンスフロア向けの曲がたくさんあるときもあれば、もっとメロウな曲ばかりのときもあるから、調整しないと。もう一つのアルバムが作れるほどに、収録されなかった曲は溜まっているよ」
——ジャミーラ・ウッズをフィーチャーした「Tides」では、ハープの「小さなループ」を使っているそうですね。その他にも、ハーブの音色は今作で重要な役割を担っていますが、なぜ取り入れたのでしょうか?
「ドロシー・アシュビーやアリス・コルトレーンのような、ジャズの音に近い人たちのハープの音色が好きなんだ。スピリチュアル・ジャズで聴くことのできるハープが特に。今回はハープ奏者をスタジオに呼んで、1時間ほど演奏してもらった素材をサンプルソースとして使用した。そうすると、ひとつのハープサウンドがレコード全体に縫い込まれているように聴こえる」
——ジャズといえば、最後の曲「Day by Day」は、スイングを吹く管楽器がフェードして終わりますが、どのような意図だったのでしょうか。
「それは、円を描くように一周して元の位置に戻るためのものだね。アルバムの中にはエモーショナルで悲しい局面もあるが、楽観的で希望に満ちたこの曲は、このアルバムの最後を飾るにふさわしいハッピーエンドになったかと」
——ジャズは、以前からずっと取り入れて続けていますね。
「今回は以前ほど直接的ではないが、ジャズのスピリットは常にあるつもり。メロディの自由さや、すべてが少し緩んでいてちょっとしたカオスの中での即興性のようなものだね。それはハウスミュージックにおいても本質だと思う」
——アートワークは、前作、前々作に引き続きニール・クラッグ(Neil Krug)が担当しています。
「他の方向性も考えたけど、ニールのアイデアが素晴らしかったから。前回は砂漠のような落ち着いたランドスケープだったが、今回は“動き”を強調したヴィジュアルにした。彼は本当に才能のある人だと思うね。2022年には、彼とインスタレーション・プロジェクトをやる予定だよ」
——ファーストアルバム『Animal Magic』(2000)から20年以上が経過しました。これまでのキャリアを振り返っていかがでしょうか?
「とても長い道のりだった。昔作った曲はあまり聴かないが、たまに聴くと日記のように当時の自分を思い出すことができる。とても懐かしいし、誇りにも思っている。数々のショーや訪れた場所を考えるのはエキサイティングだ」
——今後の予定は?
「コロナの状況次第だけど、2022年はツアー行脚となる。どこかのタイミングで、ダンスフロアに特化した新譜を自分のレーベルからリリースするのでお楽しみに」
『Fragments』
Bonobo
(Ninja Tune / Beat Records)
ボノボ サイモン・グリーンによるソロプロジェクト。1976年、イギリス生まれ。現在はLAを拠点に活動。2000年にデビューアルバム『Animal Magic』を発表。7作目となる『Fragments』は、2022年1月14日にリリース。〈Ninja Tune〉とパートナーシップを結び自身のレーベル〈Outlier〉を運営、同名のクラブイベントのオーガナイズも行う。
Photography_ GRANT SPANIER.
Text_ KO UEOKA (Righters).